「……思ったんだけど……私の方が年上になったのかな?」
「うん……そうだと思う」
後日、時田はおさとと話をしていた。
親友との二年の月日を埋めるように、夜遅くまで話し続けていた。
「でも、気にしなくていいからね? 昔みたいに仲良くしてね?」
「勿論! でも、ちょっと不安なのが……」
時田は稲葉山城のある方を見る。
「利政様が織田家との婚姻同盟の話を受けて、高政様との仲が少し悪くなったのが……」
「あぁ……高政様、光のこと嫌ってるからね……」
「うん……何も気にせず、ここで生活できたら楽なんだけどな……」
斎藤利政は、織田信秀が申し出た婚姻同盟の締結を決めた。
しかし、その決めた要因に、時田の一言があったと言うことが高政の耳に入ると、高政は時田の帰還と時田の発言が利政を動かしたことに大きく不満を覚えた。
というのも高政は織田との同盟を反対しており、多くの家臣も反対していた。
弱小とも言える織田との同盟は、織田と敵対している大大名、今川を敵にすることも同意であるからだ。
そんな中で、出自不明の時田の発言が利政を動かしたとあっては、不満を抱えない者は少なくなかった。
「目の敵にされちゃってるからね……何事もないと良いけど」
「……そして、何故か私が帰蝶様の輿入れに一緒についていく事に……なんで……」
時田は頭を抱える。
「あ〜〜! できれば面倒事は避けたいのに!」
「まぁ、仕方ないでしょ。言い出したのは光なんだし、利政様の言う通り、信長という人がどういう人なのか、見極めてきたら?」
「うん……」
しかし、時田は人に言えぬ悩みも抱えていた。
何せ、明智光秀、つまり自分が殺した織田信長と対峙する事になるのだ。
「さて、明日も早いし、もう寝るね」
「うん! おやすみ! 頑張ってね!」
「帰蝶、向こうでも元気でな」
「はい。父上」
帰蝶が輿に乗る。
遠くからではあったが、それでも、美人であることは分かった。
「……あれが……ちゃんと見れたら、思い出せるのかな……」
明智家と帰蝶の母である小見の方とは関わりが深い。
というのも、明智光秀と小見の方は遠戚関係にあり、血が繋がっている。
「……い……た」
この日まで、明智城で姿を見ることは無かったが、時田が来る以前は城にもよく顔を出していたらしい。
そんな関わりの深い帰蝶を見れば、また何か思い出すのでは無いかと、時田は考えていた。
「おい! 聞いているのか時田!」
「え!? あ、利政様!」
気が付くと、すぐ近くに利政がきていた。
考え事に夢中で全く気が付かなかった。
「ど、どうされました?」
「どうしたもこうしたもない。お主の目で織田信長を見て、どう思ったかを報告せよ。ただの帰蝶の侍女として赴けば、そこまで疑われもせずに織田の内情をさぐれよう」
その利政の言葉に時田は質問を返す。
「こんな体ですし……もし、怪しまれたら……」
「そんなとこまでは知らん。お主の目と指のことは自分でどうにかせよ。だが、帰蝶の身に何かあれば只ではすまんぞ」
利政から静かな圧が伝わる。
時田は頷き、答える。
「必ず、役目を果たしてまいります」
「うむ。時が来るまで、お主は織田家の中で探れるものを全て探れ。時が来れば戻れるように手配する。良いな」
「はい!」
帰蝶が輿入れされる。
織田との婚姻同盟が締結される。
天文十八年、1549年、二月の事であった。