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簡単に作れても美味しく出来るとは限らない!
霜月
恋愛現代恋愛
2024年10月30日
公開日
1,823文字
完結
ある日仕事から帰ると家から良い匂い?!

なんと、普段ご飯なんか作らない彼女が夕飯を作って待っていた?!

その出来栄えは?!

さぁ、食え!! 湊!!!

めしうまっ!


 僕の嫁は料理が出来ない。いや、まだ入籍をしていないから嫁ではない。料理は疎か、掃除もあまり得意ではない、今後、妻になる予定の10歳年上の彼女。



 世の中的にはキャリアウーマンと呼ばれる類の女性であり、僕より収入が高い。今一緒に住んでいる家だって、彼女の家だ。



 23歳の僕はそんな、彼女の言動の全てを許容している。たとえ、料理が作れなくても、家の掃除を微塵もしなくても、喉を通らないような不味い弁当を僕に渡して来ても、理解不能な考え方を押し付けられても、全てを愛している。



 今日も仕事が終わり、愛する彼女の待つ家へ帰る。帰ったらまずやることは料理。共働きのため、惣菜を買って来てくれることはあっても、彼女は仕事のある日は、夕飯を作ることは、ない。



 それでも良いと思っていても、少し寂しいこの頃。



 玄関扉の前までくると、今日はいつもと違った。



「ご飯の良い匂いがする……」



 鍵を差し込み、部屋へ入ると、キッチンに立つ彼女の姿が目に入った。ぉお!! 料理をしているではないか。衝撃。婚約してから、こんなこと一度でもあっただろうか?



 いや、ないな!!!



 彼女のそばにより、フライパンを覗き込む。なんの魚かは分からないが、小麦粉がまぶされた魚がバターで焼かれている。こ、これはムニエル!!!



「ムニエル?」



 そっと後ろから抱きしめ、彼女に問う。



「あぁ、ムニエルだ。調味料で味付けし、小麦粉を振りかけてバターで焼けばバカでも作れる、と書いてあった」

「いや、そんな風には絶対書いてないでしょ……」



 キッチンカウンターの上に置かれたスマホを手に取り、内容を確認する。表示されたレシピには『簡単に作れる』と記載されていた。どういう解釈の仕方してんの。めちゃくちゃ過ぎでしょ。



みなと。出来た」



 皿が2枚渡され、受け取る。魚の乗った皿をテーブルへ運ぶ。きつね色に焼かれた魚の上にはチーズが乗っており、出来立てのあたたかさで、とろりと溶けていた。美味しそう。



 テーブルにご飯、味噌汁、箸と順番に並べていく。向かい合って席につき、手を合わせた。



「「いただきます」」



 僕が箸を取ると、彼女はニコッと笑い、口を開いた。



「早く食え、湊」言い方!!!

「言われなくても食べますって……」



 まだか、まだかと目を輝かせ、僕のことを見つめる彼女は、33歳のくせに子供のような無邪気さがある。その可愛らしさにいつも全てを許してしまう。



 皐の期待に応えるかのように、魚に手をつけた。



「……こ、これは……」

「なんだ、言ってみろ」



 口の中にある魚を飲み込む。テーブルに置かれたコップを掴み、口内へ水を流し込んだ。ごくごくごく。コップをテーブルに勢いよく置いた。



「魚そのものから海を感じる。まるで僕自身が、魚にでもなっているかのように、海水が口全体へ広がる。そして、そこに混ざる野生的で爽やかな香りと濃厚なコク。それが調和され、口内で聞こえないメロディーが奏でられる!!! とても水が進みます。(訳:塩辛くてクソまずい)」


「素直に不味いと言ったらどうだ」



 黒い瞳が僕を見つめる。不味いなんて、言えないさ。だって君が一生懸命作ってくれた夕飯なんだから。



「不味くないよ、美味しいよ」

「そうか、なら私の分も食べるんだな」



 僕の皿の上に、皐の食べかけのムニエルが積み重なる。



 淡白な味の魚は塩気が引き立ち過ぎて、魚本来の良さなど、感じることが出来ない。皿の上に乗せないで。僕も自分の分で精一杯だから。



「…………(要らない)」

「ありがとう、ゆっくり食べてくれ」ひどい。



 ひどい。欲しいなんて言ってないのに。



 立ち上がり、どこかへ行こうとする彼女の手を掴み、引き止めた。



「ご飯、作ってくれてありがとう」



 席を立ち、彼女のそばにより、抱きしめる。小さくて、小柄な彼女はすっぽりと腕に収まった。



 お気に入りだと、自慢するほど気に入っていたはずの白いブラウスは、脂が跳ね、染みになって汚れている。着替えないで作るほど、急いでた?



「どう致しまして。もう二度と作らない」

「そんなこと言わないで、また作ってよ」




 腕の中から見上げる彼女にそっと唇を重ねる。少し開いた口唇に導かれるように、舌を差し込み、絡め合う。




「ん……はぁ…んっ…んん… はぁ……」




 快活なメロディーと共に、お風呂の湧き上がりを知らせる音がリビングに鳴り響く。




 唾液が混じり合い、甘い吐息を漏らす彼女の耳には、そんな音楽、もう聞こえやしない。




 さぁ、今度は君が可愛い鳴き声を奏でる番だよ。




 彼女の肩に手をかけ、優しく床へ押し倒した。




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