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第14話 桜鼠

 恵也は朝方五時に起床すると、住宅地を二週ランニングし、庭で筋トレをするのが日課になった。


 その日は、昨晩出掛けたはずの霧香が今はスタジオに彩といるのが見えて安心した。

 見慣れないものに興味が湧いた恵也は、筋トレを中断し、スタジオへ向かった。


「おはよう」


「ケイ、丁度良かった。これが終わったらミーティングしたいんだ」


「これって……」


 霧香が応接間から持ってきたアンティークチェアにドレス風の衣装を着て座っていた。

 黒地のシャープなスリット入りのドレスに真っ青な青い薔薇とリボンが付いた大人っぽい雰囲気だ。

 そして霧香が抱えているのは、あのガラスのチェロだった。


「指板は持ったままで、顔を寄せて……もっと左手に唇つけて。右手はピッチングの形で」


 カシャ !


「インスタ用 ? 」


「そう。なんならPVにも使いたいな。はぁ〜装飾楽器はテンション上がる」


「へぇ〜。これアクリル ? 」


「ガラスだよ。蓮から貰ったって」


「うえぇぇっ !? あ、昨日か !!

 うぇ〜いレンレンやるじゃ〜ん」


 霧香は恥ずかい気持ちを隠すように意地でも澄まし顔を貫こうとするが、二人からは丸わかりだ。


「何がよ。別に、契約者も出来たしってお祝いに貰っただけだし」


「いやいや、超すげぇじゃん、いくらすんのこれー。やべぇ〜。

 そのドレスも ? 」


「あぁ、このドレスはシャドウがミシンとキリの着てない服を持ってきてくれて……」


「サイが作ったの !? 」


「……最高。最新式のミシン最高。昔のも味があっていいけど、スペックが違う。なんでも縫えるし刺繍も出来るし……ハマりそう」


「もう……ハマってんじゃん」


「このチェロも弾かせて見たけど、音も悪くない。

 キリ、一度置いて。三人で話そう」


 彩が窓際に置かれたテーブル席に二人を座らせる。


「そうだ、キリ。朝、蓮を見かけたけど泊まったのか ? 」


「あ……うん。加入はしないけど同居はするって。不味いかな ? 」


「いや、ハランも蓮も居るならそれも公表しよう」


「げげっ !? まじで !? どーゆー名目で !? 」


「この屋敷は正直、女の子の一人住まいとは思えない。

 それに、どんなにファンに探されても普通の人間には視えないし、Googleアースにも映らない。

 それを踏まえて、『スタジオ付きの宿泊施設をキリの親が持っていた』と言う事にする」


「まぁ、確かに音楽素人の家の造りじゃねぇよな。散々稼いだ中年アーティストが、隠居前に趣味で建てるヤツだぜ、このレベル。

 部屋も高級ホテルみてぇだし」


「部屋も映そう。トイレ、バス、それぞれ別個に付いてるし。スタジオ完備のホテルを親から貸し切って合宿生活してる感じを楽しく映す」


 あまりに設備が良すぎるこの屋敷なら、それで十分皆信じるだろう。


「親の趣味で建てたから旅行雑誌にも載ってないって言えばいい。

 そして、ハランの加入と蓮の同居も公言する」


 霧香も恵也も、遂に来たとばかりに真剣に耳を向ける。


「特にハランの加入に関してだが、ギターパートをどうするか……悩んだ結果だが。


 ゲソ(仮)は、コンセプトを一般的なビジュアル系とゴシック・ロック、ゴシック・パンクに重点を起きたいと思う」


「ゴシック……か……」


 恵也が一度考え込む。


「まぁ……それなら俺のパートに影響は無いけど……」


「まずビジュアル系は……今まで通りキリのベースと俺がギターをやる。ハランがやってもいい。曲によって変えても面白い」


「え ? お前、それでいいの ? キリは ? 」


 恵也が意外そうに霧香を伺う。


「うん。わたしとしてはね、サイと弾ければ、楽器が何であろうと変わらないなって思ったの」


「 ??? よく分かんねぇけど……」


「メインはゴシックでやる。

 その時、キリはチェロボーカル、ベースボーカルどちらもやって貰う。

 キリがチェロの時は俺はバイオリンにパート変える」


「えぇっ !? 」


「ハランの主張の強いギターなら多少クラシックに振っても絶対にロックでついて来れる、と俺は思う」


「ほーん……。まぁ、チェロとかバイオリンも……最近はとんでもねぇロックアレンジ弾いたりするからなぁ。お前のバイオリンなら大丈夫か。キリは魔法だし。

 ……あれ ? じゃあ、キリがチェロん時、ベースどうすんの ? 」


 彩は一応、恵也に聞く。

 答えは分かってはいるが。


「ケイ、お前ベースやる ? 」


「…………ぶっ叩いていい ? 」


「痛いから駄目だけど 」


「じゃあ聞くなよ」


 これで蓮とハランの同時加入という目処が立つ。


「ってことは……レンレンにも話通さないとじゃん ?

 あ、でもキリがベースに行く時は ? 」


「その時はボーカルかシンセサイザーって考えてたけど……。

 俺は、ベース二台でも最早いいんじゃないかと思い始めてる」


「えぇ〜 ? いや、要らない気がするけど ? 」


「普通はそうだけど。でも、キリのベースって高音域まで出るし、ベ……ベースって言うのか ? あの物体……」


「ベースだよ ! 」


「車輪のねぇバイクだよな。あれ、今日からマシンって呼ぼうぜ。兵器でもいいけど」


「そう。あれは装飾に観衆の目が行きがちだし、蓮ならまともにお前とリズム隊になってくれるだろう。

 キリのベースは音のラインがギターに近い。故に、ハランとは主張が強すぎて合わないだろう。その時はハランがリズムギターでボーカルになってくれるといいかと」


「……そう考えると……うちのメンツ、器用貧乏ばっかだな」


 思わず三人黙り込む。

 なんでも出来る優秀な人材でも、持て余してしまっては仕方がない。


「まぁ、物は試しだ。

 これ、昨日蓮がキリに貸した円盤なんだけど。ゴシックバンドなんだ」


「あーこの曲知ってる。アニメのやつだよな ? 」


「俺らもう弾いてみたから、ちょっとコピーしてみよう。

 叩けるか ? 」


「だ〜れにモノ言ってんだ。出来るに決まってんだろ」


 恵也は待ってましたとばかりにスローンにまたがると、スティックを握りしめる。


 彩はギターをストラップで吊った状態でヨロヨロとバイオリンを構える。


「ボーカルパートいないけど、足りない主旋律は俺達がカバーするから」


「OK ! 行くぜ !!

 1.2.3.4. !!!! 」


 □


「やば……。途中バイオリン落とすかと思った」


「無茶な事するから……」


「だって前奏だけギターソロなんだもん」


「でも、こういう曲いいね。クラシックが母体になってるのと、バリバリロックなのに間奏はバイオリンとチェロが主体なのも新鮮かも」


「バンドでバイオリンってどうなのって気はしてたけど、すげぇ体力奪われる。気持ちいい」


 もう一度三人でテーブル席に戻る。

 霧香は先程のチェロとドレスの写真をインスタにアップロードする。

 彩は X で告知。

『近日中 重大発表あります』

 庭を眺めながら、恵也がぼんやりと口にする。


「ゴシックバンドで『ゲソ』ってネーミングどうなの ? 」


「「……」」


「和風じゃん ! コミックバンドじゃん !

 もっとカッコイイのとか耽美なのにしようぜ ! せめてロックなの……」


「そういうセンス無いんだよな」


「歌詞は書けんのに ? キリは ? 」


「え !? うーん…… 。か、感染地帯とか ? 」


「いる !! 感染では無いけど有名な地帯いる !!

 もっと無いのか !? 」


「えぇ ??? じゃあ……バイオリンとマシンで、バイオマシン…… 」


「『汚染』から離れろ !

 サイはなんか出せよ ! 候補 ! 」


「……人外S。ジンガイズ……」


「人間辞めましたって !? 自己紹介しろなんて言ってない !

 じゃあ、取り敢えず保留な !?」


 □□□□□□


 そして迎えた六時半。

 朝食が並んだリビングで、ハランの笑みがビキビキに引き攣っていた。

 その向かいで、何事も無いかのようにパンをちぎって口に運ぶ蓮が居る。


「えーと……。いつ来てたのお前……」


「昨日。夜」


 ぶっきらぼうに答える蓮に、ハランが深くため息を着く。


「あっそ。

 そう言えば、明日有給取ったろ ? 引越しか ? 」


「それもあるけど、別に魔法で移動するから荷物の問題は無い。マンションの解約とかそういうの」


「あー……。

 彩、蓮はベースで加入なの ? 断るんじゃなかったの ? 」


 不満そうにするハランに彩が頷き、一度フォークから手を離す。


「実は、二人の同時加入は希望してたんだけど、蓮の場合はパートの問題があって。

 でもそれも昨日話し合い済んだから、加入計画は続行した。

 取り敢えず二人にはバンドのコンセプトと、これからの事を説明聞いて欲しい。

 それで……もし納得いかなかったら……まぁ、無かった話って事で」


「そんなまさかぁ。

 無理に加入させて貰った側だからね。俺はコンセプトに口出しなんかしないよ。

 喜んで参加する」


 ハランが彩に、にこやかに答える。

 それを聞いていた霧香は昨夜、蓮が言っていたハランの二面性になんとも言えない不気味さを感じていた。この男に限って、そんなタイプには思えなかったのだ。

 それを知ってか知らずか、蓮がはハランに突っかかっていく。


「言ったからには守れよ。リーダーが絶対って訳じゃないけど、我儘は禁止」


「俺は我儘なんて言った事無いけど ? 」


「それはAngel blessでの話だろ ? 」


 これから、霧香が絡んだらどうなるか ? という釘である。

 ハランは蓮に顰めっ面を向けながら、腹立たしい様子でソーセージをギコギコと斬る。


「あのさ……」


 その空気に耐えられなくなった恵也が二人に話を振る。


「二人は……なんかカッコイイ、バンド名ない ? Angel blessみたいなさ。

 キリとサイはセンス死んでるんだよね……」


 ガターーーーーーン !


 恵也の言葉が言い終わるか否かの途中で、彩が慌てて立ち上がった。


「な、なんだよ !? 」


「待て !! その会話待って !

 動画にしたいから ! 」


「はぁっ !? 」


「ハランと蓮に考えて貰うとして、どっちの案がいいか、ゲームで決めよう !

 それ動画撮るから ! 」


「「動画配信者って……」」


 ハランと蓮がドン引きする中、霧香は当たり前の事だと言う。


「視聴者がコンテンツを見て、成り行きが分かるようにしなきゃ。

 視聴者が「私たちが育てたものよ ! 」って言うくらい干渉させないとね」


「そう。俺達も考えては来たから、まずはアンケート取って、その中で残った奴同士で対決ゲームしてもらうんだってよ」


「……じゃあ、最後に残るのが俺と蓮とは限らないよね ? 」


「……ネタにアンケートで票入れる奴がいなければ、多分二人になる。俺達三人……センス死んでたんだわ……」


「彩に関しては歌詞書いてドレス縫える奴がセンス死んでるとは思えないんだけど……」


「はぁはぁ。カメラ取ってきた……。

 ケホッ……えー。その前に、二人の加入の報告と、この屋敷の紹介を撮るから。

 大まかにはキリとケイが撮って、各自の部屋は自分で撮って貰う。写していいところ決めて置いて」


「「動画配信者って……」」


「だ、大丈夫なのか ? その企画。男の部屋で写せるもんなんて何も無いだろ ? 」


 不安げにするハランに、恵也が親指を立てる。


「大丈夫。サイの部屋に比べたら、全然大丈夫だから」


 彩は以前と同様。

 全ての家具をシャドウと一緒に肩付けてしまった。

 あるのはこの屋敷にあったと言う最新式ミシンと同じく楽器庫で余っていた楽器用防湿庫。他はシングルベッドとパソコンデスクのみである。


「でも彩、今日は引越しの手配で忙しいよ。動画は明日にしてくれない ? 」


「荷解きも、それはそれで面白い絵面だが」


「やめてくれ」


 今日は配信ネタが無いと知り、仕方なく彩はカメラを置く。


「あ、そう言えば。

 シャドウ」


 蓮がシャドウを呼び止め何かが書かれた紙を渡す。


「俺の部屋だけど……。

 だいたいこの辺りに廊下から入れる入口を作って欲しいんだ 」


「お易い御用だ」


「頼もしいな」


 これで霧香の部屋を通らず蓮は部屋に行ける訳だが、それはそれで霧香は少し残念にも思えた。


 □□□□□□


 大まかの引越しが済んだ。

 あの個人宅配のお爺さんの息子は運送会社を引き継いでいて、引越し業はしていなくても好意で引越し手伝いをしてくれた。本業が心配になるレベルで何時でも対応してくれる。


「親父から面白い楽器運んだって聞いてさ〜」


「あぁ。わたしのマシンです。これですよ」


 霧香がポストの側でスマホに写ったベースモドキ……命名マシンを見せる。


「はえ ? これ楽器ですか ? 」


「取り付けてある機材はベースなんですよ」


「あー自作楽器ね。ピックアップとコントローラーと弦があれば……音鳴るもんね」


 言えない。この人の良さそうなおじさんの、更に人が良さそうなお父様に、このくっそ重い鉄製のマシンを一往復運ばせたなど。


「ま、頑張りぃや。

 ところで、ここに荷物置きっぱなしでいいの ? ここから上まで距離あるんじゃないの ? 」


 ポストの横、林道に積み上がった四人分の荷物。


「え、ええ。なんか筋トレしたいらしくて」


「そう。

 ところで楽器やっとるっちゅーたら、ライブとかすんの ? お嬢さん美人だもんなぁ」


「あ、ありがとうございます。

 インスタグラムでKIRIって検索したら出てくると思うんで見てみてくださいね。写真凄く載せてるんで」


「ほぉー写真かァ〜」


 そこへ恵也がやってくる。


「おいちゃん、ありがとうございました。

 こちら、四人分の本日の支払いの方印鑑押しましたんで。週末には振込させていただきます」


「構わんよぉ〜。それもこんな林の入口でいいんかいな ?

 ま、ほぼ何でも屋みたいな運送屋だからね。何時でも声かけてよ。

 これ、名刺ね。深夜でも早朝でも重量と大きさ伝えてくれればなんでも運ぶよ。

 あ〜、俺何処から来たんだっけ ? 来る時は分かってたのに ! そのうち知ってる道に出るかぁ」


 運送屋はそういうと、帰って行った。


「さてと。ケイ、人が見てないか確認しててね」


「おっけ」


 霧香は四方まとめられた荷物に手をかざす。


「まずは蓮だね」


 光と霧が混ざり合い、キラキラと七色の虹を魅せながら荷物を取り囲んで行く。

 そして、霧が晴れる頃には、そこにはもう何も無かった。

 指定した蓮の部屋へ荷物は移動したはずだ。

 続いて恵也の生活用品、お気に入りの調理器具、そして筋トレグッズを運び、ハランの高そうなアンティーク家具を慎重に移動する。


「最後は……」


 無数のハンガーラックに、古いミシン。それと不釣合いな最新式モデルのHDD、液晶、その他配信機材。


「サイはどうやって過ごしてるんだろうね ? 」


「一応今はベッドだけあるんだよな ? それだけでも凄い」


「衣装部屋は別に作ってもいいよね。皆の分も欲しいし」


 霧香がサイの荷物を送り終える。


「さ、終わった。後は荷解きは各自やんだろ。

 次は明日の動画配信用の撮影」


「加入のお話とゲームだね。

 ゲームって何をするんだろ ? 」


「テレビゲームって感じじゃねぇよな ? 」


 霧香にはピンと来なかったが、それでもこれで新メンバー加えての第一歩である。


「よーーーーし !! 頑張るぞ !! 」


 気合いを入れて林道を戻ってく霧香の後を、恵也は微笑ましく眺めて歩く。


 音楽が出来ることも、未来に可能性があることも、霧香が楽しそうにしていることも、全てが幸せに感じるのだった。


「そうだ。キリ。あの黒猫って名前なんてゆーの ? 」


「え…………………… ? 」


 霧香はシャドウを紹介してないという事をすっかり忘れている。


「俺さ、『にゅ〜る』持ってきたんだよ。猫ってこれ大好きなんだろ ?

 折角だし、いる時にあg……」


「動くな」


 にゅ〜るを持った恵也の首に突然、鋭利なものがヒタりと押し付けられる。


「そのにゅ〜るを寄越して貰おう」


「シャドウ君 !!!! やめなさい !! 」


 霧香が今まで誰も見たことの無い鬼の形相でシャドウを叱りつける。

 そしてそれを聴いた恵也はシャドウに解放されジッと、同じガーディアンと紹介された大男を見上げる。


「シャ…… ???????? 」


「シャドウ君だよ」


「ね……ねねね……」


「うん。猫の」


「に……人g…… ??? 魔法 ? 」


「如何にも。猫のシャドウだ。

 屋敷のガーディアンとして霧香の使い魔になった。

 第五契約者のお前は霧香を守る。使い魔の俺は屋敷を守る。

 俺をペットとして扱う事は許さん。


 だがしかし、そのにゅ〜るは俺に寄越して貰おう」


「シャドウ君、せめて「ちょうだい」とか「食べていい ? 」って聞かないと」


「分かってはいるんだが、マタタビとにゅ〜るだけは身体が言うことを聞かんのでな」


「えぇ…………………… ? 」


 恵也はサコッシュからありったけのにゅ〜るを取り出すとシャドウに手渡す。


「そういう事なら、人として接するけどよぉ……。せめてにゅ〜る食ってるとこは猫で見せて欲しい……。

 ……巨男が猫用フード舐めとる姿見たくねぇよ。頼むよシャドウくん〜。猫になってくれよ〜 ! 月一、いや、週一で買ってくるから ! 朝飯作るのも手伝うから !!

 俺の手でにゅ〜るあげてぇ〜 !! 」


「飯の準備と週一でにゅ〜るか……。

 いいだろう。猫型で食ってやる。

 後で誓約書を持っていく」


「うわぁお……………急な大人ぁ………」


「俺は知ってる。人間はそう約束して簡単に俺たちを裏切る。だから契約はしっかりしなければならない」


 用紙を取りに行くシャドウを見て、恵也は更に理解が追いつかない様子で呆然とエントランスで立ち竦む。


「……シャドウ君ね。保護猫になる前は街の野良だったから……。人間の醜い所にトラウマがね」


「あぁ。ふーん。

 しかし……あの写真の猫がまさかあんな筋肉ダルマになるとは……」


「食事も野菜も魚も満遍なく食べてるんだけどね。

 にゅ〜るって……そんな美味しいの ? 」


「……美味いんだろうな……多分…………」


 恵也はこの日、初めてにゅ〜る強盗未遂にあった。後にも先にも、猫に恐喝されるのはこれが最初で最後だろう。

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