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No.06『我が名は』

『前回の最後に出てきた4人は、しばらく名前を伏せつつ登場する予定だから、白い髪を長く伸ばし、シスター服を着た女性は『シスター』。一つ目の描かれた、不気味なアイマスクをした。紫色の短髪少女は『アイマスク』。金髪をカールさせた、色黒で、いわゆる『ヤマンバギャル』のメイクをした女性は『ギャル』。ロボットのような手足の生えたアイアンメイデンは『アイアンメイデン』と表記する。』


​──────────


 シスター、アイマスク、ギャル、アイアンメイデンの4人が、『モルガナ』に背を向け、空間の穴に向かう。


「『あ!お待ちください。』」


 突然、『モルガナ』は自身の後ろにあるカーテンをどけ、棚を漁る。

 4人が不思議そうに彼女を見ていると、『モルガナ』は炊飯器ほどの大きさの、黒い四角い機械をアイマスクに渡した。


「『この前、お前が置いてった、『絶望を抽出して飴にする機械』。暇な時に直してやったから。』」


 『モルガナ』が頭を掻きながら言うと、アイマスクは笑顔を見せる。


「『サンクス。『モルガナ』ちゃん。これでまた、人と絶望を味わえるヨ。』」


 笑顔のアイマスクを見て、アイアンメイデンが『モルガナ』に言う。


「『あいつの機械を直せんなら、儂のこの体も。儂、自らが食事せんでも栄養が取れるようには出来んか?』」


 アイアンメイデンの問いに、『モルガナ』は欠伸をしながら言う。


「『暇だったらやってあげるよ〜。』」


「『今は暇でないと?』」


 再び問われた『モルガナ』は、真剣な目で答える。


「『そうですね。そろそろ観察に戻りたいので。』」


「『そうか…、仕方ない。』」


 アイアンメイデンは、空間の穴から外に出る。

 彼女につられて、3人も空間の穴から外に出た。


 ──────────


「いっつ。」


 タケルが痛む頭を、抑えながら目を覚ます。


「ここは?」


 タケルは、周りを見回す。

 ふかふかなベッド。少し汚れている所があるものの、手入れの施された天井。

 彼は、今までの宿ではなく、新しく購入した屋敷の中で眠っていた。


「(そういえば、あの事件の後、ボロボロになりながら、ベッドに戻ってきたんだっけか。)」


 タケルが、覗きの制裁を受けた後のことを思い出していると、ドアからノックが聞こえる。


「すみませ〜ん!この、クソカス変態覗き魔ご主人様〜!」


 ドアからはエルスの声が聞こえた。いつもなら言い返す悪態だが、今の彼にはそれが出来なかった。


「な、何でしょう…。」


 何故か丁寧な言葉使いになるタケル。

 彼に答えるように、エルスは言った。


「クソカス変態覗き魔様にお客様です。さっさと起きて対応しやがれください。」


「お客?誰だろう。」


 エルスの言葉ご主人という単語すら消え去った事に、ツッコミを入れることもせず、彼は玄関へ向かう。

 タケルが玄関のドアを開けると―――


「『やぁ、タケル君。新居購入おめでとう。祝いの品を持ってきたぞ。』」


 自身の顔の近くで右手を振る『モーガン』の姿があった。


「お前、何しにしたんだ?」


 タケルは彼女を睨む。

 しかし、彼女はそんなこと気にもとめず、玄関を通る。


「『祝いの品を持ってきたと言っただろう?ついでに、君の仲間達に挨拶もしたいしな。』」


「なら、なんで玄関から入るんだ?いつもみたいに謎の穴から出てくればいいのに。」


 タケルの問いに『モーガン』は歩きながら答える。


「『初対面でそんな事をしたら、驚かせてしまうだろう?挨拶は第一印象が大切だからな。』」


 タケルは、彼女の言葉に顔をしかめる。


「だとしたら、俺に対するお前の第一印象は最悪ムーブは、なんだったんだ。」


 ──────────


「『ワタシは『モーガン』。タケル君とは友人関係にある者だ。』」


 『モーガン』はエルスとチリに対して、机を挟んだ位置にあるソファに座り、自己紹介をした。

 チリは、彼女の挨拶に慌ててお辞儀をする。


「え、えっと私はチリです。死霊術師ネクロマンサーです。」


「まさか、このごみクズ変態野郎に友達がいるなんて。」


 エルスは笑顔で、タケルを見る。

 タケルはそれに「ははは。」と乾いた返しをする。

 それを見て、『モーガン』が顎に手を当て、頭傾げる。


「『おや?ハーフエルフとは、まだ仲良くなっていないのかい?随分な言われようじゃないか。』」


 それに、タケルは、『モーガン』を睨み答える。


「ああ。お前のおかげですっかりこのとおりだよ。」


「『ワタシのおかげ?最近ワタシがしたことと言えば覗きを強制したことぐらいだが…。』」


 そこまで言って『モーガン』は、表情を変えず、ぽんっと手を叩く。


「『それか!』」


「それだよ!」


 タケルのツッコミを見て、チリさんが遠慮がちに聞く。


「あ、あの…。覗きを強制したというのは?」


「『なに。昨日君達は温泉にいただろう?やはり、温泉と言えば覗き。だから、そのシチュエーションを見るために、タケル君に協力してもらったのさ。』」


「この方の思考どうなってるんですか?」


 エルスの質問に、タケルが答える。


「安心しろ。めちゃくちゃイカれてる。」


「『随分といってくれるじゃないか。』」


 『モーガン』が「『がはは。』」と笑うのを無視して、エルスが、タケルを軽蔑の目で見る。


「とは言え、変態様がこの方に協力したということは、やはり覗きは変態様自身の意志ということですよね。」


「うっ。」


 タケルが何も言えないでいると、『モーガン』が笑顔で答える。


「『ああ。タケル君に、「覗きをするか、この町の皆の命を失うかどちらか選べ」と言ったら、快く覗きに協力してくれた。』」


「え?それって…。」


 チリのその言葉に、『モーガン』が言う。


「『そうだ。タケル君は君達を守るため覗きをさせられたのさ。このワタシにな!』」


「何故、この変態様を庇うのです?貴方が、私達を殺すことと、変態様に覗きをさせることになんのメリットが?」


 エルスの質問に、『モーガン』に答える。


「『メリットはあるさ。ひとつの町が滅びる時にどんな反応をするのかを見れるか、風呂覗きする男の様を見れる。どちらに転んでも研究ができるのだから。』」


 エルスは『モーガン』を睨む。


「まぁ、貴方がとてつもなく狂った方というのは今までの発言からも、分かりますし。一旦、ご主人様の覗きは強制で本人の意思じゃないって事にしてあげます。」


 とは言いつつ、エルスはタケルを睨んでいた。


 ──────────


「『そういえば、君達にプレゼントがあったんだ。』」


 『モーガン』が、持ってきた紙袋を漁る。

 そこから、タケルの足から腰までの大きさを持つ空色の剣を飛び出す。


「おい!完全に袋に収まりきれない大きさのものを最初に出すなよ!」


 タケルのツッコミに、エルスが呆れる。


「そこじゃないでしょう。なんで、この人は平然と袋に収まらない大きさの物を取り出してるのかをツッコミなさいですよ。」


「いやだって、こいつ自室から物を転送してくるし。」


 タケルのその言葉に、チリは驚きの声を上げる。


「転移魔法ですか!? そんな伝説でしか聞いたことのない魔法を使う人なんて本当にいるんですか!?」


「え?そうなのか!?」


 チリはタケルの言葉に驚きの声を上げる。

 チリはそれに頷く。


「五千年以上前の伝説ですが。その昔、世界に滅びを齎す存在が現れ、その時に集まった七人。その1人が、転移魔法を使ったことがあると。今まで私が聞いた中で、転移魔法を使える人物はその人だけです。」


「五千年前!? お前、まさか、今何年生きてるんだ!」


 タケルの問いに、『モーガン』は笑う。


「『何を言ってるんだ君達は、ワタシはその伝説の人物などでは無いさ。確か、その伝説の人物は『モルガナ』という、超絶美少女ではなかったかな?ワタシとは名前も容姿もちがうではないか。合っているのは、どちらもこの上なく美しいというだけじゃないか。』」


「そ、そうか。」


「自分から美しいというのか。この人は。」


 タケルとエルスが、『モーガン』の言葉に若干引く。


「それで、貴方が伝説の人物じゃないとして、なぜ転移魔法を使えるのですか。」


「『なに、そんなもの君達が知らないだけで、どこにでもいるぞ。ワタシのような奴がな。』」


 『モーガン』が改めて剣を持ち直し、タケルに渡す。


「『そんな話はさておき、君にこれをあげよう。試作品だがな。』」


 タケルが剣を受け取る。


「あ、ありがとう。」


「『少ししたら、使用感を教えてくれ!サイズや重量も確認したいしな。』」


 『モーガン』はその後、エルスの方を向き、袋から、小さな空色の宝石が1つ付いた指輪をチェーンにハメたネックレスを取り出す。


「『ハーフエルフの君にはこのネックレスをやろう。』」


「は?いや、いらな…。」


「『まぁまぁまぁ。いいじゃないいいじゃない。』」


 拒否するエルスを無視して、『モーガン』がエルスの後ろにまわり、ネックレスを付ける。

 そして、その後彼女は、エルスの耳元で何かを囁く。


「だとしたらやはり、私に向かないのでは?」


 何かを聞いたエルスは、そう『モーガン』に聞くが、『モーガン』は笑顔で答える。


「『まぁまぁ。持っておきなよ。それで使う時が来たら、感想を聞かせておくれよ。』」


 そう言い終わると『モーガン』は、次にチリの方を振り向く。


「『さて、君にはこれを渡そう。』」


 『モーガン』は袋から、容器に入ったクリームを取り出し、チリに渡す。


「あ、ありがとうございます。なんですかこれ?」


 チリの質問に笑顔で返す『モーガン』。


「『君の持つまな板・・・に、夢と希望・・・・を齎す薬だ。これまた試作品だが…。』」


 『モーガン』がそこまで言うと、チリは『モーガン』を押し飛ばす。


「余計なお世話です!さぁ、もう帰ってください!」


 チリが『モーガン』を玄関の外まで押し出す。


「な、なんか悪いな。」


 部屋に戻るチリと入れ替わるように玄関に来た、タケルが『モーガン』に謝る。

 彼女はそれに笑顔で返す。


「『いいさ。怒らせること言ったのはワタシ出しな。』」


「そういえば、今回持ってしたもの、全部『試作品』とか『試して欲しい』とか言ってたが、もしや今回渡してきたもの全部お前が作ったのか?」


「『ああ。だからデータが欲しいんだ。よろしく頼むよ。』」


「俺らは『モルモット』って訳か。」


 タケルが溜息気味に言う。

 それに対して『モーガン』は不思議そうに言う。


「『モルモット?何を言っているんだ。ワタシは『人間』である君の使ったデータが欲しいのであって、モルモットが使ったところで意味が無いだろう?モルモットはモルモット。人間は人間。実験の結果が変わるかもしれないのだからな。』」


 タケルは『モーガン』の言葉にゾッとする。

 そして、もう1つ不穏な言葉があったことに気がつき、話題を持ってくる。


「そういえば、風呂の件ありがとうございます。」


「『いや、構わないよ。元々ワタシのせいで好感度が下がったんだからな。その罪滅ぼしって訳だ。』」


「ところで、あの時言っていた。『町を滅ぼされた時の反応を研究したい』みたいなこと言っていたが、あれは嘘だよな。」


 タケルの質問に、『モーガン』が笑顔で返す。


「『ワタシは今まで嘘などついてないぞ。冗談はよく言うが。』」


 タケルは笑顔でそういう『モーガン』に恐怖を覚えた。


 ──────────


「なんなんですか、あの人は!」


 3人はギルドの食堂に集まり、席に座っていた。

 チリは『モーガン』が帰って行ってからずっと不機嫌だった。


「何を貰ったんだ…。」


 それに困惑するタケルに、青い服を着た店員が近寄る。


「すいません。ご注文はお決まりでしょうか?」


「ああ、すみません。え!?」


 タケルは店員を見て驚く。

 その店員は、金色の髪を伸ばし、両側でカールさせ、まるでドリルのような形になっている。さらに、肌はこの町ではあまり見ない程黒く、目の周りには白い線をいれている。


「(昔に流行った、ヤマンバギャルってやつか?この世界だとこういうのが流行っているのか?)」


 タケルはそう思って、エルスとチリを見る。

 ただ、タケルの予想は外れていたらしく、彼女たちも若干引き気味だった。


「どうかいたしましたか?」


 ギャル店員は、その見た目に似合わず、丁寧に聞く。

 タケルが、「いえ、なんでもありません。」と言った後、3人は注文をした。

 タケルとエルスは、『オークのソーセージランチ』とラコ。チリは、『ミノタウロスハンバーグ』とファイアカクテルを注文した。

 チリの注文を聞いた後、店員は目を丸くした。


「あら?今日って何かのお祝いだったりするのですか?昼間からカクテルを飲む人が2人もいるなんて。」


 タケルは、店員の言葉に、「他にもいたのか。」とつぶやく。

 すると、店員が手でタケルの向いている方向にあるテーブルを指す。

 そこには、ランスロット達がいた。


「ランスロットさん!?」


 チリの言葉で、ランスロットは彼らに気づく。


「ん?チリにタケル!お前らもいたのか!」


 ランスロットとジャンヌが、3人のいるテーブルに近づく。

 ただしジャンヌは若干、タケルから距離を開けていた。


「どうした?ジャンヌ。」


 ランスロットの質問に、ジャンヌが頬を赤らめながら答える。


「えっと、そのぉ。昨日の温泉でいろいろありまして…。」


 それを聞いて、ジャンヌの言いたいことを察したチリは、「あ、その事ですが。」とジャンヌに耳打ちをした。

 ジャンヌは、チリの言葉を聞き、「そうだったんですね。」と納得した。


「2人は何の話をしているんだ?」


 首をかしげるランスロットに、タケルが「そういえば。」と話を逸らす。


「ランスロットさん達は今日、休みなんですか?先程、カクテルを飲んでいる人がいると聞いたのですが。」


「ああ。ドロシーが昨日、魔法の使い過ぎで寝込んでいたからな。彼女だけ、特別今日は休んでもらっているんだ。今日は俺とジャンヌ。それとモモンさんと行くつもりだ。」


 ランスロットが、元居たテーブルで青いカクテルを飲んでいるドロシーを指さした。


「あ、ドロシーさんはまたフリーズカクテルですか?」


 チリが、ドロシーの元へ行って話す。

 ドロシーはその言葉に、のんびりと返す。


「そうだねぇ。ほら、私ぃ。お酒弱いじゃん?フリーズカクテルは時間たっても冷たくてぇ。いいよねぇ。」


 ドロシーの答えに、チリは納得する。


「ああ。ドロシーさん、一杯を長時間かけて飲みますもんねぇ。」


 そんな会話をしている時に、ギルドの扉が開く音がする。

 6人が音のした方を見ると、『モモン』がギルドに入ってきたところだった。


「モモンさん、集合までに時間かかったな。」


「ワルイ。ハラクダシテイタ。」


「またか。胃腸が弱いのか?」


「ソウカモ。」


 ランスロットと『モモン』が話していると、ギャル店員が現れた。


「お食事とお飲み物をお持ちしました!」


「ああ。ありがとうございます。」


 席へも戻る、タケルとエルス、そしてチリ。

 タケルは、一瞬『モモン』がギャル店員を見て目を細めたように見えた。


「ドロシー。カクテルは飲み終わったか?」


「終わったぁ。」


 ランスロットの質問に、テーブルに突っ伏しているドロシーが、コップを持ち上げ言う。


「んじゃ、モモンさんも来たし、今日はおいとまするわ。じゃあな!3人とも。」


 ランスロット達はそう言ってギルドから出ていった。


 ──────────


 3人が食事をしていると、鎧をガシャガシャと鳴らす音が近づいてきた。


「パーティ募集の貼り紙を見て、参上つかまつった。まだ募集はしているだろうか?」


 タケル達は、声のした方向を見る。

 タケルは、「そういえば、貼り紙を回収してなかったな。」と思いつつ、新たな仲間に期待をした。

 しかし、タケルはその期待は直ぐに裏切られたと思った。


「我は死。」


 それは紅き鎧を身にまとい、


「我はこう。」


 それは紅く前後に刃のある大鎌を携え、


「我はれん。」


 紅きマントを揺らし。


「我は聖騎士パラディンにして、全ての命を刈り取る者なり。」


 尖った紅き短髪を、紅の兜に隠し、紅き目をした、ほぼ紅一色の少女。その右目は眼帯に隠れていた。


「我が名はデュラン!デュラン=ホリナ!パーティ加入を要望せん!!」


 その少女。デュランは右手に持つ鎌を斜め上へと上げ、何かのポーズをとる。

 そんな彼女のくびは───


「うわぁ!?」


 ───左腕に抱えられていた。

 タケル達はその姿に驚く。


「ふむ?その反応を見るに、決めゼリフと決めポーズとやらは、成功したらしいな。あの少女に感謝せねば。」


 デュランがタケル達の方へ歩いてくる。


「お、お前…、そ、それ早く治療しないとじゃないか?」


 タケルはデュランの首を指さす。

 デュランは目を瞑り穏やかに答える。


「む?この眼帯か?気にする必要は無い、これはいわゆるファッションと言うやつだ。今の我は見ての通り、威厳があまりないのでな。困っていたら蒼き少女からアドバイスされ、この眼帯を身につけているという訳だ。」


「そ、そっちじゃなくて…。」


 慌てるタケルに、デュランは「あっ!」と、気づく。


「この首か?この首も心配せんで良い。我はデュラハン。この姿に生まれた時既に、我の頭と体は別れておる。」


 デュランの言葉に、チリは驚く。


「え!? デュラハン!? 世界に3人しか生まれないと言う、神様にとても愛された聖騎士パラディンのみが死した時に新たな生として生まれる種族ですよね?」


「ま、我の場合。神に嫌われ過ぎたのだろう。我自身、神を崇拝しておらんし。2度、死を味合わせたいのだろう。」


 チリが、タケルの元へ向かい、詰め寄るように近づく。


「絶対パーティに入れるべきですよ!デュラハンにまでなると言うことは、聖騎士パラディンの最上級スキル『セイクリッドソード』も使えることが保証されてますし。」


「お、おう…。だ、だけどね…。」


 タケルはチリに押され気味になるものの、ちょっと変な人の雰囲気を出すデュランを仲間にすることを躊躇する。


「うむうむ、分かるぞ。こんな見た目だ。まるで幼子のような我の力を疑問に思うのは無理なきこと。」


 デュランは背中に鎌をしまい、胸の甲冑からクエストの紙を取り出す。


「故に、1つクエストを見つけてきた。仮として我をパーティに入れてもらい、納得いくならば次からもパーティとして入る。と言うのはどうだろうか。」


「は、はぁ。まぁ、実力が極端に良ければ性格面はいいか。」


 タケルはボソッとそう言うと、クエストの内容を確認する。

 内容は『『トニス村』の孫に、荷物を届けてもらいたい。』との事で、星のマークには色がついてなく、代わりに?マークがついていた。


「なんだ?このはてなマークは?」


 タケルの疑問に、チリが答える。


「それは難易度が不明なものですね。状況によって変わったり、未知のものであったり。最近『トニス村』は最近、外から連絡が取れなくなってますし、それまでの道によく盗賊が出るので、そのせいかと。」


「なるほどな。ありがとう。」


「いえいえ。」


 2人の会話が終わったのを確認して、デュランが言う。


「昨日の1件で、魔物が減り、高難易度のイベントがあまり無くなったのでな。難易度が分からぬのは恐ろしいが。まぁ、我の実力を測るには良いかと思う。」


「報酬も高いし、それじゃあこのクエストやりますか。」


 タケル達は席を立った。


 ──────────


 タケル達はクエストの依頼人である、おばあさんから荷物を預かり、『トニス村』へと足を進める。


 森を進んでいる時、先頭に立つデュランが言った。


「そういえば、お主らに言わんといけんことがある。」


「なんだ?」


 タケルの質問に、デュランが答える。


「我は、見ての通り、自分の首を左手に抱えておる。故に、我は盾を持つことが出来ない。」


「ああ。改めて何故そんなことを。」


「ドラゴンのブレスやら、大魔法のような範囲の広い技から仲間を守るスキルとか、盾を使うスキルが使えないって事ですね。」


 タケルの質問にチリが答えた。


「いや!ダメじゃん!!」


 タケルのツッコミに「ふっ。」と笑うデュラン。


「確かに、我は範囲の広い技からお主らを守れぬ。そこはお主らで守って欲しい。だが───」


 デュランが、一瞬で最後尾にいたエルスの後ろに回る。


「───何も、奇襲等からお主らを守れぬ程、弱くもない!!」


 デュランは、背後から襲ってきた盗賊のナイフを、鎌で受け止めていた。


「後ろから奇襲とは、騎士道の欠片もない卑怯な戦い方だな。」


 デュランが、茶色のボロい服を着て、顔に十時の傷を付けた盗賊を睨みつける。


「卑怯じゃわりぃかよ!クソガキ!」


 盗賊がデュランを睨む。

 デュランは「ふっ。」と笑う。


「いや、人の戦い方に文句は付けぬ。だが卑怯者であるならば、我はお主からの不意打ちを警戒し、正面からの戦闘をせねばならぬなと、確認をしたまでだ。」


 デュランと盗賊が距離をとる。

 デュランが盗賊を睨みながら言う。


「気をつけてくれよ。お主ら。森の影に東に3人、魔法使いか。西に2人、弓兵ってところか。」


「えっ!?」


 タケルはその発言に驚く。

 盗賊も驚いていた。


「まさかそこまで正確にバレるとはな!」


「仲間を守る騎士故に、この程度造作もない。」


「ちっ。この赤いガキは後回しだ!お前ら後ろのやつをやれ!」


 盗賊が叫ぶ。


「そうはさせぬぞ。若者よ。『死の宣告』!!」


 デュランの左目が紅く光る。

 すると盗賊が、デュランから視線を外せなくなっていた。

 森に隠れていた他の盗賊も姿を現し、武器をデュランへと構える。


「あれは!」


 タケルが驚いていると、エルスが興味なさげに言う。


「あのランスロットとかいう男もやってた『ガーディアン』でしょ。なんか名前違うけど。」


 ナイフを持つ盗賊が、雄叫びを上げデュランに襲いかかる。


「『不可視の盾』!!」


 デュランはナイフを、鎌で受け流す。


「あれは!?」


 タケルが再び驚く。そして今度はチリが答える。


「『パリイ』ですね…。剣で相手の技を受け流すスキル。なんか違うこと叫んでましたが。」


 デュランは、盗賊のナイフを受け流した後、返す刃で盗賊を斬り裂く。


「『不可避の剣』!!」


「あ、あれは…?」


 今度はエルスとチリの2人が答える。


「『カウンター』。『パリイ』から続く反撃スキルですね。」


「え?」


 しかし、エルスの声だけが遠くに聞こえ、タケルはその方向を見る。

 エルスは、森に隠れていた、2人の弓を持つ盗賊を小刀で斬り殺していた。


「いつの間に!?」


 タケルが驚く、そしてチリも感心する。


「さすがの身のこなしですね。私達も負けていられませんね!我が剣よ!彼らにボーンスラッシュ!」


「え!?」


 タケルが、チリの方を見ると、チリが杖で示す方向には、3人の魔法使い盗賊がいて、その後ろにスケルトンがいた。

 スケルトンは、3人の盗賊を、横一文字に斬り裂いた。


「2人ともいつの間に!?」


 驚いているタケルに、エルスが近づきながら言う。


「ご主人様とは違って、私は仕事ができますからね。」


 チリは苦笑いで言う。


「ま、まぁ。デュランさんが作ってくれた隙を利用しないと、彼女の努力が水の泡ですし。」


「お、俺。一応リーダーなのに仕事出来なさすぎか。」


 落ち込むタケルの背を、背伸びしながら叩くデュラン。


「落ち込むことは無いぞ、若者よ。人には人の得意不得意があるものだ。」


「ははははは。」


 乾いた笑いをしながらタケルは先に進む。

 他の3人も、タケルに続く。

 目指すは『トニス村』。未知の場所である。

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