咲がモノクロームスカイの『恥ずかしい』コンセプトを南川に説明する。
「へぇ〜 ! あぁ、さっきの霧香さんの隣に集まったのは……はぁ〜そういう事でしたか !
面白いですねぇ。
いや、僕、勘違いしましたよ。若いっていいなぁとか思っちゃいました」
南川。
本気だ。
蓮とハランは本気だ。
気付け。
「女の子キャラがもしKIRIさんしかいないなら、そういうのもシナリオにも取り入れて欲しいのよ。
だって面白いじゃない ? イケメン二人が可愛い子取り合ってるの。しかもその女の子が楽器持った瞬間豹変するんだもの !
わたし、知り合って動画観てから爆笑しっぱなしで〜」
しかし、それは編集された動画だから面白いのかもしれない。ゲームをやったユーザーは突然の恋愛要素に困惑し、ただただ鬱陶しく感じるだろう。
「なるほど、歌以外の動画はそんな感じなんですね ?
あー……申し訳ございません。曲だけ聞いていたもので。
でも僕がシナリオ考えるわけじゃないので……シナリオの先生にお話してみますね。そういう要素を組み込めるかは今の段階では……」
少数だな、と。全員が思う。
モノクロームスカイは、曲だけのファンは少数 !
それなのにモノクロームスカイの音楽だけ聴いて、話を持ってくる南川の方がすげぇなと、モノクロ全員が思った。
「あの、問題は蓮とハランですけど、一人二役とかになるんですかね ? 」
千歳の最もな疑問である。
「ゲームのシステムやシナリオ次第ですね。
例えば衣装ガチャを数種類作って、モノクロームスカイの衣装の蓮、ハランが出ればモノクロームスカイの楽曲が出来る仕組みにするとか。
ガチャも無料のデイリーガチャにすればユーザー離れは食い止められるでしょう。曲が聴けないとユーザーは確実に離れますからね。
やり方は色々あります。
まぁ、まだ時間はありますので、契約は後日お返事をお伺いするということで。
他に質問などございますか ? 」
彩はこれでもかと気にする服の事。
兎子アパレルの一件が相当トラウマだったが凹んでもいられない。
「ゲームの為にバンド側が注意しなければならない事とか……ありますか ? 例えば、服の指定や、行動の指定など。
出来れば自分たちのイメージカラーやデザインは譲れないところがあるのですが……」
「いいですね !! イメージカラー !! それは最早取り合いになりますし、絵柄のイメージにも繋がるので早めに申告してください !
こちらからの指定は……無いですよ。
あぁ、ライブの時はこちらが衣装を用意します。キャラクターと同じ衣装で歌うように。
キャラクターは現実の皆さんに寄せますが、服のこだわりも具体的なことがあれば先にお願いします」
寧ろ早く言えと注意される。
「私生活は……まぁ、常識の範囲内というか、法に触れるような行動さえ無ければ特に……。後から未成年の飲酒喫煙や、既婚者の不倫とか……出来ればやめてください。
それは契約時にサインいただきます」
自分がキャラクターを演じる必要が無い。
キャラクターを自分に寄せて貰える。
「ありがとうございます。
俺たちモノクロームスカイは問題ありません」
「そうですか。では良い返事を期待してますよ」
「俺らも問題ねぇよなぁ ? 」
京介も即答。
「ってか、俺がそのゲーム既にやりてぇ〜。俺が俺の曲プレイして〜」
「こら京介……。
俺たちも問題ありませんが、今一度資料によく目を通しておきます」
「はい。
もし練習場所などお困りでしたらお声がけ下さい」
「練習場所ですか ? 」
「新曲など書き下ろしの楽曲をお願いすると思いますが……内密に進めて頂きたいので……。
その場合、会社の保養所にスタジオがありますので、使用できます」
「保養所 !? やった !! 」
「京介 !
すみません、落ち着きがなくて」
「いえ、食いついてくれて良かったです」
「海っすか ? オーシャンビューホテルとか !? 山だと温泉っすかね !!? 」
「京介……」
それを見ていた霧香がくすくすと笑う。
「京介さんとケイって似てるね」
「似てねぇよ ! 俺、あんな散歩してない犬みたいじゃないもん」
「「ブハッ !! 」」
吹き出したのは南川と咲だった。
「いや、藤白さん、ホント彼ら面白いね」
「でしょ ? キャラ被りはするけど、この2バンドは入れた方が面白いと思って」
「うーん。ちょっと待っててください。
一度休憩しましょう」
そういうと南川と咲は事務所へ駆け込んで行った。
「俺らはいいけど、他のバンド知ってる ? 」
「ジャンクダックとか、一番有名どころだよなぁ。多分俺らノーマルキャラくらいだよ。ダウンロードして一番最初に出てくるキャラ」
「しょうもねぇ〜 ! 」
「でも、その方が音楽自体はプレイ回数増えるんじゃない ? こっちは曲さえ聴いて貰えばいいし」
「モノクロームスカイってまだそんなに知られてないし、柔軟に対応出来そうだよね。扱いやすいというか」
「サイが変に服に拘らなければいいけどさぁ」
「いや、今日も可愛いよ霧ちゃん」
「まぁ初めて会ったけどよろしくな。確かにアンタ美人だわ」
「俺も、よろしくね霧香さん」
「はい、京介さんと千歳さんですよね。よろしくお願いします」
「声も可愛い〜。オメーらが狙うわけだ」
「別に狙ってない」
「そう。これ、パフォーマンスなんですよ京介さん」
霧香は何度でも言う。
これはパフォーマンス。
「ぐっふ ! 」
「そーなんだァ〜ふーん。パフォーマンスねぇー」
納得する素振りを見せる千歳の隣、京介はまた笑う為に産まれた生物となっている。
しばらくして、南川と咲が戻ってきた。
「では ! 皆さん、保養所行きます ?
今、連絡したんですけど、シナリオ作家さんが是非とも皆さんに会いたいと」
会いたいと言うより、生のコントを直で聞いてネタにしたい、の別な言い方である。
「いいっすね ! 行きましょうよ ! 」
「他のバンドさんにも声かけしますけど、一度に全員は無理なので、Angel blessさんはモノクロームスカイさんと御一緒で……」
「宜しいよ !
海っすか !? 山っすか !?」
「えぇと。どちらかと言うと山ですかね」
寺。
保養所のパンフの表紙、寺。
「お、お寺 ? 」
「音出しOKなので」
「あの、檀家さんたちとかに……」
「あぁ、廃寺を買い取ったんですよ。山奥なので恐ろしい程、人は来ません。ホラー映画の撮影に貸出とかしてるので、わざと修繕工事せずに怖いままにしてます」
自分で怖いって言ったぞ南川。
「隣に廃旅館もあって、寝る時は安全ですよ。電気は来てるしスタジオもあります」
全員、パンフレットを開いて黙り込む。
『画面映えする倒壊家屋 ! 』
『温泉有り ! 』
『迫力のある和室』
『人だけが消えたかのような生活感』
「保養…… ? 社員さんは、ここで…保養……してます ? 」
「それは貸出する時のパンフレットなので、わざと怖い事書いてあります。
確かに見た目はアレですけど、怖くなければいい所です。大自然で。川遊びもできます。鬱蒼としてますけど、清流で事故も今のところはありません。
大丈夫ですよ。集団なら多分、熊も来ませんから」
怖いを連呼。
ひたすら怖い。
「去年は夏の心霊特番の撮影で、芸人さんが寝泊まりしてますし」
「可哀想」
可哀想。
かわいそう……。
カワイソウ……。
「っていうか、面白いんで行ってきてください。交通費も負担しますんで。
曲以外の動画は自由に撮ってくれてOKですし、シナリオ作家も同行するので」
つまりネタ。
ネタで行けと。
言うわけだ。
「ここに…… ? 罰ゲームじゃなくて ? 」
京介が。
堕ちた。
テンションが墜落事故。
彩が小さく呟く。
「キリの水着……どうしようかな……」
彩が全て服を作っている事を知らない南川は、咲に補足を受けて安堵する。
「あぁーびっくりした。ハラスメントだけは、本当にやめてくださいね」
この場合、ズレているのはモノクロで、南川は常人である。