「はぁ……」
「光? どうしたの? お城で何かあった?」
明智城に返って来た時田は溜息をついた。
既に日は暮れ、やることもなくなった時田とおさとは時田の部屋で話していた。
深くため息をつく時田。
そんな様子を見ておさとが声をかける。
「……戦が近いからって意見を聞きたいって言われたんだけど……」
「利政様に? 凄いじゃない!」
時田は首を横に振る。
「……それは良いんだけど、高政様にちょっと目をつけられたみたいでね……不安が凄いんだよね……あの人、なんか怖いし」
「成る程ね……それでため息なんかついてたんだ」
時田は頷き、再び大きなため息をついた。
「あぁ〜面倒臭い! こんなの望んでないんだけど!」
時田はその場に寝転がる。
「もう……だらしない……」
「おさと! 少し来てくれぬか?」
すると、光秀の声が響く。
「あ、呼ばれちゃった。じゃあ……」
一瞬、おさとは時田から目を離す。
ほんの一瞬。
しかし、視線を戻したその先に、寝転がっていた筈の時田の姿は無かった。
「え……」
「おさと、どうしたのだ?」
光秀も様子を見にその場に姿を現す。
「光……光が、居なくなりました……」
「……何?」
どこの戸も開けられておらず、開けられる程の間も目を離していない。
消えた。
その言葉が最もふさわしかった。
「確かに……確かにここにいたのか?」
「は……はい。ここで寝転がっていて……十兵衛様に呼ばれて一瞬目を離したら……もう……」
光秀は考える。
しかし、まるで理解の及ばない出来事に、何の推測も出来なかった。
「……神隠しにでもあったのか? とにかく探せ! 遠くには行っていない筈だ!」
「は、はい!」
「ん?」
時田が目を開けると、先程まで日が暮れていた筈なのに、今は明るい。
そして、先程まで隣りにいた筈のおさともいなかった。
一瞬の瞬きの隙に、状況が一変していた。
時田は外に出て空を見上げる。
「……朝? どうして……」
まったく意味のわからない状況に少し混乱するが、とあることに気が付く。
この現状、既視感があったのだ。
「まさか……またタイムスリップした……?」
「……え」
すると、背後で物音がする。
振り返ると、涙を浮かべた女性が立っていた。
足元には、物が散らかっていた。
時田を見つけ、驚き落としたのだろう。
「お……おさと? どうしたの?」
「光!」
涙を浮かべた女性はおさとであった。
おさとは時田に抱きつく。
「今までどこに行ってたの!? 何してたの!? 心配したんだから!」
「え……えぇと……」
「あ、そうだ!」
どうしようか迷っていた所、おさとに質問攻めにされる。
どう説明したものか、と考えていると、おさとが何かを思い出し、時田から離れ、駆け出していく。
「十兵衛様! 十兵衛様! 光が! 光が帰ってきました!」
「ちょ、ちょっと!」
そのまま、おさとの姿は見えなくなった。
取り残された時田は、途方に暮れる。
「……どうしよ」
ただ、直感的に分かっていたことは、またタイムスリップしたという事。
それをどう説明したものか時田は悩んでいたのだった。