「三郎殿。信康様。ご無事で何よりにございます」
「真田様。こちらはやはり勝たれたのですな。安心致した。」
東海道の豊臣方は命からがら上田へと逃れた。
徳川の追撃はあれ以降殆ど無く、無事に上田へと逃れることが出来たのだった。
「さて、北陸の戦況についても話は入ってきておりますが……」
「三郎殿!」
「おお、秀則殿!」
すると、昌幸と三郎、そして信康達のいる部屋に秀則が入ってくる。
「お久しゅうございます! ご無事で何よりです!」
「秀則殿。落ち着いて下され」
秀則は三郎に久々に会えた事が嬉しいのか、信康達がいることを忘れて三郎と話す。
「三郎殿。こちらでも色々とありましてな……」
「秀則様。落ち着いてくだされ。三郎殿が困っておりますぞ」
すると、秀則の後ろから男が入ってくる。
「三郎殿。お初にお目にかかる。有楽斎にござる」
「……有楽斎……殿」
三郎は一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻した。
「岐阜よりここに至るまで、秀則様をお支え致した。関ヶ原では徳川方につきましたが、今は織田家の人間として力を振るっておりまする」
「信雄様の嫡男、秀雄殿と共に昌幸様や有楽斎様から様々なことを……」
「……秀則様」
すると、昌幸が口を開く。
「そろそろよろしいかな?」
「……失礼しました」
秀則は状況を理解し、頭を下げる。
「秀則様。お話はまた後程」
「あ、ええ、では……」
秀則は頭を下げると部屋を後にした。
「では、話を戻しましょう」
「はい」
昌幸は話し始める。
「北陸については勝ちを収めたとの事です。しかし、上杉の主力は未だ健在。予断は許さぬ状況ですな」
「されど、北陸に五万の大軍は不要。少しは兵を割くことも出来まするな」
有楽斎が補足する。
「左様。中山道については敵はほぼ全滅。問題はありませぬな」
「……では、次の戦場は……」
昌幸は頷く。
「岐阜辺りになるでしょう」
「伊達によって尾張が落ちた今、兵力の大半を東へ向けていては大阪が危ない……岐阜も留守になっている以上、瞬く間に大阪が落ちても……」
そこで、三郎は一つ思い出す。
「何故、我々東海道を進む軍は海を進む伊達軍に気付かなかったのでしょうか……」
「その事ですが、恐らく夜間に一気に進んだのでしょう」
「夜間に……大軍を移動させる事が可能ですか? 灯りか何かで気付きそうてすが……」
昌幸は頷く。
「方法はいくらでもありまする。例えば、船と船の間を縄で結び、先頭の船のみ灯りを灯す。さすれば遠くからは一隻しか無いように見えまする。まぁ、正確にどういう方法を使ったのかは分かりませぬが、夜間に動いたのは間違い無いでしょうな」
そして、昌幸は続ける。
「因みにですが、岐阜には既に豊臣方が入っておりまする。大阪がすぐに落ちることは無いでしょう」
「……どうゆうことですかな?」
「淀殿が念の為と、毛利、長宗我部、島津等の西にいる諸将を集めたそうにございます。」
昌幸の説明に有楽斎も補足して付け加える。
「大阪にも兵をおいておりますが、どの戦線にもすぐに援軍を送れるようにと岐阜に兵を入れたそうです」
「では……」
昌幸は頷く。
「これよりは全軍を岐阜へと集め、東海道を進み、尾張に入った徳川秀忠軍との決戦にて、勝敗を分かつのです」
「決戦……」
昌幸は三郎の肩に手を置く。
「三郎殿。この戦の決着は近いですぞ。相手も勝つためにありとあらゆる手を打つはず。決して油断なされるな。少しでも手を間違えれば、この戦、負けますぞ」
「……されど、決戦の地は決まっておりまする」
三郎は頷く。
「いざ、西へ……織田家の再興の始まりの岐阜へ、行きましょうぞ」