わたしの名前は太朗。これから話す事は、不思議な同僚の話だ、聞いて欲しい。
わたしは三ヶ月前、ある会社で働くようになった。業務の詳細はよく知らない。頼まれた事をしっかりとこなすだけだ。
仕事の効率も良く、間違いをしないわたしだが、他人から近寄られる存在ではなかった。ぶっきらぼうな様子が気に食わないのだろう。しかし、これを治す気は毛頭なく、社内では、一人浮いた存在となっていた。
そんな中、一人の男がわたしに近寄ってきた。秀一と呼ぶ男だ。
彼は見た目が若く、仕事も手早い、愛嬌がありよく笑う。社内では人気者らしい。
そんな秀一がわたしによく絡んでくるのだ。
初めのうちは何故近づいてくるのか、理解出来なかったが、毎日顔を出す秀一を、わたしは次第に受け入れた。もちろん、周りの人間も不思議がった。秀一は物好きだと言葉をこぼす人も多かった。そんな事も気にせず、秀一はわたしに絡んでくる。
そんな秀一だが、彼はよく笑う。何か面白い話をと頼まれ、考えた小ボケを呟けば、彼は大いに笑った。どんな事でもだ。ほんの些細な事でよく笑い、わたしには全く理解が出来ない。
あまりに笑う様子から、彼が脳の病気を患っているのではないかと考え、病院に連れて行った。病院に行こうと言った時は、彼は大いに笑い、はいはいと言って着いてきた。検査の結果は特に異常ないとの事。益々わからなくなってきた。
次に、秀一を神社に連れて行った。悪霊の仕業だと考えたからだ。これもまた、秀一は大笑いしたが、あっさりと承諾し、悪霊払いの儀も順調に終えた。この時、肩が少し軽くなった気がすると、彼は言っていたが、わたしとしては効果がなかったと思える。
これでわたしの手数はなくなった。フリーズしたわたしを心配したのか、秀一は言った。
「ぼくは病気でも、悪霊に憑かれているわけでもない。ただ心の底から面白いと思っているから笑ってしまうんだ。太郎、君との日常が面白くてたまらないよ」
理解が出来ない。ぶっきらぼうなわたしと居て面白いだなんて、やはり彼は物好きだ。
「そうそう、今日は七夕だよ。会社の道中にある小さな公園。あそこに笹が用意されていただろう。願い事でも書いてかないか」そう言ってわたし達は公園に向かった。
丁度二人分のベンチに腰をかけ、用意した短冊に黙々と願い事を書き出した。わたしも願い事を書く事にした。秀一が健康になりますようにと。
わたしは短冊を秀一に渡し、彼はそれを笹にくくり付けた。すでに数多くの短冊に彩られていた笹だったが、大人でないと届かない位置は、数が少なかった為、そこにくくった。少しでも天に見てもらいやすいよう、意味があったのかもしれない。
そういえば秀一は何を願ったのだろう。気になったのでわたしは聞いた。
「太朗が健康でいられますように」お互い考えることは同じか。そう思った。
なんとなく、短冊を眺めていた。すると、心地よいそよ風が吹き、笹をなびかせた。短冊達は離れぬようにしがみつき、その腹をちらつかせた。
「太朗が人間になり、笑った姿を見せてくれますように」
秀一の言葉と、短冊の内容は異なっている。何故だろう。そして短冊の意味、まるでわたしが人間ではないように書いてある。
不思議でしょう。わたしの同僚。