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第88話 新たな名

「ええと……いきなり過ぎません?」

「ええ。さっき思いついたので。暗い雰囲気も何ですし、少し話題を変えましょうか」


 時田は流れに乗っていけない者達を置いていき、話し続ける。


「実はですね。いろいろと思ったのですが、戦の最中も平松商会として動くのはどうかと思うのです。戦の間は名を変え形を変え、そうですね……家紋のような物を旗印に書き、我らの印としましょう」

「……まぁ、確かに我々の旗が無いのは気になっていた」


 すると、平松が口を開く。


「儂も元々は松平家の当主だったからな。旗印は欲しいとは思っておった」

「……え」


 すると、今度は時田が度肝を抜かれる。


「それ、言っちゃって良いんですか?」

「ん? あぁ、もう周知の沙汰だろう。ここにいる奴等は、の話だが」


 あたりを見渡すと、傷ついた兵等も含めて皆頷いており、肯定していた。

 恐らく、この場にいる兵は平松のお抱えの者達なのであろう。


「……まぁ、平松商会の長からも了承頂けたので意見を募ろうかと思います。何かある人います?」


 しかし、あまりにも突然の申し出に、誰も答えられずにいた。


「まぁ……そうですよね。いきなりは……」

「……一つ良いか」


 すると、康高が手を挙げる。


「名前の案では無いが、一つの意見としてだが」

「はい。良いですよ」

「あんたの最終目標は戦の無い世を作る、だろ」


 時田は康高の問いに頷く。


「なら、戦の無い世に現れるという麒麟の言葉を使った名はどうだ? 旗印に麒麟を描くというのも手だと思うが」

「……それ良いですね!」


 すると、時田ではなく小次郎がそれに良い反応をする。


「名前も神獣を組み込んだものにするのはどうでしょう」

「……神獣……麒麟とくれば……四霊ですか」


 四霊とは、応龍、霊亀、麒麟、鳳凰の四つの伝説の生き物である。

 時田は頷き、その案を受け入れる。


「……では、応龍隊……っていうのはどうでしょう」

「成る程……応龍は麒麟を生むという話を聞いた事がある。しかし……隊と言うのは些か安直ではないか?」

「むぅ……では、平松殿。何か案を下さい」


 すると、平松は答えない。

 案は持っていなかったようだ。

 その代わりに孫次郎が口を開いた。


「隊……とすると、規模が小さい気がしますね……規模を大きくすると……衆……軍……いえ、軍では戦の無い世を作る、というのに矛盾している気も……」

「……じゃあ、団……はどうかな」


 そこで、時田が口を開く。


「応龍団。これでどうかな?」

「……まぁ悪くは無いのではないか? 儂は賛成だ」


 あたりを見渡すも、誰も反対意見を言わない。

 その様子を見て、時田は頷く。


「では、これからは我々は、平時は平松商会、有事の際は応龍団として動きます。旗印は麒麟を模した物に。では、そういうことで宜しくお願いしますね!」


 平松商会の新たな名が決まった。

 その名が決まった事は小さな事ではあったが、旗印と合わせて皆の方針が定まった瞬間でもあった。

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