「……ここは。」
燃え盛る火の中。
手には刀。
成る程。
ここはあそこか。
本能寺。
全てが終わったあの場所。
「光秀め……。」
刀を首に当て、一気に斬る。
「……ん?」
しかし血が出ない。
痛くもない。
これは……。
「そうか、夢か。」
「……ん?」
目が覚めると、そこはベッドの上。
見慣れた天井があった。
「……懐かしいな。本能寺。」
前世、というものが俺にはある。
しかもはっきりと。
俺の前世はあの織田信長。
尾張一国から成り上がり、機内を収めた戦国大名だった。
当時で言う天下統一は機内だけのことだったので当時で言えば天下統一を果たしていたのだが、後世の人間はそうは思っていないらしい。
天下統一を目前に逆賊明智光秀に殺された男だ。
「……岐阜城、か。」
窓の外にはかつて俺が天下布武を掲げた城、岐阜城があった。
かつては稲葉山城と呼ばれ、俺が中国の逸話に沿って岐阜と名付けた。
俺の妻、帰蝶の父が治めた城でもあったな。
「今日は休みか……。久々に行ってみるか。」
学校も休み。
部活はそもそも入っていない。
つまりは暇なのだ。
軽く身支度を整え、下に降りる。
「母さん。ちょっと出かけてくる。」
「うん、気をつけてね。」
居間で寛ぐ息子思いの母に出かけることを伝える。
高校三年、つまり俺は十八。
母は四十だ。
四十とは思えないほど若作り。
戦国の当時から考えたら寿命も近い年齢だ。
「三郎!お昼は!?」
家を出ると母が慌てて出てきた。
「すぐ帰って来るから家で食べるよ。」
母は頷くと家に戻っていった。
家の表札を見る
「……小田、か。」
なんの運命か、俺の名前は小田三郎。
実は織田信長も三郎である。
運命とは面白い。
因みにだが、先祖は常陸の不死鳥と呼ばれた小田氏治らしい。
これもまた面白い。
「……。」
岐阜城の天守へ登る。
懐かしい景色だ。
「ここで、織田家は潰えたか。」
織田信長の長男である織田信忠は本能寺の変の際に死んだ。
その後織田家は次男信雄と三男信孝が後継者争いをするが、羽柴秀吉、後の豊臣秀吉が長男信忠の息子である三法師を擁立し、次男と三男には後見人として立ってもらう事で話が纏まった。
つまりは清須会議である。
まぁ正確には織田家の家名は守られたが、長男の家系は滅んだのだ。
「……。」
ここに立つと感慨深い物がある。
全てはここから始まったのだ。
「……雲が……。」
気がつくと、空が段々と暗くなってきていた。
もう街が見えなくなっている。
これは、異常だ。
すぐに城の外は見えなくなった。
「……戻るか。」
天守閣の中へ戻る。
が、そこで違和感を覚える。
いや、違和感どころの話ではない。
内装が全く違う。
今の岐阜城は再建された物で内装は新しい筈だ。
だが、眼の前に広がる光景はちがう。
だが、懐かしい。
俺の、織田信長のいた時代の内装だ。
「何が……起こってる?」
振り返り、外を見渡す。
すると、そこには見慣れた街の風景はなく、しかしどこか懐かしい城下町の風景があった。
「あれは……福島!?それに池田か!?」
激しい剣戟の音が聞こえる。
そして、見覚えのある旗印が並んでいる。
それに、山内、浅野、黒田等の旗も見える。
「まさか……。」
そんな事があるのか。
恐らくこの戦況は関ヶ原前哨戦、岐阜城の戦い。
織田家が滅んだ戦だ。
「タイムスリップ!?」
自然とニヤけてしまう。
何度も何度も頭の中で繰り返した。
歴史の資料から関ヶ原の時の岐阜城の戦い。
俺ならどう指揮を取るか。
「……面白い。」
夢でも良い。
目が覚めて消えてしまっても良い。
「……是非に及ばず。」
織田家を再興してみせよう。
この織田信長が。