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第92話 松平元信

 その後、時田は下調べを済まし、付近の平松商会の仲間に報告をし、詳細を平松に届けてもらった。

 そして、時田と小次郎は駿河、駿府城下町に入るのであった。

 そこには、松平竹千代改め松平元信がいるからである。


「……とはいえ、どうやって接触するか……」

「そうですね……というか、無計画だったんですか」


 時田は頷く。


「まぁ、竹千代君への接触は正確には種まき計画には含まれていないし、しなくても問題は無いんだけど……後々、平松商会の人が接触してくれるだろうし」

「でも、接触したほうが良いことは間違い無いのですよね?」


 小次郎の言葉に再度頷く。


「ううん……接触したいけど、どうしたものか……」


 悩んでいると、背後から声をかけられる。


「あの……」

「ん?」


 振り返ると、そこには青年がいた。


「もしや……時田殿では?」

「……え……もしかして……」


 そこには、かつての幼子の面影を残した青年がいた。


「竹千代君!?」

「やはり! 時田殿! お久しぶりです! 良かった……また会えて……」


 それは、再開を待ち望んでいた、竹千代改め松平元信であった。




「いやぁ、大きくなったねぇ……本当に」

「ええ、あれから何年ですか……某はもう十五になりました。時田殿は……」

「う〜ん……正直、神隠しにあって時間感覚がおかしくなってね……ちゃんと数えてれば分かったんだろうけど……二十……くらいかな? いや、そこまで行ってないかも……ううん……」


 時田と元信は一先ず駿府城の城下町から離れ、人目につかない場所に移し、立ちながらではあったが、再会を果たした。

 小次郎と元信の供回りは空気を読んで離れてくれている。


「……にしても、本当にお変わり無いのですね……」

「まぁね。君が言った通り、時を跨いでるみたいでね。姿形も変わらず、この時代にこれたんだ」


 と、そこで時田はとある事に気がつき、口調を正す。


「おっと……そういえば、今川一門に準じるお立場になられんでしたか……馴れ馴れしすぎましたかね」

「いえ! 時田殿には変わらず接していただけると!」


 この年、松平元信は今川義元の姪とされる関口親永の娘、築山殿と婚姻し、今川義元から元の字をもらい、今川家の一門に連なる立場となった。

 時田は笑い、口調を元にもどしつつ本題に入った。


「でね、本題なんだけど……実は私達、君を探してたんだ」

「私を?」


 頷き、続ける。


「うん。今回、私達は平松商会……まぁ、何となく察してくれるとありがたいけど、私達なりの目的で動いてるの。それで、竹千代君にはとある事だけ覚えてもらいたいの」

「……平松商会……」


 元信は商会の名を気にしているようであった。

 しかし、すぐに納得し頷いていた。


「平松商会については何となく分かりました。それで、覚えておいて欲しいこととは?」

「うん。今後、平松商会がこの地に進出してくる予定なんだけど、四年後、その平松商会から何かしらの要請が非公式にある筈なの」

「要請……」


 時田は頷き、続ける。


「そう。それに出来れば応じて欲しい。それが覚えておいて欲しい事」

「……分かりました。覚えておきます。他ならぬ時田殿の頼みとあれば、必ず動きます」


 元信が承諾した事で、平松商会の目的は果たされる。

 そして、今度は時田の私情であった。


「じゃ、久々に将棋でも打とうか!」

「はい! 是非!」


 その後、時田は昔話に花を咲かせつつ、将棋が打てる場所まで移動し、元信と将棋を楽しんだのであった。


(……結局竹千代呼びだし……それに、忘れられてる気がする……)


 小次郎は、完全に蚊帳の外である。

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