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第24話 心強い味方

「父上から話は聞いたぞ、時田。松平広忠を殺すのだそうだな?」

「はい……もう聞いたのですか?」


 信長は頷く。


「うむ。竹千代と楽しく将棋をしていた時田にそのようなことが出来るとは思えなくてな。もしやと思い、竹千代の下を訪れてみたら、こうなったのだ」

「私は、信長様よりその話を聞き、少し心配になったので……」


 すると、時田は少し意外な顔をする。


「……信長様、帰蝶様……心配してくれたのですか?」

「……まぁな」

「……心配というか……その……」


 二人はすこし気恥ずかしいのか、言葉を濁す。

 その様子を見て、時田は嬉しく思った。


「……ありがとうございます。……しかし、何故手伝い等……信長様の身も危なくなりますが……」

「……儂もな、竹千代のことは不憫に思うておるのだ」


 信長は、どこか遠い目をする。


「儂の母上は、弟の信勝を溺愛しておる……母上からの愛情という物を、儂は知らん。竹千代もだ。幼き頃より人質として送られ、親の愛情を受けて育っておらん。どうにかしてやりたいと思っておったのだ」

「そうだったのですか……」

「信長様……ありがとうございます」


 信長の事情を知り、竹千代も感謝を口にする。

 すると、信長はあたりを確認し、時田と竹千代をもう一度部屋へ戻す。


「さて、時田よ。お主の策を聞こうか。無策ではあるまい?」

「はい。勿論です。ある程度は考えてありました」


 皆が座り、時田の話を聞く。


「まず松平の領内に入る前に、安祥城の織田信広様にご挨拶します。そして、三河の近況等を詳しく聞きます」

「うむ。ここで聞いた三河の情報は現地よりも遅れているからな。それが良いだろう」

「そして、その後三河の地に詳しい商人の息子という設定の竹千代様を安祥城の城下にて雇った事にし、三河へ入ります」

「そして、商人として三河領内で商いをし、広忠殿に近付くと……しかし、三河には竹千代殿の事を知る者もおりましょう。大丈夫でしょうか……」


 帰蝶の言葉に、時田は頷く。


「無論、承知しております。そこで、信広様に会う前にまずは於大の方様にお会いします」

「ふむ……たしか、坂部城の久松とやらに嫁いだらしいな。安祥城の西か……確かに、位置的には先に訪ねた方がよかろう」

「母上に……会えるのですか?」


 竹千代の言葉に時田は優しく頷く。


「はい。会えます。そこで、少し時間を作ります。心ゆくまでお話して下さい。そして、一体どれほどの人が竹千代様の事を知っているのか、於大の方様にお聞きします。そして、竹千代様の事を知らない松平の家臣に、商人として近付き、松平家に潜入いたします」

「ふむ……戦が近い故、兵糧や武器等を売り込みに……とすれば可能か? それらの物資は信広兄上早馬で伝え、用意してもらった方が早いだろう」


 信長のその言葉に時田は頷く。


「私もそう考えておりました」

「潜入した後はどうする? どうやって広忠殿を殺さず、暗殺を遂行するのだ?」

「それは……」


 時田は二人に事細かく説明していく。

 その時田の策に、二人は納得し、頷く。


「成る程な……まぁ、それならば何とかなるか……」

「ですが、上手くいくでしょうか……向こうの対応次第という事もありますが……」

「成功させます。必ずや」


 信長は時田の真っ直ぐな瞳を見て、成功を確信していた。

 しかし、信長はとある事に気が付く。


「……待てよ、竹千代がいない間、ここでの誤魔化しはどうするつもりだ?」

「……」


 しかし、時田は答えない。

 先程とは違い、決意に満ちた瞳が右往左往している。


「……もしやお主……そこの考えはまだなのか?」

「……え、ええと……影武者的なのを……」

「流石に分かると思いますよ」


 帰蝶のその言葉で、時田は肩を落とす。

 その様子を見た竹千代が口を開く。


「……時田殿。私の事はもう……」

「いいや、竹千代。諦めるにはまだまだ早い。儂がなんとかしよう」


 竹千代が諦めかけたその時、それを見かねた信長が口を開いた。


「こういう時こそ、儂の力を使うときだな。全力で誤魔化そう。毎日のように遠乗りに連れ回され、疲れ果て、帰ったら泥のように眠っている等と言っておく。細かい事は任せておけ」

「信長様……ありがとうございます!」


 時田は頭を下げる。


「うむ。では、広忠殿の暗殺の任を殺さずに果たし、そして必ずや竹千代を連れて戻って来い。信じて待っておるぞ」

「はい! ありがとうございます!」


 時田は思う。


(これは、実験だ。歴史を変えたら、どうなるのか。念の為、修正が可能なように、表立っては暗殺されたという事に出来る今がチャンス……気を引き締めないと)


 もしかすれば、消えるかもしれない。

 そんな不安を抱えたまま、時田は尾張を発つのであった。

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