「成る程……そのようなことが。」
「信じるのか?」
秀信と二人、酒を酌み交わしながら話し合う。
厳密に言えば自分は未成年だが、この時代では成人している歳だ。
何も問題は無い。
秀信は事情を話すと意外とすぐ理解してくれた。
「はい。そうでなくては説明のつかぬ事が多いですから。」
「……そうか。」
よくよく考えてみれば、俺が年下か。
面白いものだ。
「信長様……いえ、三郎殿。先の世では、私は……織田家はどうなるのですか?」
「……。」
酒を一気に飲み干す。
「織田家は……生き延びる。だが……。」
「だが?」
西軍は負け、織田家は潰れる。
秀信は高野山へ行くが、入山を拒否され、数年後に麓で死ぬ。
後世に残るのは秀信の家系ではなく、次男の信雄の家系だ。
そんな悲惨な事が言えようか……。
「織田様、石田様が参られました。」
「おお、すぐにお通しせよ。!」
秀信がそう言うと、戸が開けられる。
「この話は、また後ほど。」
「あぁ。」
そして、開けられた戸より、甲冑を身に纏った男が二人、入ってくる。
石田三成と小西行長である。
城に戻って、着替える時間も惜しんで会いに来たということか。
「これは石田様、小西様、お久しゅうございます。」
「織田様。よくぞおいでくださった。」
「岐阜城、合渡の戦いについてはお聞きしております。このようなことになるならば、我が小西勢も合渡に向かうべきであったやも知れませぬな。」
そこでふと思い出す。
一説には石田三成は岐阜城へ救援を送るつもりはなく、長良川一帯を防衛するために出陣していたとする説を。
……だが、ここで聞き出したとて意味は無い。
「……ところで、そちらの方は?」
「小田三郎に御座います。」
石田三成に頭を下げる。
今は向こうの方が上だ。
「
「いえ、私は……。」
「そうです。私の生き別れの弟に御座います。」
秀信がそう言うと、三成は不思議そうな顔をする。
「弟……そのようなお方はお聞きしたことがありませぬが。」
「ええ。腹違いの子で、本能寺の変の数日前に生まれた弟です。我が父織田信忠が徹底して秘匿せよとご遺言を残されたので、知らぬのも無理はありませぬ。な?」
「え、ええ!そうですとも。」
秀信の言葉に頷く。
まぁ、今後そういう設定の方が助かるかもしれない。
「左様でしたか……。これは、失礼致した。」
「いえ、何も謝ることなどありません。」
石田三成は姿勢を正すと、秀信に正対した。
「さて、しばらくはここ大垣でごゆるりとなされませ。いずれは岐阜も取り戻しましょうぞ。幸い、近くには島津殿もおられます。上手く行けばすぐにでも取り返せましょうぞ。」
「合渡や、岐阜城を攻めていた徳川方がここに攻めてこないとも限りませぬが、城の警備は暫くの間、我が小西勢が務めまする。ご安心して、ゆっくりしてくだされ。」
「では、お言葉に甘えると致そう。」
石田と小西は頭を下げると部屋を後にした。
「……俺の事だが、秀則や百々、木造辺りには話しておいた方が良いと思う。」
「私も同じように思っておりました。今後、重要な局面で不備があってはなりませぬ。今夜中に話をしておきましょう。」
あの石田三成も、いずれは敵となるだろう。
織田家が天下を取るためには豊臣の家は邪魔だ。
まずは関ヶ原で家康の首を取る。
その次は、三成だ。