その後、時田は下調べを済まし、付近の平松商会の仲間に報告をし、詳細を平松に届けてもらった。
そして、時田と小次郎は駿河、駿府城下町に入るのであった。
そこには、松平竹千代改め松平元信がいるからである。
「……とはいえ、どうやって接触するか……」
「そうですね……というか、無計画だったんですか」
時田は頷く。
「まぁ、竹千代君への接触は正確には種まき計画には含まれていないし、しなくても問題は無いんだけど……後々、平松商会の人が接触してくれるだろうし」
「でも、接触したほうが良いことは間違い無いのですよね?」
小次郎の言葉に再度頷く。
「ううん……接触したいけど、どうしたものか……」
悩んでいると、背後から声をかけられる。
「あの……」
「ん?」
振り返ると、そこには青年がいた。
「もしや……時田殿では?」
「……え……もしかして……」
そこには、かつての幼子の面影を残した青年がいた。
「竹千代君!?」
「やはり! 時田殿! お久しぶりです! 良かった……また会えて……」
それは、再開を待ち望んでいた、竹千代改め松平元信であった。
「いやぁ、大きくなったねぇ……本当に」
「ええ、あれから何年ですか……某はもう十五になりました。時田殿は……」
「う〜ん……正直、神隠しにあって時間感覚がおかしくなってね……ちゃんと数えてれば分かったんだろうけど……二十……くらいかな? いや、そこまで行ってないかも……ううん……」
時田と元信は一先ず駿府城の城下町から離れ、人目につかない場所に移し、立ちながらではあったが、再会を果たした。
小次郎と元信の供回りは空気を読んで離れてくれている。
「……にしても、本当にお変わり無いのですね……」
「まぁね。君が言った通り、時を跨いでるみたいでね。姿形も変わらず、この時代にこれたんだ」
と、そこで時田はとある事に気がつき、口調を正す。
「おっと……そういえば、今川一門に準じるお立場になられんでしたか……馴れ馴れしすぎましたかね」
「いえ! 時田殿には変わらず接していただけると!」
この年、松平元信は今川義元の姪とされる関口親永の娘、築山殿と婚姻し、今川義元から元の字をもらい、今川家の一門に連なる立場となった。
時田は笑い、口調を元にもどしつつ本題に入った。
「でね、本題なんだけど……実は私達、君を探してたんだ」
「私を?」
頷き、続ける。
「うん。今回、私達は平松商会……まぁ、何となく察してくれるとありがたいけど、私達なりの目的で動いてるの。それで、竹千代君にはとある事だけ覚えてもらいたいの」
「……平松商会……」
元信は商会の名を気にしているようであった。
しかし、すぐに納得し頷いていた。
「平松商会については何となく分かりました。それで、覚えておいて欲しいこととは?」
「うん。今後、平松商会がこの地に進出してくる予定なんだけど、四年後、その平松商会から何かしらの要請が非公式にある筈なの」
「要請……」
時田は頷き、続ける。
「そう。それに出来れば応じて欲しい。それが覚えておいて欲しい事」
「……分かりました。覚えておきます。他ならぬ時田殿の頼みとあれば、必ず動きます」
元信が承諾した事で、平松商会の目的は果たされる。
そして、今度は時田の私情であった。
「じゃ、久々に将棋でも打とうか!」
「はい! 是非!」
その後、時田は昔話に花を咲かせつつ、将棋が打てる場所まで移動し、元信と将棋を楽しんだのであった。
(……結局竹千代呼びだし……それに、忘れられてる気がする……)
小次郎は、完全に蚊帳の外である。