「かかれ!」
先鋒、本多忠勝が敵陣に突入する。
「井伊の赤備えの力をとくと見よ!」
本多隊の突入を井伊直政が助ける。
徳川家重臣の二人を相手に徳川兵達は恐れをなし、まともに戦えなかった。
しかし。
「くっ! 流石に厳しいか!」
「本多殿! 一度引くぞ!」
井伊直政と本多忠勝はすぐさま兵を引く。
いくら猛将の二人と言えども多勢に無勢。
被害が大きくなる前に引いた。
しかし本多忠勝は立ち止まり、振り返った。
「聞け! 我が殿は、今我らに降ればお咎め無しだと申された! よくよく考えておくことだ!」
そして、本多忠勝も馬を返し、引いた。
「進め! このまま一気に攻め崩すのだ!」
「くっ! 引け! 引け!」
徳川勢がこれを機に一斉に攻勢をかける。
それにより、豊臣方による富士の包囲戦線は崩壊した。
豊臣方の兵は散り散りに逃げ、信康の本陣も渋々西へと引いた。
「……天海殿。どうする?」
「……信康様の本軍のみを勢いそのまま、一気に攻めましょう。ここで不安な要素は潰しておきたい」
「うむ、雑兵は相手にせぬ、か。そのようにするか」
すると、正信が頷く。
「では、そうしましょう。全軍に信康様の軍を狙うように伝えよ」
「はっ!」
伝令が去って行く。
「さて、天海殿。どう見ますかな?」
「……正信殿。やはり、少々不審ですな」
天海の言葉に正信は頷く。
「ですな……引き際が少々良すぎる気が致しまする。天海殿、如何致す」
「……しかし、優勢なのには代わりはありませぬが……念の為、手は打っておきますか」
「策は上々。敵も釣れましたな」
「……流石は三郎殿だな」
三郎と信康は話し合う。
「ここ蒲原は沼津よりも狭い。大軍はより展開出来なくなりまする」
「うむ。その分我等も展開出来ぬが……」
「殿!」
すると、本陣に本多忠勝と井伊直政が現れる。
「敵は釣れました! 既にすぐそこまで迫っておりまする」
「では、三郎殿。参りますか」
井伊直政の言葉に三郎は頷く。
「信康様。最も難しく、そして最も簡単に戦に勝つ方法は、敵の総大将を討つ事にございまする」
「うむ」
信康は静かに三郎の話を聞く。
「私は、若輩の身ではありますが……我が祖父、織田信長はこの方法を使って天下に名乗りを上げました」
「それはまさか……」
三郎は頷く。
「桶狭間にございます。徳川がここまで大きくなれたきっかけでもあり、豊臣が天下をとる地盤を作るきっかけとなり、織田家が天下に名を知らしめた戦。桶狭間を見せて差し上げましょう」