「時田殿。応龍団への連絡、済ませました」
「よし。それじゃあ孫次郎君には東側の応龍団の指揮を任せます。私は尾張に戻って本隊の指揮に入りますので。連絡は可能な限り頻繁にお願いします」
「承知しました」
そう言い残し、時田は一人、馬を飛ばす。
道中、平松商会の支部で馬を替え、休むこと無くその日中に三河にたどり着いた。
支部には情報を早く行き渡らせるため替え馬を常に用意させている。
そして、それの対応の為にも常に一人は残るようにしているのだ。
それを利用したのである。
時田は早速三河の平松商会の本部に顔を出すのであった。
「平松殿! 居ますか!?」
「おお! 時田殿! 本当に帰って来ていたのだな!」
本部に顔を出すと、既にそこには武装を済ませた応龍団の者達が数名いた。
「孫次郎からの連絡は既に届いている。応龍団の集結予定地点は別だ。お冬と小次郎、康高もそちらに集まる予定となっている。急いで来た所悪いが、早速また移動だ」
「ええ……」
「はは! 安心せよ、すぐそこだ。ここにはさすがに千人も入れぬのでな。近くの山中に集まるのだ」
時田は疲れた体にムチを打ち、平松らとともに集結予定の山へと向かうのであった。
「おお……これが……」
時田は密かに集結した平松商会改め応龍団の面々を見て驚愕する。
千人の兵は皆銃を装備し、この時代ではまだ発明されていない筈の当世具足を皆が身にまとっている。
鬱蒼とした森林は切り開かれ、ちょっとしたグラウンドのようになっていた。
因みに、平松は忙しいらしく、今は一人であった。
「凄い……当世具足を全員が装備してるなんて……平松商会の資金力の強さが見て分かりますね……」
ふと、独り言を呟く。
「えぇ。時田殿がお冬殿に未来の知識を託してくださったお陰です。まぁ、難しい物はお冬殿も理解が及ばなかったようで、我らが出来る範囲で再現したのですが……試行錯誤を繰り返し性能の実験も完了して、充分実用可能です」
すると、いつの間にか隣に立っていた小次郎が時田の独り言に答える。
「小次郎君……いつの間に……あ、そう言えばありがとう。君の機転のおかげで孫次郎君と合流出来たし、ここまでこれた。やっぱり頼りになるね!」
「……えぇ、まぁ。そろそろ時田殿の神隠しにも慣れてきましたよ」
小次郎は何処か遠い目をしていた。
「あの後……一人で任務を完遂して……大変でした」
「あぁ……そっか……それは……ごめんね」
時田は軽く咳払いをして、話題を変える。
「で、私が居ない間の副長は何処にいるのかな? 色々とお話したいんだけど」
「あぁ、それでしたらもう間もなく康高殿と平松殿と共にあちらへ現れます」
小次郎が指差した方向にはちょっとした演説台のような物が設けられていた。
「あそこでお冬殿が皆に声かけをする予定です。規模がここまで拡大してからは総動員して任務に当たるのは初めてですので、今一度任務の目標の確認と士気を挙げておく為です」
「成る程……」
すると、演説台の下に康高が現れる。
それまでわらわらとしていた兵達に突如として緊張感が走る。
「総員整列!」
一人の隊長格の男がそう声をかけると先程まで自由にしていた全員が整列する。
そのさまは未来の軍隊だ。
すると次は平松が現れ、隊長格の男と挨拶を交わす。
「西部方面応龍団、総員、千五十六名、集合滞りなく終わりましでございます!」
「報告感謝する。楽にして休んでくれて良いぞ」
その隊長格の男に時田は見覚えがあった。
「あれは……平松殿の家臣だったよね?」
「そうですね。松平家の家臣から平松商会の立ち上げに関わり、その才能と忠義を認められて応龍団の西部方面の長をしています」
知らぬ間に変わっているなと感じる時田であった。
「お、来ましたよ」
すると、お冬が演説台に現れる。
上から皆を見渡した後、口を開いた。
「……皆、楽に聞いて下さい」
全くおどおどとしていないその姿を見て、時田はふと口を開いた。
「あれ……誰……?」