東海道における前哨戦は、静岡県の富士、沼津の辺りで起きた。
三郎は侵攻する秀忠軍を倒す為に策を講じていた。
「逃げましょう」
「気でも狂ったか!」
軍儀の場で三郎はそう発言し、立花宗茂の叱責を受けていた。
しかし、三郎は動じず続ける。
「落ち着いて下され。私は勝つ為の策を申し上げるのみ」
「立花殿。ここは話を聞いてみようでは無いか」
宗茂は島津義弘の言葉を受け、頷く。
「……聞こう」
「ありがとうございまする。この戦、我等が優勢となればなる程敵が寝返り、安全に勝てまする」
三郎は机上の駒を動かしていく。
「現状、兵力で劣っている我等に靡く敵将はおりませぬでしょう。されど、戦況次第で変わりまする」
三郎は現在自軍が布陣する富士を指す。
「現在我々が対陣している富士から沼津にかけての土地は細く、大軍の徳川軍は横に展開出来ませぬ」
「左様。だから我々はここに布陣した」
信康がそれに答える。
「ここ、富士は細い道が終わる場所。敵を包囲するには最適の場所ですが……」
三郎は机上の駒を取る。
「この兵力では包囲したとしてもすぐに破られ、意味がありませぬ」
「ならば、どうするというのだ」
島津義弘が聞く。
「……最初に申しました通り」
三郎は少し笑いながら続ける。
「逃げるのです。」
「敵勢は一万五千。相手が信康様といえども、ここまで兵力差が歴然ならば、味方の将もそう簡単には靡かぬでしょうな」
本多正信は続ける。
「布陣する地は少々不利ですが、この兵力差ならば容易に崩せましょう」
「ならば、正面からぶつかるまでよ」
秀忠が口を開く。
「徳川の正統後継者は儂であると世に知らしめるのだ!」
「しかし、功を焦ってはなりませぬぞ」
そこで、天海が口を開く。
天海は徳川家の勝利の為、不安要素であった秀忠について来ていた。
「敵には西国無双と呼ばれた立花に鬼島津もおりまする。東国無双の本多殿に井伊の赤備え。決して油断は出来ませぬぞ」
「むぅ……」
秀忠はそこで止まる。
そして、頷く。
「分かった。天海殿。お主の言う事を聞こう」
「ありがとうございまする」
天海は立ち上がる。
「秀忠様には最後方で指揮を取って頂きまする。秀忠様の身に何かあればこの軍は壊滅です。皆が敵方に靡くでしょう。我々がこの戦で成すべきことは一度も劣勢にならずに、勝つ事」
皆が頷く。
「皆様方。尾張に伊達様が上陸すれば敵は逃げ場を失いまする。十分に勝ちの目はありますぞ!」
織田三郎と南光坊天海。
信長と光秀の戦が、今始まろうとしていた。