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第21話 真相の片鱗

「松平……竹千代……様?」


 この時代、徳川家康、幼名、松平竹千代は織田家へ人質に出ていた。

 信長と直接関わりがあったと言う歴史書は残っていないが、全くの関わりが無かったと考えるのは難しい。

 どちらにせよ、今目の前には後の天下人が二人いる。

 織田信長は天下を統一していないということになっているが、当時の天下統一とは畿内のみなので、当時の感覚で言えば天下を取った言えるのだ。


「あ、えと……時田光と申します。信長様の正室、帰蝶様の侍女として斎藤家より参りました」


 時田も軽く挨拶を済ませる。

 が、先程の時田の表情が、信長は気になったようだった。


「どうしたんだ? 神様でも見つけたような顔をして。神隠しにでも合うのか?」

「いえ、神隠しには……え? 信長様、もしかして帰蝶様から聞きましたか?」


 すると、信長は笑顔で頷く。


「うむ。中々面白い。神隠しにあう時は言ってくれ」

「……申し訳ありませんが、いつ神隠しにあうかなんて分かりません。あいたくてあってるものではないので」

「……信長様。神隠しとは? 時田殿が神隠しにあわれるのですか?」


 信長は頷く。


「うむ。つい最近な、この者は二年間程行方をくらましていたそうだ。そしてある時、突如として消えたその場に突然現れたのだそうだ」

「……それは……どういうことですか?」


 竹千代は何も理解出来ていなかった。

 竹千代は時田を見て聞く。


「いやぁ……私にも何が何だか……気が付いたら夕日が朝日に変わってて……としか。全く分かりませんね」

「……それは、時田殿の目線からみれば、時を跨いだという事になりますね」


 竹千代は鋭く、時田の現状を読み解く。

 その鋭さに信長は驚く。


「ふむ……なる程な。そう捉えることも出来るか……」


 竹千代の鋭さに、時田も驚いていた。

 そして、恐る恐る口を開く。


「……竹千代様。もし……もし大人になって これから起こること全てを知った上で、神様から過去に戻ってやり直せる機会が与えられたのなら……あなたなら、歴史を変えますか? その結果、自分が死んで……消えてしまうとしても」

「……時田、それは……」


 信長が何かを口にしかけたが、やめる。

 そして、竹千代が答える。


「それは……歴史を変えてしまったが故に、自分が辿ってきた歴史が消え、それと同時に自分も消えてしまう……ということですか?」


 時田は頷く。

 そして、やはりこの子ならば何かヒントが得られるかもと、期待した。


「……それは……難しいですね」

「……やっぱり、そうですよね」


 時田は流石に子供には難しいか、と諦めた。

 しかし、竹千代は続ける。


「でも、私が神様なら、歴史を変えたからと言ってその人を消すような事はしません。そんな理不尽、酷すぎます」

「……成る程。ありがとうございます」


 しばらくの沈黙が流れる。

 そして、その状況を見かねた信長が口を開いた。


「……さて、話し込んでしまったな……本来ならば竹千代に外の空気を吸わせてやろうと思ったが……」

「……私は望んでおりません」


 竹千代がそう言うと、時田の後ろに隠れる。


「だから時田殿と遊んでいたのです。私は中で書物でも読んでいたほうが楽しゅうございます。信長様は少々強引な所がありますので」

「あー、成る程……」

「お、そうだ。忘れておった」


 信長は何かを思い出し、時田に告げる。


「父上がお主を呼んでおったぞ。只の侍女が呼ばれるとは……お主何をした?」

「……何も心当たりは無いんですけど……」


 織田家に来てからというもの、次から次へと忙しい。

 そう考えた時田は溜息をついた。


「急いだ方が良いぞ。儂は時田を探すついでに竹千代を探しておったからな。お主らが将棋を指している間もずっとな」

「はぁ……では、行ってきます」

「あ……」


 その場を立ち去ろうとすると、時田は服の裾を掴まれる。

 振り向くと、竹千代が何かを言いたそうにしていた。


「ん? どうかされました?」

「……あの……また、将棋を指してくれますか?」


 その竹千代の問いに、時田は笑顔で答える。


「勿論! いつでも呼んで下さいね!」


  そのまま、時田は頭を下げ、去っていった。


「……竹千代。あの女子はお主には荷が重いと思うぞ?」

「……なんの事でしょうか」


 竹千代の心境を時田が知る事は無い。

 しかし、竹千代、徳川家康との縁は今後も続いて行く事となる。

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