「よ、義龍様!」
「どうした!? 時田がいよいよ仕掛けてきたか!?」
斎藤義龍は本丸にて伝令の報告を聞く。
義龍が想定していた以上に時田の軍は手強く、明智の手勢も加えて苦戦を強いられていた。
それ故に義龍も手勢のほとんどを時田らのいる南側へ配置したのである。
(まさかあやつにあれほどの兵がいるとは……油断していた訳では無いが、甘く見過ぎていたな)
義龍は時田が稲葉山城を去った後、城の守りを固めた。
義龍と道三の決別で、義龍に味方した諸将が多かったものの、戦はまだ遠いと稲葉山城にはある程度の兵しか残されていなかった。
しかし、それだけでも難攻不落を誇る稲葉山城を守り通すことは出来ると考えていたのだ。
義龍は伝令の返答を待たずに答える。
「仕方が無い! 後退しつつ……」
「い、いえ! 違うのです!」
しかし、伝令はそれを否定する。
「て、敵の別動隊が水手道を攻め上ってきております!」
「な、何だと!? どこにそんな兵力を隠していたのだ!?」
そこで、義龍はとある事に気が付く。
「……思えばここ最近、間者の報告が上がってくるのが遅かった……まさか、これも時田の仕業か!? 敵の旗印は!?」
「そ、それが……」
伝令は口にするのをためらう。
「早く言わぬか!」
「さ、斎藤家の旗印でございます! 恐らく、斎藤道三様かと!」
「な……」
その報告を聞き、義龍は困惑する。
「ど、どういう事だ!? 奴は雪解けまでは動かぬと……」
「し、しかし攻めて来ているのは事実です!」
あまりにも突然の状況に、義龍は困惑するも、すぐさま指示を飛ばす。
「くっ……急ぎ兵を回せ! 水手道は本丸へと至る道。破られるわけには行かん!」
「そ、それが、既にすぐそこまで来ております!」
「な……どういう事だ!」
義龍の圧の強い問いかけに、伝令は臆すること無く答える。
「そ、それがあらかじめ破壊工作がなされていたようで、城壁や城門、尽くが燃え、配備していた兵が少ない事もあって……敵勢、既に目と鼻の先でございます!」
「くっ……」
「い、今は現場の判断で防御能力を失った箇所は捨て、近くの兵もかき集めて抵抗しているとのこと! しかし、すぐにでも破られるだろうとのことです!」
その報告がを聞き、義龍は暫く考える。
そして、指示を下す。
「……よし、ならば、本丸の兵すべてをもってして南側の主力の集まる地へと向かう。向こうは時田らと対峙しているが、兵力的にもまだ優位。ここで儂が討たれれば負けが決まる。あわよくば時田らを打ち倒し、残された兵力と合わせて考え、そのまま本丸を取り返すか、ここを離脱し諸将が集まるのを待って道三を討つか決めるぞ。良いな」
「は!」
今後の方針が決まり、自らも出陣しようと腰を上げた矢先、また別の伝令が駆け込んでくる。
「で、伝令!」
「今度は何事だ!?」
「と、時田勢、攻め寄せてまいりました! 予め何者かによって城門や城壁が破壊されていたようで、防ぎきれておりません! 既に主力は壊滅状態! 残された兵はここ本丸を目指して戻って来ております!」
その報告がを聞き、義龍は座り込む。
「……まずはここのすべての兵で道三の方を抑えよ。南の主力がここに到達し次第、すぐに態勢を立て直せ。手の空いている者は城門や城壁に不備が無いか再度確認せよ」
「は!」
義龍は逃げ場が無いことを悟る。
「さて……腹を決めるとしようか」