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第13話 友と主君

「時田様! なりませぬ! もう少し安静に……」

「大丈夫! いつもお世話になってるんだから、少し位手伝わせて!」


 加納口の戦いよりおよそ三ヶ月後。

 土岐頼純が急死した。

 とは言うが、斎藤利政が土岐頼純を毒殺したことは明白であった。

 利政との和睦の直後に死亡したからである。

 しかし公的には急死したということにしてあり、利政は立場を維持していた。


「傷も塞がったし、少し位なら……」


 時田はそう言いながら物を持ち上げる。

 今は時田の傷が癒え、不要になった物を片付けていた。

 そして、余裕ぶった時田はふらつく。


「あれ?」

「あ、危ない!」


 転びそうになった所をおさとに支えられる。


「こ、ごめん……助かった……」

「もう……やっぱりもう少し安静にしておいたほうがよろしいのでは?」

「……ねぇ、同い年なんだし、畏まった喋り方はやめない?」


 この三ヶ月間、時田はおさとに支えられた。

 そんな中で、時田と同い年である事が判明したのだった。

 因みに時田は高校一年生である。


「……じゃあ、光。寝てて」

「うん。やだ!」


 二人のやり取りを光秀は遠くから見守っていた。

 そんな光秀を見つけ、光安が声をかける。


「仲が良いようだな。あの二人は」

「ええ、おさとに任せて正解でした。時田殿も、元気が出たようで何よりです」


 おさとは時田に寝てくれと言い、時田はそれを頑なに断る。

 しかしそこに本気の口論は無く、友人同士の会話にしか見えないのだ。

 時田は明智家に来てから、ここ最近はじめて笑顔を見せるようになったのだった。


「時田殿にも、友人が出来たようで何よりです」

「そうだな。記憶が無い以上、不安な事は山積みだろうに……心を開いて話し合える友人は、時田殿にとっても重要な存在となるだろうしな」


 そして、光安は話題を変える。


「さて十兵衛。あの話の事だが……」

「……尾張への侵攻の事、ですか?」


 光安は頷く。


「朝倉が大義名分を失い、手出しできなくなった以上、織田を攻めるのは必定。土岐頼芸様が尾張に逃れている以上、利政様も見逃せる筈がないからな……その戦に、我等も参加することとなった」

「……戦を無くすために戦をしなければならない……仕方が無いとは言え、難しい物ですな」


 二人は黙り込み、考える。

 すると、二人の存在に気が付いた時田が光秀に声をかける。


「あ、十兵衛様! 十兵衛様からも言ってください! 先程からおさとが寝てろというのです! 私はもう元気だというのに!」

「元気だとしても駄目! まだその体に慣れてないんじゃないの? 度々体の左側ぶつけてるでしょ!」

「うっ……」


 そんな二人のやり取りを見た光秀は笑う。


「……叔父上、少々行ってきます」

「うむ。行って来い」


 光秀が二人の元に近寄り、口を開く。


「……おさと、時田殿を少し動かしてあげなさい。今の体に慣れさせるためにもな。その分、しっかりと支えなさい」

「は、はい!」


 光秀がそう言うと、時田は勝ち誇ったような顔をしていた。

 時田の年相応な表情を見れた光秀は嬉しくも感じた。

 が、ほら見たことか、と言わんばかりの時田にも、光秀は声をかける。


「時田殿も、おさとの言うことをしっかりと聞くことだ。これまで世話してもらった恩返しというのも分かるがな。距離が縮まったからと言って、踏み込みすぎては大事な物を失うぞ」

「は、はい……」


 そんな三人の様子を見ていた光安は安堵の表情を浮かべる。


「……立派になったな、十兵衛……」


 時田も光秀を信頼し、光秀も時田を信頼している。

 そんな様子を見た光安は、明智家の将来を考え、安堵していたのだった。

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