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第33話 追討軍 集結

「殿、水で御座います。」

「うむ。」


 岐阜城内。

 ここに誰も予想だにしていない大物の姿があった。

 名を、徳川家康。

 関ヶ原を脱した徳川家康は密かに岐阜城に入場していた。


「殿。良くぞご無事で。」

「……しかし、忠勝が犠牲になった。あやつの事だ。そう簡単に死にはせぬだろうが……。」


 すると、側近の者が思い出したかのように口を開く。


「そういえば、関ヶ原から逃げて来た者達が口々に家康様が捕まったと話しておりました。もしかすると……。」

「真か!?……忠勝め、生きておるのか……。」


 家康は安堵の息をつく。

 家康が岐阜城に入城したのは関ヶ原の敗走した東軍諸将が岐阜城に集うと予測しての事だった。

 実際、少しずつではあるが集まってきていた。


「しかし、もっと集まっても良いと思うのだがの。」

「それが、追討ちをかけている軍があるらしく、多くは捕らえられたか、斬られたか、とのことにございます。」

「一体何処の者が……。」


 側近の者は恐る恐る口を開く。


「それが……六文銭の旗印らしく……。」

「真田か!?またしても真田か!」

「……殿!」


 すると、一人の兵が駆け込んでくる。


「何事じゃ!」

「敵です!敵がこの城に迫っておりまする!」

「何だと!」


 家康は慌てて城の外を見る。

 すると、確かに大軍が岐阜城に迫っていた。


「……真田め!またか!」


 旗印は六文銭。

 だが、別の旗印も見えた。


「それにあれは織田か!ええい!急に色んな所で邪魔立てしおって!早く逃げるぞ!急げ!」

「間に合いませぬ!既に城の出入り口は全て塞がれておりまする!」

「何!?何故じゃ!」

「真田の手の者が密かに先行して陣取っていたようです!あの大軍が姿を表すのと同時に塞がれました!」


 家康は思わず爪を噛んだ。


「くそ!真田め……。」 




「真田殿!ご助力感謝致します!」

「これは秀則殿。我々は元よりこれが役目。当たり前にござる。」


 秀則は真田昌幸の元を訪れていた。

 昌幸は南宮山の毛利勢と共に東へ赴き、東軍の敗残兵を追いつつ、岐阜城奪還のために動いていた。


「我々は岐阜城を取り返したらそのまま上田を救い、江戸の徳川への抑えとなる予定にこざる。そちらは?」

「左様でしたか。我々は家康や秀忠が逃げたらそれを捕らえる。もしくは隙をみて岐阜城を取り返すよう、我が兄秀信に言われてこちらに参りました。」

「……我々は散り散りに逃げた故、秀忠様がどちらへ逃げたのか全く分かりませぬ。可能性が有るとすればここ岐阜城。敗走した東軍も、少しずつではありますがここに集っていたようですので、ありえなくは無いですな。」


 有楽斎はそう言うと、昌幸に頭を下げた。


「織田有楽斎にございます。」

「おお、かの信長公の弟君。これはとんだ大物が、我等についてくれたようですな。」


 すでに岐阜城の包囲は完了しており、敵は逃げ場を失っている。

 先の攻城戦により、城の設備も半壊状態で、力攻めをすれば簡単に落ちるのは明らかであった。


「秀則様!織田秀雄様がご到着なされました!」


 伝令が駆け込んでくる。

 すると、真田昌幸と秀則のいる陣に織田秀雄が入ってくる。


「織田秀雄。只今着陣致した!」

「おお!秀雄殿!お久しゅうござる!」


 秀則と秀雄は握手を交わす。


「我々も関ヶ原へ参陣しようと越前大野を出立していたのだが、まさかこんなにも早く終わるとは……。だが、ここに間に合って良かった!有楽斎様の文のお陰だ!」

「……それで、話は聞きましたか?」


 秀則は頷く。


「うむ、文にしかと書いてあった。私も織田家の為に力を貸そうぞ。」

「……我が真田も、約定を果たしてくれるのならば必ずや。」


 昌幸はそう言うと二人の目の前に立った。


「我が真田は武田への忠義を忘れたことは無い。その武田領を秀信殿は約束して下さった。だから、儂は秀信殿にお味方するのだ。……正直、織田家がまた天下を取る等、夢のまた夢のような気も致すが、この大戦の後の世を纏められるのは、誰もおりますまい。ただ、他の者より織田殿は優れておる。もし天下を纏められるとしたら織田殿しかおらぬと思ったまで。それを忘れてはなりませぬぞ。人は、その人が望むものを目の前にぶら下げれば、自ずと動くもの。良く覚えておきなされ。」


 昌幸は三郎の手によって織田家の成そうとしている事を知っていた。

 昌幸自身もある程度の予測はしており、三郎も昌幸相手に謀略を使うのは無謀だと、素直に話していた。

 正幸の言葉に秀則と秀雄は頷く。


「……真田殿。此度の城攻めで私は学べることは学んでおきたいと思っている。是非、宜しく頼む。」

「……いや、この戦の総大将はあなたがやるべきだ。秀則殿。」


 昌幸は秀則の肩に手を置く。


「進言は致しまする。が、お主がここで武功を上げ、織田家の立場を揺るぎない物とするのです。さすれば、織田家の天下も近くなりますぞ。」

「……相分かった。」


 ここに秀則を総大将とした徳川追討軍が結成された。

 秀則は名将の知恵を学びながら成長することとなる。

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