「の、信長様が出陣した!?」
「それもお供は僅か五人だと!?」
信長が出陣した報せは すぐに城内に知れ渡る。
籠城の支度をしていた家臣達はその報告に終わてふためくのであった。
「ど、どうするのだ!? 既に籠城の支度が……」
「馬鹿者! 我等も向かうしかあるまい! 出陣だ! 出陣の支度をいたせ!」
家臣達は慌てながら出陣の支度を整え始める。
その騒ぎは、雑兵にまで聞こえていた。
「……これは面白くなってきたぞ」
その光景を見ていた一人の男が口を開く。
「こりゃ、草履取りなんぞしてる場合じゃあないわな!」
その小さな男は一人戦支度を整え、密かに信長の後を追うのであった。
「……流石だな」
「お待ちしておりました。信長様」
信長が熱田神宮についたとき、そこには既に応龍団、西部方面隊千名が待っていた。
史実であれば信長は、ここで初めて軍を集結させるのだ。
「時田よ。本当に帰ってきていたのだな」
「はい。運よく帰ってこれました。本当にいつ神隠しが起こるか分からないので、組織には今後の方針等を伝え、いつでも動けるようにしてましたので」
お冬に代理を任せている事は信長も承知の上である。
しかしタイムスリップしたことまでは知られていない。
因みに、お冬は前線に出られるような力は無いので、ここからは本物と入れ替えて、お冬自身は本拠で大人しくしている。
時田の言葉に信長は頷く。
「うむ。して、義元の本隊に追随するように動く別働隊もいるのか?」
「流石は信長様ですね。おっしゃる通りです。東部方面隊千名がすぐに義元の本軍を襲える位置に居ます。そうでなくとも、既に義元の軍勢の中には私達の手の者が複数忍んでおり、奇襲に適した地点で足止めも可能です」
時田はつらつらと現状の説明を始める。
時田としては、この手勢だけで仕留めたいという気持ちもあった。
それは、史実通りの信長の手勢よりも多くなることで敵に気づかれ、奇襲として成り立たなくなる事を懸念してのことだった。
しかし、そこは信長の判断に任せる。
それに不安要素もあった。
「別働隊は千。つまり、我々は合計二千の兵がいます。信長様が動かせる手勢も二千から三千程かと。合わせれば五千となりますが……如何なさいますか?」
桶狭間の戦いには諸説ある。
奇襲によって勝ったとされる説や、そもそも奇襲などしておらず正面から戦って勝ったという話。
果たして、どれが正解なのか分からないのである。
「……後続の合流を待たず、お主らと共に義元本隊を奇襲する。敵はまだ儂の出陣に気づいておらぬはず。もし儂の軍と合流すれば気取られる可能性がある。たったの数人が城を出た事など敵は出陣とは思わぬからな」
信長は目の前の応龍団を見て、その練度を確信する。
「お主らはそれぞれが雑兵三人に値すると考えている。つまり、この場にいるだけでも三千の兵がいる事になる! 時田! 義元を奇襲に相応しい地点に釘付けにしておけ!」
「はい!」
「儂が連れてきた者らはここに置いていく。後からついてきた織田家の軍に我らの後を追うように伝えよ!」
信長はそう言うと、馬に乗った。
「行くぞ! 儂に続け!」
歴史は確かに変わった。
しかし、それは時田の思い通りであった。