「殿! 上杉勢、出陣との事!」
「うむ、数は?」
北陸を進む秀信の下に駆け寄った伝令が言う。
「その数、三万!」
「対する我らは五万。数の上では勝っておりまする」
前田利長の言葉に秀信は頷く。
「では、先鋒は丹羽殿、金森殿に任せたい。宜しいか?」
「無論にござる!この丹羽長重。織田殿の元で戦えて嬉しゅうござる!」
「この金森長近、老いぼれではありますが、必ずや武功を上げてみせましょう」
この時金森長近は齢七十後半であった。
が、関ヶ原でも活躍した武将だった。
丹羽長重。
この男も関が原において西軍に与し、浅井畷の戦いで大軍の前田勢を苦しめた。
織田五大将の一人である丹羽長秀の息子ならば先鋒を任せられると秀信は考えた。
「しかし、油断はなりませぬぞ大軍が負ける事もありますからな」
「……左様。油断大敵ですぞ」
前田利長は丹羽長重を見ながら言う。
そして、長重もそれに答える。
二人はかつての敵同士であったからだ。
「よして下され。今の敵は上杉。今はかつての、織田家の家臣団としての力を見せつけて下され」
「……ここに揃うは織田家の旧家臣達、ですからな。連携は取りやすいかもしれませぬな」
そこで、蜂須賀家政が口を開く。
「儂も、息子の至鎮も呼んで下さり誠にありがとうございまする。」
「それでしたら、この生駒親正も。息子の一正と共に感謝申し上げまする。」
秀信は頷く。
「いえ、来てくださり誠にありがたい。そこでなのですが、ここより先は念の為、後方にも注意しておきたい。お二人にはここに残り、海から敵が来ても良いように備えていて欲しいのです。」
秀信達はまだ金沢に居た。
もし金沢が奇襲を受け、陥落すれば逃げ道は無くなるからであった。
「は! かしこまりました!」
「ありがとうございまする。」
秀信は立ち上がる。
「さぁ、上杉を蹴散らしましょうぞ!」
「動いたか」
上田城。
そこに居る真田昌幸の耳には徳川が動いたという報せが入っていた。
「徳川勢二万五千。対する我らは二万程。兵の数では負けているが……」
「秀則様!」
秀則は数の差を考えて策を練っていた。
すると、伝令が駆け込んでくる。
「織田信雄様、福島正則様の援軍、一万五千が間もなくご到着なされます!」
「おお! 父上が!」
その報告に、秀雄は喜ぶ。
すると、昌幸は頷いた。
「うむ、ならば……」
「ならば使いを出せ」
昌幸の言葉を遮り、秀則が言う。
「敵が我等を素通り出来ぬよう、中山道の出口に陣取り、上田城に誘導する。ですな?」
「……お見事」
有楽斎は頷く。
「秀則殿。お見事でござる。敵が信雄様の軍を攻撃すれば我々が敵の後背を突き、敵が上田を攻めれば信雄様が敵の後背を突く。数の差に惑わされずによくぞお気づきになられた」
有楽斎の言葉に秀則は頷く。
そして、秀雄も続く。
「そうなると敵は二手に分かれるしか無い。寝返る者が出ると踏んでいる上田には一万、父上の方へは一万五千と言った所か」
「流石ですな。上田を抑えるだけであればその数で事足りましょう。上田を抑える軍が崩壊する前に野戦にて信雄様の軍を倒す。そのように出るでしょうな」
歴戦の猛者二人とその歴戦の猛者に戦の何たるかを学んだ信長の孫二人。
中山道が、最も強敵であった。
「来るか、秀忠」
信康の陣に入った三郎は虎助に人質を送り届けさせ、東海道より迫る秀忠の軍を倒す為の策を講じていた。
「我が方一万五千。敵は二万五千。圧倒的不利ですな」
「島津殿。そもそも我らは関ヶ原から率いていた兵が少なかった。それに信康殿を慕って集った兵と岐阜からの援軍でここまで来たのだ。充分だろう」
立花宗茂は続ける。
「それに、敵が寝返る可能性がある。勝てる可能性は十分にありますぞ」
立花宗茂のその言葉に信康は頷く。
「立花殿の申す通り。それに、三郎殿がおる限りそう簡単には負けぬ。そうであろう?」
三郎は頷く。
「無論に御座います。」
三郎は少し笑う。
「関ヶ原で尻尾を巻いて逃げ出した徳川秀忠など、簡単に蹴散らしてみせましょう。今度こそ、息の根を止めてみせまする」
天下分け目の大戦の前哨戦が、始まる。