「お、来たか時田殿」
時田は稲葉山城内で休息をとる平松商会の下に姿を現した。
目の前には傷だらけの仲間達が居た。
しかし、皆の顔は何処か明るかった。
「……」
それらを見て、時田は少し深呼吸をしてから平松に問う。
「……損害報告をお願いします」
「あぁ」
平松は近くに居た孫次郎に声をかける。
「……死者、十八名。重傷者、三十七名。軽傷者六十五名。銃が数丁壊れましたが、予備もあるので戦闘能力に問題はありません。亡くなった者は既に生まれ故郷へ帰れるように手配しております。また、死亡により損害の出た支部には改めて人員を送り、再編成致します」
「……ありがとうございます」
報告を聞いた時田の 顔は全く明るくなかった。
城攻めに成功した将の顔ではなかったのだ。
「……にしても孫次郎。城攻めで被害がたったのこれだけとは、偉業だよな」
「え? え、ええ! そうですよ! 相手のほうが数が多いのに加え、我々は野戦に続いて城攻めをして、しかも勝ったんですから! それなのにたったこれだけの被害というのは、凄いことですよ!」
二人は時田の心情を察したのか、必死に励ましてくる。
「それも時田殿が訓練の項目に応急救護を入れたおかげだな。全兵に包帯が配られ、皆止血の方法をしっかりと理解していた。もしあの訓練と装備がなければ、被害はもっと大きく、組織の再編に数年は費やしただろうな」
「……そうだぜ? もっと胸を張りな」
すると、近くで話を聞いていた大須賀康高も近寄って来る。
「あんたは多くの命を救ったんだ。無論、失った命もある。しかし、あんたがこの戦に介入しなければ義龍は更に多くの兵を集め、織田殿の援軍とも合わせて両軍共に甚大な被害が出ただろう。それを未然に防いだのはあんただ。時田殿」
その言葉を聞き、時田は頷く。
「……そうですね。すいません。初の大規模な戦で少し弱気になってたみたいです。報告、ありがとうございます」
そして、時田は振り返り、柱の陰に隠れてこちらを見ていた男に声を掛ける。
「で、小次郎君はどうして出てきてくれないんですかね?」
「え!? え、ええと……」
すると、柱の陰から小次郎が出て来る。
その様子を見て察した康高が笑う。
「は! 大方、俺達に言いたいことを全部言われて、今さら出てきてどんな事を言えば良いか分からなくなったって所か!」
「……ええ、その通りですよ!」
すると、吹っ切れたのか、小次郎は観念して堂々と皆の前に出て来る。
「皆に言いたいことは言われましたが、自分も含めて時田殿には助けられた命は多いんです。それこそ、平松殿もそうですし。もっと自分に自信を持って下さい!」
「……分かりました。皆には敵いませんね。これからは堂々としていきます。ということで、気を取り直して」
時田は軽く咳払いをし、大きな声で堂々と言った。
「では! これより平松商会の名を改める会議を行います! 意見のあるものは自信を持って発言してください!」
「……は?」
時田の突然の発言に、皆困惑するのであった。