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第14話 利政の懸念

「尾張を攻める……ですか?」

「ああ、そうだ。お主の意見も聞いておきたくてな」


 時田は一人、利政に稲葉山城へ呼び出されていた。

 そして、利政から尾張攻めを聞かされる。


「決定事項ではあるが、この事についてお主はどう思うかききたくてな」

「……戦は、好きではありません」


 時田の言葉を、利政は静かに聞く。


「しかし、敵がいる以上、戦をしなければ戦はなくならないでしょう。和平を結んだとしても、約定を破られれば、戦になります。誰か……どこかの国が天下を取らぬ限り、この日の本から戦は無くならないと思います」

「……」

「ですので、尾張への侵攻、良き案かと思います」


 その時田の言葉に、利政は頷く。


「うむ。お主ならばそう言ってくれると思っていたわ……早速たが……」

「ですが」


 利政の言葉を遮り、時田は続ける。


「直接手を出すのはおすすめしません」

「……ほう」

「尾張は未だに一枚岩ではありません。織田信秀も三河へ兵を差し向けたりと忙しそうですし、ここは尾張内部の者に手を出すように調略を仕掛けては?」


 時田の言葉に利政は頷く。


「うむ。やはり儂が見込んだ通りだな。儂と同じ考えを持っておる」

「……そうでしたか」

「……そんな有望な人材をあやつは……おい! 入れ!」


 利政が外に向かって声をかける。

 すると、戸が開かれ、見覚えのある大男が入ってくる。

 明らかに、不機嫌そうであった。


「高政様……お久しぶりでございます」

「畏まるな時田。此度は此奴に謝罪をさせようと思ってな」

「謝罪……ですか」


 高政は時田の隣に座る。

 それに倣って時田も高政と正対する。


「先の戦、儂が事を急いだせいで、時田殿の左目を失わせることとなってしまい、誠に申し訳ありませぬ」

「た、高政様! おやめください、そのような!」


 高政は深く頭を下げる。

 これには、流石の時田も慌てる。

 その様子を見た利政は時田を静止する。


「良いのだ。高政よりも将来有望な時田殿を殺しかけたのだ。それくらいはしなくてはならん」

「利政様……高政様よりも将来有望とは……私はそのような……」


 すると、利政は静かに振るえながら頭を下げている高政に気付く。


「……文句があるのか、高政よ」

「……あるに決まっておりまする!」


 高政は利政に向かって怒鳴る。

 床を想い切り殴り、怒りを露わにする。


「何故このような素性の分からぬ者を重宝するのか、理解が及びませぬ! 大体父上はいつも……」

「ならば高政よ」


 高政の言葉を遮り、利政は問う。


「戦の無い国が欲しければ何をすべきだ?」

「戦の無い国……」

「答えてみよ。お主が時田殿よりも使えるかどうか、試してやる」


 高政は少し考えた後、答える。


「……隣国全てと同盟を結び、攻め込まれないようにし、将軍をお支えする……」

「違う。時田殿はどう思う?」

「……私は……」


 時田は答える。


「戦の準備をするべきです」

「何? ふざけてるのかお主!」


 時田の言葉に高政が激高する。

 が、時田は続ける。


「兵がいない豊かな国など、餌以外の何者でもありません。同盟を結んでいたとしても、兵が居ないのであれば約定を破り、その国を支配してしまった方がお得ですから。平和が欲しいなら、戦の準備をするべきです」

「む……」

「時田殿の言う通りだな」


 利政が言う。


「何よりも戦の準備をすること。そして、敵が弱っているのならばやられる前にやる。国を大きくすれば動員できる兵の数も多くなる。まぁ、そうなれば他の課題が出てくるがな。とにかく、戦の準備をすることが、平和への近道よ」

「……」

「高政。お主はこの時田殿の左目を奪ったのだ。十兵衛の命も危険にさらした……お主が逸ったせいでな」


 利政は静かな怒りを高政にぶつける。


「高政……追って指示を下す。尾張攻めでその失態を取り返せ。行け」

「は、はは!」


 高政は頭を下げるとその場を後にする。


「……よろしかったのですか?」

「良いのだ。あやつには才能はある。こうでもしてやれば、励むであろうよ」

「……」


 時田はこのやり取りを見て、不安を覚えた。


(変に恨みを買って無いと良いけど……)




「あの女……」


 高政は拳を握りしめる。

 拳から、血が滴り落ちる。


「許さん……決して許さんぞ時田光……」


 時田の不安は的中する。

 この因縁は、時田を苦しめることとなる。

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