「西は片付いたようですな」
「流石は三郎殿。噂に聞く通りだ」
三郎が江戸に潜入する少し前。
中山道から徳川を見張る織田、真田、毛利らの軍は上田城にて休息を取っていた。
常に密偵を放ち、江戸の情勢を探らせていた。
そんな中、秀則と秀雄は将棋を指していた。
「そこに置くと負けですぞ」
「あっ! ……流石は昌幸様。では、今のは無しで……」
「秀雄殿! ずるいですぞ!」
秀則と秀雄はまるで兄弟かのように仲良く将棋を指していた。
「では秀則様。これを……ここへ……」
「おお、成る程!」
有楽斎が秀則を助け、昌幸が秀雄を補助しながら将棋を指していた。
二人は歴戦の将である二人から戦について学んでいたのだった。
「秀則殿。例の二人ですが……」
「秀則様。参りました」
昌幸が何かを言いかけた所、側近が報告する。
「……通してくれ」
「は」
側近が頭を下げ、戸を開けると二人の男が入ってくる。
杉江勘兵衛と松田重太夫である。
しかし、秀則と秀雄は将棋を指し続ける。
「……秀則殿? お呼びと聞き、参上致した」
杉江勘兵衛が口を開く。
しかし、二人は将棋を続ける。
「……少し、お二人とお話がしたいと思いましてな……」
「話とは?」
重太夫が口を開く。
「……お二人から、戦の何たるかをお聞きしたいのです。お二人は石田様のご家臣。様々な戦を経験したことでしょう。謀略やなんかもお手の物とお見受けした。酒も用意致した。さ」
秀則がそう言うと酒が出される。
「……さぁ」
しかし、二人は酒を飲まない。
毒を警戒しての事だった。
「毒など入っておりませぬ。ほら」
すると秀則は立ち上がり、勘兵衛の盃を取り、飲む。
「何をそんなに警戒しておられる? やましい事でもあるのですかな?」
「……そのような事、ありませぬ」
すると、その様子を見た松田重太夫が盃を飲み干す。
「……ぐっ!」
すると、突如松田重太夫は喉を押さえ、悶え始める。
「ま、松田殿! 秀則殿、これは! っ!」
すると、秀則は刀を抜く。
そしてその切っ先を杉江勘兵衛へ向ける。
「島左近を通じて情報を流しているのは知っておりまする。さぁ、観念なされよ」
「……くそ」
松田重太夫は喉を抑えながら息絶えていた。
杉江勘兵衛は逃場が無いと、諦めた。
「何故斬らぬ。今すぐ斬れば良かろう」
「島左近に書状を遅れ」
秀則は刀を突きつけたまま続ける。
「我等中山道を守る軍は内輪揉めから崩壊寸前。今攻めれば寝返る者も続出し、容易く崩せるとな」
「そ、それで命は助かるのか?」
秀則は頷く。
「無論にございます。共に戦ったあなたを殺したくはありませぬ故」
「……分かり申した」
笑顔で語りかける秀則に杉江勘兵衛は頷く。
「文を書きましょう」
「ありがとうございまする。文の内容は全て確認させていただきまする」
これで策は成った。
秀則は昌幸から学んだ謀略を披露してみせたのだった。