「松平広忠の暗殺……竹千代殿を連れてそのようなことを?」
「……信秀様より授かった任は、それでございます」
時田の発言は、ある程度は予測していたようで、忠尚は驚かない。
しかし、やはり竹千代を連れていることが引っかかっているようであった。
「……では、何故竹千代殿を連れているのか聞こう」
「……私の独断です。竹千代様にお父上との……家族との時間を取り戻してあげたいと思い、ここまで連れて来ました。広忠殿の暗殺は、私が失敗しても必ずや信秀様は遂行なされる。ならば、と」
時田の瞳は真っ直ぐ、忠尚を見つめていた。
その眼差しに、忠尚は答える。
「成る程な。お主のその優しさ、理解した。しかし広忠殿はどうするのだ? 広忠殿を殺さないわけには行くまい?」
「はい。そこについては策はあります」
時田はここまで準備を進めてきた策の説明を包み隠さずする。
すると、忠尚は頷く。
「ふむ……大体は良いだろう……が、後は広忠殿が首を縦にふるかどうかだな」
「はい。そこは、全力で説得します。泣き落としでも何でも使って」
忠尚はしばらく考え、口を開いた。
「……時田殿。その策、協力してもよいが、二つ条件をつけさせてもらう」
「……何でしょうか」
「まず一つ目。今後、松平広忠を表舞台に立たせない事だ。つまり、表向きには松平広忠は確実に死んだということにしてもらう。永遠にな」
「……もう一つは?」
忠尚は少し笑うと、続ける。
「織田家での立場の約束。広忠が消えれば、我等は松平家に対して反旗を翻そう。そして、松平の旧支配領域と合わせて、織田方につこうと言うのだ。その際の織田家での確たる立場を約束してもらいたい」
「成る程……松平を度々裏切り、織田家についているということは織田家も度々裏切っているということ。その保険ですか」
「そうだ。流石だな」
時田はしばらく考える。
正直に言えば、時田の一存で決められる話ではない。
しかし、信長にこの話を通せば、信長を通じて信秀を説得するのも不可能ではない。
時田は考えた末、頷いた。
「分かりました。最大限、善処してみます」
「うむ。ならば我等もその策、協力しよう。良いな? 康高?」
名を呼ばれた康高は答える。
「は! 時田殿の策、しかと理解致しました! 全力を持って、お助けいたしまする!」
「うむ。励めよ」
酒井忠尚としては、時田が約束さえ守ってくれれば、松平の代わりに三河を治める事が出来る。
突飛もない話ではあったが、時田は忠尚が首を縦に振ることは予測がついていた。
「では時田殿。一度お主の手勢をこの城に招き入れたい。しばし休息を取ってくれ。確実に広忠を消し去るためにな」
「はい。ご厚意感謝いたします」
かくして、時田一行は上野城に入城する。
一日程の休息の後、時田は大須賀康高と榊原長政を新たに連れて広忠のいる岡崎城へと向かう事となる。
(さぁ、後は松平広忠を説得出来るかにかかってる……歴史を変えられるかどうかは、私次第だ……頑張れ……私!)