「ええと……いきなり過ぎません?」
「ええ。さっき思いついたので。暗い雰囲気も何ですし、少し話題を変えましょうか」
時田は流れに乗っていけない者達を置いていき、話し続ける。
「実はですね。いろいろと思ったのですが、戦の最中も平松商会として動くのはどうかと思うのです。戦の間は名を変え形を変え、そうですね……家紋のような物を旗印に書き、我らの印としましょう」
「……まぁ、確かに我々の旗が無いのは気になっていた」
すると、平松が口を開く。
「儂も元々は松平家の当主だったからな。旗印は欲しいとは思っておった」
「……え」
すると、今度は時田が度肝を抜かれる。
「それ、言っちゃって良いんですか?」
「ん? あぁ、もう周知の沙汰だろう。ここにいる奴等は、の話だが」
あたりを見渡すと、傷ついた兵等も含めて皆頷いており、肯定していた。
恐らく、この場にいる兵は平松のお抱えの者達なのであろう。
「……まぁ、平松商会の長からも了承頂けたので意見を募ろうかと思います。何かある人います?」
しかし、あまりにも突然の申し出に、誰も答えられずにいた。
「まぁ……そうですよね。いきなりは……」
「……一つ良いか」
すると、康高が手を挙げる。
「名前の案では無いが、一つの意見としてだが」
「はい。良いですよ」
「あんたの最終目標は戦の無い世を作る、だろ」
時田は康高の問いに頷く。
「なら、戦の無い世に現れるという麒麟の言葉を使った名はどうだ? 旗印に麒麟を描くというのも手だと思うが」
「……それ良いですね!」
すると、時田ではなく小次郎がそれに良い反応をする。
「名前も神獣を組み込んだものにするのはどうでしょう」
「……神獣……麒麟とくれば……四霊ですか」
四霊とは、応龍、霊亀、麒麟、鳳凰の四つの伝説の生き物である。
時田は頷き、その案を受け入れる。
「……では、応龍隊……っていうのはどうでしょう」
「成る程……応龍は麒麟を生むという話を聞いた事がある。しかし……隊と言うのは些か安直ではないか?」
「むぅ……では、平松殿。何か案を下さい」
すると、平松は答えない。
案は持っていなかったようだ。
その代わりに孫次郎が口を開いた。
「隊……とすると、規模が小さい気がしますね……規模を大きくすると……衆……軍……いえ、軍では戦の無い世を作る、というのに矛盾している気も……」
「……じゃあ、団……はどうかな」
そこで、時田が口を開く。
「応龍団。これでどうかな?」
「……まぁ悪くは無いのではないか? 儂は賛成だ」
あたりを見渡すも、誰も反対意見を言わない。
その様子を見て、時田は頷く。
「では、これからは我々は、平時は平松商会、有事の際は応龍団として動きます。旗印は麒麟を模した物に。では、そういうことで宜しくお願いしますね!」
平松商会の新たな名が決まった。
その名が決まった事は小さな事ではあったが、旗印と合わせて皆の方針が定まった瞬間でもあった。