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第16話 デート開始

【バスの中】

バスの車両のほぼ真ん中に座った亜沙美と太一。待ち合わせ場所のバス停に走ってきた太一は、まだ息が整っていなかった。そんな彼に亜沙美は持ってきた手さげ鞄(カバン)の中から水筒を取り出し、水筒の蓋のコップ部分を渡す


「あっ、助かる。サンキュな…ゴクゴク…ふぅ…」


全てを飲み干すと蓋(コップ)を亜沙美に返した。蓋を閉める亜沙美。横にひと息付けた太一の顔がある

(そう言えば…人の顔がこんなにスグ横にあるなんて、いつ以来だろう?あは、コミュ障にも程があるな、私…)


「んっ!?どうかしたか?」


亜沙美がずっと自分の顔を覗き込んでいる事に気が付いた太一は、何だか恥ずかしくなったので質問をする事で、その恥ずかしさを紛らわす事にした


「いやさぁ、太一って昔から時間に正確だし、嘘つくのとか凄く嫌う性格だったじゃない?…なのに今日は遅刻してきてさ、どうしたのかなぁ?ってね」


「遅刻してねーだろ?そりゃギリギリだったけどよ、何とか間に合ったじゃねーか…それよりも普段の亜沙美の方が、確実に遅刻してるだろ?」


「むぅ〜…まぁ、そうなんだけどさ。いつもは、そんなギリギリになる様なことも滅多に無かったじゃん?珍しいなぁ…って」


「うっ!?あー…」


太一が待ち合わせ時間にギリギリになってしまった理由。それは…昨夜、早めに寝ようと段取りはソツ無く終わらせて、いつもより早い時間に布団に入ってはいたのだが…


太一は異性と2人キリでデートなどした経験が無かったので、当日のことを考え出したら緊張してしまい知らぬ内に夜更かしして、完全に睡眠不足になってしまったのである。そんな太一に亜沙美は…


「どったの?顔が赤いけど…もしかして体調が悪かったりするとか?本当に今日、大丈夫?私との約束を守ろうとして無理してない?」


純粋に太一を心配した亜沙美は、顔を近付けて彼の顔色をチェックした。が、異性とのデートの意識が抜けない太一にとって、急接近してきた亜沙美の顔により更に緊張感が増してしまった


「だ、大丈夫だって言ってるだろーがっ!!」


「うひゃ!?ちょっと!そんな大声出さないでよ…ビックリしちゃったよぉ…」


イキナリ大声を出されて驚く亜沙美。太一は恥ずかしさがマックスになり、無意識に出た照れ隠しで声が大きくなった様だが…


「ガシッ!」

すると、不意に背後の人の手が太一の右肩を掴んだ。「えっ!?」驚いて振り返る太一


「なぁ兄ちゃんよぉ…彼女とデートでテンション上がってんのかも知れへんけどなぁ…公共の場で騒ぐのはマナー違反やと思わへんけ?…あぁん!?」


強面(コワモテ)の30歳過ぎくらいの男性が、引きつった笑顔で太一を睨んで注意してきた


「そ、そうですね。失礼しましたっ!」


男性の迫力にたじろんだ太一は、裏返った声で必死に謝罪していた


「くっ、ククククク……」


彼の横で大きな声にならないように、必死に笑いを我慢している亜沙美らを乗せてバスは【縄島スパーランド】に到着した




【縄島スパーランド】

「さっきのバスの中の太一ったら、おっかしーの!笑いを堪えるのに必死になっちゃったわ!あははは♪」


先程の太一の様子を思い出し、気持ち良く笑っている亜沙美。そんな彼女にクレープを差し出す太一


「早く忘れてくれ!ほらよ、頼まれたクレープ。チョコ苺メロンバナナだったよな?」


「ありがとうね!遊園地で歩きながら食べるクレープ、小さい頃からの夢だったんだ!プークスクス(笑)」


「そんな事くらい友達と来れば何時でも出来るだろーが。それと、いつまで笑ってんだよ!」


「あはは…ごめんねぇ。でもさぁ…ウチはお父さんが私が小さい頃に亡くなったじゃん?それからお母さん、ずっと忙しそうに働いてるからさ…家族では来れなかったし…そもそもコミュ障の私じゃ、友達作りってハードル高くてさ(笑)」


(亜沙美…まだ父親が亡くなった悲しさを引きずっちまってるのか…)


笑顔の亜沙美にドキッとさせられた直後、家族のことを寂しそうに話す彼女に黙ってしまう太一だった




続く

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