「殿!敵勢、全ての攻め口に着きました!最早籠城策しかありませぬ!」
「慌てるな百々《どど》。元より其のつもりよ。」
しかし不利は不利。
石田殿の援軍まで持ちこたえられるか。
石田殿や犬山城からの援軍がなければ確実に負ける。
……祖父上。
私は勝てるのでしょうか。
「天主から様子を見てくる。ついて参れ。」
「ははっ!」
階段を登り、天主へと上がる。
するとそこには見慣れぬ風貌の若者が立っていた。
「……是非に及ばず。」
「何奴!?殿、曲者にございます!お引きを!」
「……いや、待て。」
どこか、親近感を覚える。
姿形に見覚えは無い。
だが、敵ではない。
そんな気がする。
「ん?」
振り返ると刀を抜いた男が主君らしき男を庇っていた。
……いや、あの男は見覚えがある。
その後ろにいる男も、どこか前の俺、織田信長に似ている。
「……百々越前守綱家か。」
「くっ!やはり曲者!」
百々越前守綱家。
三法師の重臣、家老である。
「ならば後ろのお前が……。」
「私は織田信長が孫、織田家当主、織田秀信である。お主は何者だ?」
威風堂々たる姿。
当主としては合格だ。
そうか、これが俺の孫か。
「……三郎。只の三郎だ。」
名乗った所で何も変わらない。
二人は警戒を解いていない。
「そんな事より良いのか?敵が攻めてくるぞ。」
「貴様!無礼だぞ!」
「よい。それに備えは万全だ。そう簡単に破られはせん。」
どうやらまだ城攻めは始まっていないらしい。
だが、史料通りならば、負ける。
「……この戦、負けるぞ。それに一日で終わる。」
「何だと!?貴様に何が分かる!?」
「三郎といったな?話を聞かせよ。」
「殿!?」
秀信は綱家に刀をしまわせた。
渋々綱家もそれに従う。
「敵は大軍。それに対してこちらは寡兵であるにも関わらず兵力を分散させている。これでは各個撃破されてしまう。」
俺は瑞龍寺山砦のある方角を指差す。
「特に瑞龍寺山砦の方面が無駄だ。」
「戦が何もわかっておらぬな、若造。あの地はここ本丸を攻めようとする部隊を挟撃するのに要の土地じゃ。」
「だが、一斉攻撃されれば挟撃もできん。兵を無駄に死なすぞ。だったら旗だけ立てて兵は本丸に引かせよ。旗さえあれば敵は陣を敷かざるを得ない。」
綱家は反論しなくなった。
「敵は大軍。敵が本丸まで攻め上がろうとすればどう頑張っても敵軍は細く長くなる。大軍と言う有利な状況を無駄にすることになる。」
「しかし、その後はどうする?」
秀信が口を開いた。
少しは話を聞く気があるようだ。
「……俺ならば、瑞龍寺山砦にいた兵を一部稲葉山砦に忍ばせ、七曲道を攻め登る敵の横腹を突く。機を見て武藤砦からも兵を出し、攻めては引き、引いては攻めるを繰り返す。」
「……そうすれば敵はたまらず一旦引くと?」
「あぁ。攻めてはそこだけでは無い。ここは決戦の地では無いし、兵を無駄に死なせたくはないだろう。引いた隙を見て稲葉山砦の部隊を本丸へ戻す。」
秀信はしばらく考えると、綱家に指示を出した。
「百々。今の策で行く。松田重太夫を稲葉山砦へ行かせろ。決して気取られるな。」
「は、はっ!」
綱家は慌てて下へと駆け下りていった。
「……三郎。お主は……いや、あなたはまさか……。」
「……今は戦に集中せよ三法師。理由は後で話そう。」
そう言うと秀信は慌てて頭を下げた。
「ははっ!何が何やら分かりませぬが、貴方様は信長様その人!何故か分かります。この血のお陰か、それとも神の思し召しか。なにはともあれこの秀信、信長様に従います!」
「是非もなし!三法師!この戦、勝つぞ!」
「ははっ!」
正直、勝てるかどうかはわからない。
だが、一日でも長く持ちこたえれば援軍が来るかもしれない。
……いや、らしくないな。
勝つ方法を探し出してみせよう。