「やはり素通りは出来ぬか」
「元より素通りするつもりもありませぬ。ですが、織田勢も見過ごせませぬ」
結城秀康と榊原康政は敵の籠もる上田城を見る。
「城に籠もるは一万程。対する我等は総勢二万五千」
「だが、織田信雄、福島正則の一万五千が中山道を塞ぐように陣取っている」
榊原康政は頷く。
「先の戦よりもかなり不利な状況ですな……」
「しかし、上田城内は内輪揉めが起きているという」
「は。既に城内より我等に内通する者がいると知らせがありました」
榊原康政は結城秀康に文を手渡す。
秀康はそれを読む。
「今夜、か」
「は。既に手筈は整えてありまする」
秀康は康政に文を返す。
「榊原康政。お主に上田城攻めを任せる。儂は織田に当たる」
「は!必ずや攻め落としてみせまする!」
秀康は頷く。
「兵は一万五千を与える。我等は織田勢の足止めに徹するとしよう。早い所落として、援軍に来てくれ」
「は!」
「殿、城門が……」
夜。
上田城の城門が開く。
「待て、敵はあの真田だ。我等の陣容を充分に理解しているであろう真田信幸も向こうについた。油断はするな」
兵達は頷く。
兵達は慎重に、慎重に歩みを進めた。
「……よくぞおいでくださった。さ、こちらへ」
「杉江勘兵衛殿か?」
すると、城内には内通者である杉江勘兵衛と少数の兵が居た。
「は。さ、こちらへ」
しかし、榊原康政は油断しない。
第二次上田合戦で痛い目を見たからである。
「……待て」
「如何なされた」
康政は杉江勘兵衛を見ながら言う。
「確か、内通者はもう一人……松田重太夫という者が居た筈だが……」
「……そちらも既に別の場所で待機しておりまする。こちらです」
杉江勘兵衛に案内され、兵達は進んで行く。
「よし、ここらで良いか」
「どうなされた? 榊原殿?」
榊原康政は声を上げる。
「かかれ! なりふり構わず全てを破壊せよ! 城壁、城門、建物、手当たり次第に破壊せよ!」
「な、何をなされるか! せっかくここまで連れてきたというのに!」
榊原康政は杉江勘兵衛に刀を向ける。
「お主は信用ならん。お主のことを信用して真田の策に嵌まるのは御免なのでな。城外の兵も機を見て仕掛ける」
兵達は手当たり次第に破壊し、篝火から火を付ける。
「ほう! 流石は榊原康政! 只では策に嵌まらぬか!」
「っ! 真田昌幸! やはり罠か!」
すると、真田昌幸が姿を表す。
「しかし、ここまで来た時点で罠に落ちている様なもの! 残念だが、お主の主、結城秀康の命運は尽きたぞ」
「何!?」
真田昌幸は刀を向ける。
「そして、お主の命運もな。かかれ!」
「ひ、ひぃっ!」
城壁を破壊した徳川兵の目の前に真田の兵が現れる。
「まさか、城壁を破壊するのを見越していたのか!?」
「いや、全く? いつでも襲えるように兵を潜ませていただけの事。それをお主が攻めやすくしてくれたのよ」
兵達がぶつかる。
明らかに徳川方が劣勢であった。
「くっ!」
「さぁ、真田の戦をとくと味わえ!」