「……取り敢えず、入ろ」
何はともあれ、目の前には平松商会がある。
ならば、入らない手はない。
「ごめんくださーい」
建物の中には様々な品が並んでいる。
刀も売っていたし、米や野菜もあった。
全国に展開している平松商会だからこそ、様々な地域の様々な品を仕入れることが出来るのだ。
それが、平松商会の収入源にもなっている。
「はい、いらっしゃい……って……」
「おお! 孫次郎君! 良かった……知ってる人で……」
対応に出て来たのは、孫次郎であった。
「いやぁ、知らない人だったらどうしようかと思ったよ……」
その見知った顔に安堵する。
しかし、孫次郎は安堵どころの騒ぎではない。
「時田殿!?」
「あ、うん。そだよ」
「軽すぎます! こっちの身にもなって下さい! 貴方は四年も姿を消していたんですよ!」
そこで、意図せず知りたい情報が出て来る。
「そっか、四年か……」
「はい……まぁ、こちらの予測でも、今年現れるのでは無いか予測されていたのですが……」
「おお、優秀だね。さすがは平松商会」
時田は拍手する。
その様子に孫次郎は少し呆れつつも、溜息をつきながら奥へと案内する。
「はぁ……まぁ、帰ってきてくれたのはありがたいです。さ、入って下さい。丁度他の者も出払ってますし、貴方が居ない間の情勢の変化をお教え致します」
「へぇ、それじゃあ歴史通りに進んでるんだ」
「はい。信長様が伊勢方面に手を伸ばそうとしましたが、我々がそちらの方面に手を伸ばし、密かに軍事支援をすることで阻止しました。無論、支援した物資はすべて燃やし、ことが起こる前の状態に戻しましたが」
孫次郎から時田が居ない間の情勢を詳しく聞き、情勢把握に務めた。
分かったことは、やはり様々な問題が発生した事。
美濃の情勢が不安定な事に付け込もうと周辺諸国が手を出してきた等、歴史通りに進んでいないことがたくさんあった。
しかしそれらは全て平松商会の手によって密かに未然に防がれ、全て歴史通りに事が進んでいた。
「にしても、ここに予定通りに支部が作られて助かったよ、本当に。もし予定が狂ってここに支部が作られなかったらとおもうと……」
「あぁ、それでしたら小次郎殿にどうぞ。ここに支部を建設するように指示を出したのは小次郎殿ですから」
「へぇ……」
孫次郎は頷く。
「時田殿がこの場で消えたのなら、また現れるのも未来のここだと強く言い、真っ先に支部が建設されたのです」
「そっか……それは感謝しないと、だね」
そして、時田は軽く咳払いをし、本題に入る。
「さて、種は芽吹いたのかな?」
「……はい。全て滞りなく。今川義元は尾張侵攻を決意いたしました」
桶狭間の戦いが迫っていた。