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第24話 クラウドグレー

 咲がモノクロームスカイの『恥ずかしい』コンセプトを南川に説明する。


「へぇ〜 ! あぁ、さっきの霧香さんの隣に集まったのは……はぁ〜そういう事でしたか !

 面白いですねぇ。

 いや、僕、勘違いしましたよ。若いっていいなぁとか思っちゃいました」


 南川。

 本気だ。

 蓮とハランは本気だ。

 気付け。


「女の子キャラがもしKIRIさんしかいないなら、そういうのもシナリオにも取り入れて欲しいのよ。

 だって面白いじゃない ? イケメン二人が可愛い子取り合ってるの。しかもその女の子が楽器持った瞬間豹変するんだもの !

 わたし、知り合って動画観てから爆笑しっぱなしで〜」


 しかし、それは編集された動画だから面白いのかもしれない。ゲームをやったユーザーは突然の恋愛要素に困惑し、ただただ鬱陶しく感じるだろう。


「なるほど、歌以外の動画はそんな感じなんですね ?

 あー……申し訳ございません。曲だけ聞いていたもので。

 でも僕がシナリオ考えるわけじゃないので……シナリオの先生にお話してみますね。そういう要素を組み込めるかは今の段階では……」


 少数だな、と。全員が思う。

 モノクロームスカイは、曲だけのファンは少数 !

 それなのにモノクロームスカイの音楽だけ聴いて、話を持ってくる南川の方がすげぇなと、モノクロ全員が思った。


「あの、問題は蓮とハランですけど、一人二役とかになるんですかね ? 」


 千歳の最もな疑問である。


「ゲームのシステムやシナリオ次第ですね。

 例えば衣装ガチャを数種類作って、モノクロームスカイの衣装の蓮、ハランが出ればモノクロームスカイの楽曲が出来る仕組みにするとか。

 ガチャも無料のデイリーガチャにすればユーザー離れは食い止められるでしょう。曲が聴けないとユーザーは確実に離れますからね。

 やり方は色々あります。

 まぁ、まだ時間はありますので、契約は後日お返事をお伺いするということで。

 他に質問などございますか ? 」


 彩はこれでもかと気にする服の事。

 兎子アパレルの一件が相当トラウマだったが凹んでもいられない。


「ゲームの為にバンド側が注意しなければならない事とか……ありますか ? 例えば、服の指定や、行動の指定など。

 出来れば自分たちのイメージカラーやデザインは譲れないところがあるのですが……」


「いいですね !! イメージカラー !! それは最早取り合いになりますし、絵柄のイメージにも繋がるので早めに申告してください !

 こちらからの指定は……無いですよ。

 あぁ、ライブの時はこちらが衣装を用意します。キャラクターと同じ衣装で歌うように。

 キャラクターは現実の皆さんに寄せますが、服のこだわりも具体的なことがあれば先にお願いします」


 寧ろ早く言えと注意される。


「私生活は……まぁ、常識の範囲内というか、法に触れるような行動さえ無ければ特に……。後から未成年の飲酒喫煙や、既婚者の不倫とか……出来ればやめてください。

 それは契約時にサインいただきます」


 自分がキャラクターを演じる必要が無い。

 キャラクターを自分に寄せて貰える。


「ありがとうございます。

 俺たちモノクロームスカイは問題ありません」


「そうですか。では良い返事を期待してますよ」


「俺らも問題ねぇよなぁ ? 」


 京介も即答。


「ってか、俺がそのゲーム既にやりてぇ〜。俺が俺の曲プレイして〜」


「こら京介……。

 俺たちも問題ありませんが、今一度資料によく目を通しておきます」


「はい。

 もし練習場所などお困りでしたらお声がけ下さい」


「練習場所ですか ? 」


「新曲など書き下ろしの楽曲をお願いすると思いますが……内密に進めて頂きたいので……。

 その場合、会社の保養所にスタジオがありますので、使用できます」


「保養所 !? やった !! 」


「京介 !

 すみません、落ち着きがなくて」


「いえ、食いついてくれて良かったです」


「海っすか ? オーシャンビューホテルとか !? 山だと温泉っすかね !!? 」


「京介……」


 それを見ていた霧香がくすくすと笑う。


「京介さんとケイって似てるね」


「似てねぇよ ! 俺、あんな散歩してない犬みたいじゃないもん」


「「ブハッ !! 」」


 吹き出したのは南川と咲だった。


「いや、藤白さん、ホント彼ら面白いね」


「でしょ ? キャラ被りはするけど、この2バンドは入れた方が面白いと思って」


「うーん。ちょっと待っててください。

 一度休憩しましょう」


 そういうと南川と咲は事務所へ駆け込んで行った。


「俺らはいいけど、他のバンド知ってる ? 」


「ジャンクダックとか、一番有名どころだよなぁ。多分俺らノーマルキャラくらいだよ。ダウンロードして一番最初に出てくるキャラ」


「しょうもねぇ〜 ! 」


「でも、その方が音楽自体はプレイ回数増えるんじゃない ? こっちは曲さえ聴いて貰えばいいし」


「モノクロームスカイってまだそんなに知られてないし、柔軟に対応出来そうだよね。扱いやすいというか」


「サイが変に服に拘らなければいいけどさぁ」


「いや、今日も可愛いよ霧ちゃん」


「まぁ初めて会ったけどよろしくな。確かにアンタ美人だわ」


「俺も、よろしくね霧香さん」


「はい、京介さんと千歳さんですよね。よろしくお願いします」


「声も可愛い〜。オメーらが狙うわけだ」


「別に狙ってない」


「そう。これ、パフォーマンスなんですよ京介さん」


 霧香は何度でも言う。

 これはパフォーマンス。


「ぐっふ ! 」


「そーなんだァ〜ふーん。パフォーマンスねぇー」


 納得する素振りを見せる千歳の隣、京介はまた笑う為に産まれた生物となっている。


 しばらくして、南川と咲が戻ってきた。


「では ! 皆さん、保養所行きます ?

 今、連絡したんですけど、シナリオ作家さんが是非とも皆さんに会いたいと」


 会いたいと言うより、生のコントを直で聞いてネタにしたい、の別な言い方である。


「いいっすね ! 行きましょうよ ! 」


「他のバンドさんにも声かけしますけど、一度に全員は無理なので、Angel blessさんはモノクロームスカイさんと御一緒で……」


「宜しいよ !

 海っすか !? 山っすか !?」


「えぇと。どちらかと言うと山ですかね」


 寺。


 保養所のパンフの表紙、寺。


「お、お寺 ? 」


「音出しOKなので」


「あの、檀家さんたちとかに……」


「あぁ、廃寺を買い取ったんですよ。山奥なので恐ろしい程、人は来ません。ホラー映画の撮影に貸出とかしてるので、わざと修繕工事せずに怖いままにしてます」


 自分で怖いって言ったぞ南川。


「隣に廃旅館もあって、寝る時は安全ですよ。電気は来てるしスタジオもあります」


 全員、パンフレットを開いて黙り込む。


『画面映えする倒壊家屋 ! 』

『温泉有り ! 』

『迫力のある和室』

『人だけが消えたかのような生活感』


「保養…… ? 社員さんは、ここで…保養……してます ? 」


「それは貸出する時のパンフレットなので、わざと怖い事書いてあります。

 確かに見た目はアレですけど、怖くなければいい所です。大自然で。川遊びもできます。鬱蒼としてますけど、清流で事故も今のところはありません。

 大丈夫ですよ。集団なら多分、熊も来ませんから」


 怖いを連呼。

 ひたすら怖い。


「去年は夏の心霊特番の撮影で、芸人さんが寝泊まりしてますし」


「可哀想」


 可哀想。

 かわいそう……。

 カワイソウ……。


「っていうか、面白いんで行ってきてください。交通費も負担しますんで。

 曲以外の動画は自由に撮ってくれてOKですし、シナリオ作家も同行するので」


 つまりネタ。

 ネタで行けと。

 言うわけだ。


「ここに…… ? 罰ゲームじゃなくて ? 」


 京介が。

 堕ちた。

 テンションが墜落事故。


 彩が小さく呟く。


「キリの水着……どうしようかな……」


 彩が全て服を作っている事を知らない南川は、咲に補足を受けて安堵する。


「あぁーびっくりした。ハラスメントだけは、本当にやめてくださいね」


 この場合、ズレているのはモノクロで、南川は常人である。

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