「くっ! こっちだ!」
榊原康政は僅かな兵と共に上田城外へと命からがら逃れていた。
多くの兵は真田の策にはまり、城内に取り残されていた。
「なんとか城外に待たせていた兵と合流出来れば……」
「と、殿!」
すると、徳川兵が上田城へと詰め寄せてきた。
「何をしておる! 何故持ち場を離れた!」
「も、申し訳ありませぬ! 殿が城内に入ったと時を同じくして、我等も敵の奇襲を……」
「何だと!?」
すると、逃げてきた徳川兵の後ろから敵軍が迫ってくる。
「……織田か!」
迫る敵の旗印は織田。
真田の兵も混じっていた。
「榊原康政殿とお見受け致す! 我こそは織田信長が孫、織田秀雄! もはや大勢は決した! 降伏なされよ!」
しかし、榊原康政はそれには応じない。
「まだまだ! 皆の者! 秀康様の軍がもうすぐ戻って来る筈! それまでの……」
「それも来ませぬぞ」
すると、城内より真田の兵が現れる。
昌幸の隣には有楽斎の姿があった。
「織田有楽斎殿……」
「結城秀康殿の軍も、秀則様によって既に壊滅しておりまする」
「そ、そんな訳が……」
「私は秀則様の陣におりました。私一人が急いで帰ってきたのです」
康政は槍を握りしめる。
「……ここで死ぬ訳には行かん。負けるわけにも行かん」
そして、秀雄の方を見る。
「全軍! 織田軍に向け突撃せよ! 敵中を突破し、離脱する!」
徳川勢は声を上げる。
「狙うは織田の首! かかれ!」
康政は決して冷静を欠いた訳では無かった。
経験不足であると予測した秀雄に対して攻撃を集中させたのだった。
が。
「ぐぁっ!」
兵達が次々と倒れていく。
「徳川兵よ! お主らの力量はそんな物か! そんな物ではこの信繁の首は取れぬぞ!」
「源次郎。余り前に出過ぎるな。たまには兄にも活躍をさせよ」
「ふっ。流石は我が息子達よ……」
昌幸は笑いながら息子達の活躍を見る。
昌幸は織田秀雄の補佐として自らの息子、真田信之と真田信繁の両名をつけたのだった。
二人は槍を振るい、敵勢を蹴散らしていく。
「くっ……」
「もはやこれまでにござる! 降伏なされよ!」
秀雄がそういう。
既に徳川兵は攻撃の手を止め、武器を捨てている者まで居た。
勝敗は明らかであった。
「……降伏しよう。抵抗はせぬ」
「……良くぞご決断なさった。丁重にお相手いたそう」
秀雄は配下の者に指示をする。
そして、康政は縄に付き、上田城へと送られた。
「秀雄殿!」
「おお、秀則殿!」
すると、結城秀康を攻めた秀則の軍が帰って来る。
「どうやら、しっかりと勝ったようですな」
「勿論にございます。このような所で負けてられませぬからな」
秀則と秀雄は笑い合う。
「さぁ、城へ帰りますか」
織田勢は城へと帰る。
かくして、中山道は豊臣方の勝利に終わったのだった。