大坂へ入城して数日。
黒田家が九州にて戦を続けており、既に北九州を抑えているとの知らせが入った。
これに対し、淀殿は黒田討伐軍の編成を指示。
その指示に対し、先の関ヶ原で主力となった小早川、毛利、宇喜多、小西、長宗我部、そして島津豊久らが集まった。
「毛利輝元に御座る。先の戦における吉川の内応、真に申し訳無い。」
毛利輝元が深々と頭を下げる。
毛利輝元は本来、西軍総大将であったが、大阪城に籠もり何もしなかったのである。
そして、関ヶ原に参陣した吉川広家が密かに家康に内通していた。
史実ではそのせいで負けたのであった。
「先の失態、この戦で挽回したい。宜しく頼む。」
「では、此度の総大将は毛利殿という事で。小早川殿、宇喜多様、よろしいですかな?」
片桐且元の言葉に、集まった諸将が頷く。
「……おや、申し訳無い。お一人足らぬようですが……。」
「申し訳無い!遅れ申した!」
その場に現れる人物。
その男は、織田三郎であった。
「この度、我が兄織田秀信に代わり、この織田三郎が参陣致す。」
「秀信殿は如何なされた?」
宇喜多秀家の質問に三郎が答える。
「は。我が兄秀信は居城がその手に戻ったことから一度城に帰り、所領安堵された美濃を治めておりまする。先の戦で主戦場となった美濃です故、今後の事を考え自ずから手腕を振るい、治世に務めておりまする。」
そう説明すると、小早川秀秋が頷く。
「それで手が離せないと。」
「は。」
「織田殿は先の戦で大変ご活躍なされた。良いのでは無いでしょうか。」
その秀秋の言葉に総大将毛利輝元も頷く。
「うむ。何も問題は無い。」
毛利輝元は南宮山の毛利勢が家康追討の為の軍に参加したのも織田家の動きがあったからと安国寺恵瓊を通じて聞いていた。
なので、基本的に織田家に味方してくれる。
そして、宇喜多秀家は良い顔をしていなかった。
小早川が差配するのが気に入らなかったのだ。
「では、出陣は三日後という事で。それまでごゆるりとなさって下され。」
片桐且元の言葉を最後に皆は解散した。
三郎も自分の為に用意された部屋に戻ろうとする。
「殿。」
すると、虎助に話しかけられる。
「虎助か。どうした?」
「お目通りを願う者が二人程。」
「二人?兄上ではなく俺にか?……誰だ?」
虎助は辺りを気にして耳打ちしてくる。
「黒田長政殿と、細川忠興殿に御座います。」
「細川忠興に御座います。」
「黒田長政に御座います。」
自室に戻ると二人が頭を下げて待っていた。
「お顔を上げてくだされ。頭を下げられる程私は偉くはありませぬ。」
そう言うと、二人は顔を上げた。
「この度はお目通りをお許しいただけたこと、真に感謝致します。」
「……お二人は元々我が祖父、織田信長に仕えていたお方。拒む筈がありませぬ。」
細川忠興の言葉に、三郎はそう返す。
「して、この度のご用向は?」
「は。まずは岐阜、合渡、赤坂の夜襲、そして関ヶ原の戦い、お見事でした。そして感謝を。」
「感謝?」
三郎が疑問を口にすると忠興は語り始める。
「石田三成は我が妻、ガラシャの命を奪いました。石田三成を成敗すると言い出したのは織田殿とお聞きしております。その感謝に御座います。」
そう言うと忠興はまた頭を下げる。
「その感謝のお礼として、此度の戦、織田様の陣に加えては頂けませぬか!我が領が処罰を受けなかったのは織田殿の口添えとも聞きました!どうか!」
三郎は東軍にいた有能な将を自陣営に組み込むため、色々な手を尽くしてきていた。
減封される筈の所領も三郎の口添えで罰されなかった。
無論、代わりに金銀等は差し出すことになったが、織田家が活躍したにも関わらず、所領の安堵のみを望んだことが大きかった。
「……細川様の忠の字は我が父、織田信忠から貰ったと聞きました。喜んで、その申し入れお受け致す。」
すると忠興は更に深く頭を下げる。
「ありがとうございまする!」
「……して、黒田様は?」
「は。」
黒田長政がこちらへ向き直る。
「我が父、如水が未だ戦を続けているとの事。彼の地は私の地でもありまする。先の戦でも私は徳川に付きました。これ以上無駄な血を流し、私の所領が減封されるのは避けたい。某が参れば、戦を長引かせずに父上を説得し、終わらせられるやも知れませぬ。」
三郎はしばらく考えた。
先の戦、関ヶ原で東軍が勝てたのは黒田長政の調略があっての事だった。
もしこれも策略で、既に如水と通じていたら……。
そう考えると三郎は簡単に首を縦に振ることは出来ないと考えた。
が。
「勿論にございます。」
「は。ありがとうございまする!」
信長、かつての三郎は一度彼を殺している。
官兵衛が、謀反を起こした荒木村重に囚われた際、信長は官兵衛が裏切ったと見て、人質であった長政を殺すように命じたのだった。
しかし、天才軍師、竹中半兵衛によって密かに匿われ生き延び、官兵衛が裏切っていないと知った信長は涙を流し謝ったという。
「黒田殿、細川殿。お二人はかつては我が織田家に仕えた身。されど今は共に豊臣の家を支える仲間だと思っておりまする。そのように畏まらないで頂けませぬか。」
「織田殿……。」
二人は頷く。
「では、今後は共に豊臣家を支えましょうぞ。」
「我等黒田も、共に。」
「はい。私もお二人を父と思って様々な事を学んで行きたいと思っておりまする。これからも、宜しくお願い致しまする。」
これで織田家に味方する者が増えた。
両名共に後世に名を残す大物である。
徐々に、織田家は力をつけていた。