「止まれ!中身を確認する!」
江戸城に兵糧を運び入れようとした所、荷物を改められる。
「何もありませぬ! 早く通してくだされ!」
三郎は商人に変装し、江戸城に入り込もうとする。
兵糧を売ろうとしているのだ。
「……怪しいな。何かやましいものでも入っているのではないか!?」
「な、何を申されるか!」
門番は他の者に中身を改めるように指示をする。
そして、兵糧を運んでいた荷車の中身を確認される。
「……何も無いな」
「だから言ったでしょう! 商売は時間が勝負! 無駄な時間を取らせないでくだされ!」
三郎はそう言うと虎助達に早く荷物をもとに戻すように言う。
「このような仕打ちを受けるのならば、この米は豊臣方へ売りましょう! 二度と徳川へは売りませぬ! おい、引き上げるぞ!」
「ま、待たれよ! それ程の兵糧。手に入れられなかったとあってはどんな処罰を受けるか分からん! どうか穏便に済ませてはくれぬか?」
その門番の申し出に三郎は渋々頷く。
「……では、今後は荷物を改めること無く通してもらいましょうか」
「そ、それは……」
「……では、これにて。御縁が無かったと言う事ですな」
三郎は頭を下げてその場を後にしようとする。
「待て! わ、分かった! そうしよう!」
「……ありがとうございます。この文様が入った服を着ているものは我等の手の者。この後も続々と入ってきまする。荷物を改めること無く速やかに通して下され」
門番は頷く。
三郎達はそのまま江戸城内に入っていった。
「虎助」
「は」
「手筈通りに」
虎助は頷く。
そして、虎助は城門の近くに残った。
三郎達は暫く城内を進む。
「お主ら、米を売りに来た商人か?」
「はい」
「うむ、これから通す間にて少し待て。荷物は一括して保管する。案内しよう」
他の案内人が米の入った荷車を押す者達を案内する。
三郎達は案内人の後をついていき、通された間にて休む。
「今担当の者は他の商人の対応をしている。少し待て」
そのまま案内人はその場を後にする。
大垣衆と三郎達は暫しの休養を得た。
「さて、ここまでは順調」
「……太郎様」
大垣衆の者が喋ろうとした所を三郎が止める。
(どこで誰が見聞きしているか分からん。発言には気を付けろよ)
大垣衆の男は頷く。
「後はどれだけ高値で売れるかですな」
「あぁ。徳川は米を欲している。すでに大量にあるだろうが、これほどの量を欲しがらない訳が無い。適正価格でも十分だがな」
三郎達は暫らく待った。
すると、一人の男が現れる。
「お待たせ致した。この度対応させて頂く南光坊天海と申します」
「っ!」
まさかの人物の登場に三郎は反応してしまう。
が、なんとか抑え、平常心で当たる。
「太郎にございます。この度は兵糧がご入用との事で、いささか高値で売りつけたく参りました」
「……ほう、面白いお方ですな」
南光坊天海の顔をしかと見つめる三郎。
そして、三郎は理解した。
(やはりか……)
その顔を忘れるわけが無かった。
たとえ信長としての記憶を無くしてもそれだけは忘れないだろう。
この男の、顔だけは。
(生きていたか……明智光秀!)