五月十八日。
今川義元の尾張侵攻軍の先鋒として、三河を進んでいた松平元信の下に今川義元からの指令が届く。
「大高城へ兵糧を届けよ、か」
その文を読み、家臣である酒井忠次へと渡す。
酒井忠次は松平広忠の時代から仕える家臣であり、元信の信頼も厚かった。
因みに、酒井忠尚と同じ一族でもある。
その文の内容を読む。
「ふむ……大高城の城主、鵜殿長照殿が兵糧が足りないと言ってきましたか……殿。いかが致しますか」
「どうするも何もない。やるしか無いだろう」
元信は懐からもう一通の文を取り出す。
「これのこともあるしな」
その文は、平松商会からのものであった。
内容は、今川義元の指示に関わらず、大高城へ兵糧を運び入れよと書かれていた。
「まさかその文の通りになるとは……一体何なのですか、平松商会とは」
「さぁな……詳しい事は何も分からぬ。しかし、そこの長は信用の置ける方だ」
元康がそう言うと、忠次も頷く。
「左様ですな。殿がそう申されるのならばそうなのでしょう」
そして立ち上がり、終わりの方を見る。
「大高城は現在織田軍に包囲されております。それをどう突破するか、腕の見せ所ですな!」
「あぁ、我等三河衆の力の見せ所だ!」
今川義元が大軍を出陣させた。
その報せはすぐに信長のもとにもたらされ、家臣達は皆軍議をしていた。
しかし、その場に信長の姿は無かった。
「信長様は一体何を考えているのか!?」
「やはりうつけか……」
「もう頼らずに我等だけで……」
家臣達は織田家の窮地というこの状況で一向に姿を現さない信長に痺れを切らしていた。
しかし、次の瞬間戸が開かれ、信長が現れる。
「すまぬな。遅れた」
信長は一言そういうと、悪ぶれた様子もなく堂々と座り込む。
「さて、取り敢えず飯にしようか」
「な、何をおっしゃいますか!? この状況で呑気に飯など……」
「弱い犬ほどよく吠えると言う。この状況に慌てふためいておれば、後世まで弱者として語り継がれようぞ。まぁ、そうでなくとも儂はうつけ者として語り継がれそうだがな」
信長がそう言うと、家臣は皆黙った。
信長は先程の会話が聞こえていたのだ。
主君を侮辱した事が見抜かれていると知った家臣達は、これ以上信長の言葉に逆らう事は出来なかった。
少しの沈黙が流れると、食事が運ばれてくる。
「さぁ皆、よく食え。次に満足に飯が食えるのはいつか分からぬぞ。もしかすると、これが最後の飯やもしれぬしな」
「……」
その日、軍議は何も結論を出せずに終わった。
ただ、皆静かに飯を食い、信長の指示で兵も飯を呑気に食っていたと言う。
信長は食べ終わると一言。
「眠い」
そう言い放ち、寝所へ戻ったという。
家臣達は呆気にとられ、取り敢えず籠城の支度を整え始めた。
その報告を受け取った時田は、思わず笑みが溢れる。
「……うん。いい流れだね。これなら、勝てる」
すべては時田の思い通りに進んでいた。