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第101話 佐竹の家の為

「呆気ないな……」


 南部利直は城内に入り、ひれ伏す降伏した者達を見る。


「良くぞこ決心なさった。お主達の処遇は追々決めると致す。まずは兵糧を運び出したい。協力してくれるか?」

「勿論にございます」


 大垣城の将の代表の者が頭を下げる。


「これよりは徳川方として力を尽くしとう存じます」


 利直は頷く。


「うむ。頼んだぞ」

「は!」


 利直は頷くと、その場をあとにする。

 その後を佐竹義重ともう一人。

 義重の嫡男、佐竹義宣であった。


「義宣。兵糧の差配は任せる。儂は利直殿と共に今後の策について話し合う。任せたぞ」

「は」


 義宣は頭を下げる。

 そして、二人はその場を後にする。

 すると、大垣城の将が義宣に近づく。


「義宣様。某ともう一人が代表して兵糧の差配について担当致しまする」


 すると、先程の大垣城の将ともう一人が頭を下げた。


「うむ。宜しく頼む」




 その後、佐竹義宣と二人の将は個室にて話し合っていた。


「さて、早速……」

「その前に、一つよろしいか」


 佐竹義宣は少し戸惑いつつも頷く。


「まず、某の名前は後藤又兵衛にござる」

「儂は斎藤徳元と申しまする」


 その言葉を聞き、義宣は刀に手をかける。


「くっ! 謀ったな!」

「待たれよ! 我らに義宣様と敵対するつもりはありませぬ!」

「……儂と、と言うことは……」


 徳元は頷く。


「あなたを、調略したいと考えておりまする」




「成る程……」


 又兵衛は頷く。


「儂を調略するためだけに城の中に敵を引き込んだのか。自分達を死んだ事にして」

「いえ、それだけではありませぬが……」


 又兵衛は義宣を見ながら言う。


「これ以上は言えませぬな」

「ならば、何故儂を調略しようとしているか聞こう」


 徳元が口を開く。


「貴方様は関ヶ原の折、豊臣方に味方しようと動いていたと聞いておりまする。此度もあまり気乗りがしていないのではありませぬか?」

「……」


 義宣は静かに話を聞く。


「もし、義宣様にその気があるのならば、ご協力して頂けませぬか。この戦、どう見ても豊臣方が有利。この戦で負けた者達は一体どうなるのやら……」

「……もし、お主等についたら勝てるのか?」


 徳元は頷く。


「一つ申し上げるとすれば、義宣様がどうしようと、我々の勝ちは揺るぎませぬ」

「……」

「ただ、この戦による死者の数は双方共に増えまするな……義宣様がこちらに付いてくれれば、多くの人の命が救われ、佐竹の家とお父上の命は守られるでしょうな」


 義宣はしばらく考える。

 そして、頷き、決意する。


「分かった。石田殿へ恩を返すことも出来なかった今、石田殿の意思を継いで豊臣の為に働こう……石田殿を討った織田殿に味方するのではなく、豊臣に味方しよう。……で、どうすれば良いのだ」

「良くぞご決断なされた。この徳元、そして又兵衛殿、黒田長政殿が必ずや佐竹の家を守ってみせまする」


 徳元は懐から文を取り出す。


「策はここに記されておりまする。決行は今夜」


 義宣はその文を受け取り、中身を確認する。


「……ふむ、面白い」

「では、宜しく頼みましたぞ」


 かくして、佐竹義宣の調略は成った。

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