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第41話 初戦の結末

「攻め続けよ! 殿の仇を討て!」

「決して通すな! 織田の力を見せつけてやれ!」


 今川方先鋒、松平勢の攻勢は昼夜問わず続いていた。

 しかし信広も良く防ぎ、戦は続いていた。


「忠高殿! これ以上はもう保たぬ! 一度引くぞ!」

「いいや! もう一押しで勝てる! 残すは本丸のみなのだぞ!」

「しかしもうすでに限界だ!」

「ええい! 邪魔だ!」


 静止する大久保忠俊の言葉を聞かず、忠高は攻め続ける。

 既に織田方、松平方双方ともに限界がきていた。

 しかし攻め手の松平勢の方が、若干被害が大きかった。


「くっ! 儂が前に出る! 皆、ついてこい!」


 忠高は自ら槍を振るい、敵兵を倒していく。

 その勢いに押され、織田方は引き始める。

 すると、本丸の城門が開く。


「退け! 退けぇ! 本丸で耐えるぞ!」


 城外の敵兵は皆、本丸へと退いていく。

 本丸の城門は、まだ少しだけ開いていた。


「今だ! 城門は空いておるぞ! なだれ込め!」

「ま、待て! 忠高殿! 罠だ!」


 忠高が一人、先頭に立って城門へと走って行った。

 しかし、兵達は疲労から殆どついていけず、忠高のみが本丸の城門の前に辿り着いた。

 その次の瞬間、再度城門が完全に開かれる。


「な……」


 するとそこには、大量の織田兵が弓を構えていた。

 思いもしない展開に、忠高の足は止まる。


「本多忠高! 覚悟せよ!」

「織田信広……か……」


 織田兵の先頭には織田信広が立っていた。

 そして、兵達に一斉射の合図を出すため、手を挙げていた。


「ちぃっ!」


 忠高は槍を握りしめ、敵に突っ込む。


「我こそは本多忠高! 先代、松平清康様の代より仕えし者である! 我と矛を交えし事、誇りに思うがよい!」

「……放てぇ!」


 信広は手を振り下ろす。

 それと同時に無数の矢が忠高目がけて放たれる。


「……ぐっ」


 忠高に無数の矢が突き刺さる。

 しかし、忠高はまだ膝をつかない。

 槍を地面につき、かろうじて立っていた。


「ま……だ……まだ……」


 槍を杖代わりに一歩ずつ、少しずつ歩みを進める。


「まだだ!」


 本多忠高は刀を抜き、最後の力を振り絞って信広めがけて刀を投げる。

 その刀は、信広に届く。


「く……」


 しかし、信広に届く頃には既に勢いは無く、鎧に弾かれるのであった。


「……本多忠高……誠に見事な武士である」


 信広は兵から弓を受け取り、矢をつがえる。


「さらばだ……松平家一の忠臣、本多忠高よ」

「……ふっ」


 忠高が最後に見せた顔は、笑っていた。

 信広は矢を放つ。

 放たれた矢は忠高の眉間に突き刺さる。

 そして、忠高はついに倒れた。


「……忠高殿……」

「大久保様……如何なさいますか?」


 その一部始終を見ていた大久保忠俊はすぐさま決を下す。


「撤退だ。忠高殿のお陰で我等は敵の罠にかからなかったのだ。無駄にするな」

「……は」

「ああして注目を集めることで、我等に攻撃が来ぬようにしたのだ……退くぞ」


 松平勢は兵を引く。

 織田勢も、それを追うことは無かった。


「本多忠高……か」


 信広は忠高の遺体に近付き、手を合わせる。


「誠に天晴よ……しかし、今川の本隊が残っている……いつまで凌ぎきれるか……」


 安城合戦は、まだ終わらない。

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