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第7話 庭園デート(1)

 カフェからの帰り道、私は先輩をデートに誘ってみたの。

 学院じゃない場所で二人きりになれば、もう少し彼の素顔が見られるかも、と思って。


「ねえ先輩、明日のお休みは何か予定はあるかしら?」

「予定? どうしてだい」


「えっとね。もし先輩がよければ、街はずれの王立庭園に一緒にお出かけしたいなって思って……」


 すると先輩は立ち止まって、数秒考え事をしたあと、ぷるぷるしながら私の両肩を掴んだ。


「も、もしかして、そ、それは、デ、デデデ、デートのお誘いかい⁉」

「まあ。私が作ったお弁当でも持って、二人でゆっくり過ごしてみようかなって」

「おおお……」


 先輩は額に手を当てて、眩暈でも起こしたかのように、ふらっと後ろにのけぞった。


「ミラと……お手製のお弁当を持って……庭園デート……おおお、夢みたいだ……」

「やった! じゃあ、あした行ってもいいのね?」


 すると先輩は、すっと真顔になって、

「いや……一緒に行きたいのは山々なんだが……」

「別の用事があるの?」

「そうじゃないんだが……うーむ……」


 先輩は、すごい難しい顔をして、うーんうーんと唸ってる。

 私、なにかまずいこと言っちゃったのかな……。


「あの、無理に行かなくてもいいから、また都合のいい時にでも……」

「いや! 無理にでも行きたい! 行きたいんだ僕は! だが……ぐぬぬぬ……」


 とうとう先輩は悶絶しはじめてしまったの。

 あああ、どうしよう……。

 そんなつもりじゃなかったのに……。


「ミラ、一つ聞いてもいいかい?」

「ええ。何、かしら」

「このデートは、午後からでも大丈夫、なのかい?」

「午後? 午後って何時くらい?」

「ああ、そうだな……。じゃあ、頑張って正午くらい、でどうだろうか」


 貴方はいったい何をがんばるの?

 も~、謎すぎる~。


「ええ。お弁当はどうする?」

「少し遅い昼食になっても構わないなら、ぜひ!」

「わかったわ。なんだか無理させちゃったみたいで、ごめんなさい」


「とんでもない! こんな素晴らしい申し出を、断腸の思いで断らずに済んだんだから、むしろ感謝しかないよ、愛しの君よ!」


 なんかここまで言われちゃうと、どんな顔したらいいか分からないわ。

 理由が『貴方の腹の内を探るため』だなんて言ったら、先輩はどんな顔をするのかしら。きっとガッカリされちゃうんだろうな……。


     ◇


 そして翌日。

 私は、お母さんと一緒に、お弁当を作っていたの。

 できるだけ自分で作る方針だったんだけど、なんだかんだで結構お母さんに手伝ってもらっちゃった。う~ん……。

 でも、今回はしょうがないかな。だって急に誘ったから準備も十分に出来なかったし。うん、そういうことにしておこう!



 午後。そろそろ約束の時間。


「やあミラ! 迎えに来たよ!」


 いつものように、玄関先で大声を出す先輩。

 二階の私の部屋まで聞こえるように、ってことなのかしら?

 荷物を持って待ち構えていた私は、急いでドアを開けた。

 これ以上騒がれて、ご近所迷惑になると困るから……。


 そしてドアを開けた私の目の前にあったのは――。


「こんにちは、先輩。ええ、えっと……馬車で来たの?」

「時間が惜しいからね! 少しでも早く庭園に到着したくて馬車で来たんだよ」


 ドヤ顔で私を出迎える先輩に、 私とお母さんは軽く引いていました。ええ。


「そ、そうなのね。……じゃあ、お母さん、行ってきます」

「ええ、行ってらっしゃい! 二人とも楽しんできてね!」

「ご機嫌よう、お母様。それでは行ってまいります!」


 先輩は私を軽々とお姫様だっこして、あっという間に馬車に乗せたの!


「え、ちょっと~~、先輩なにを」

「この方が早いから」

「そういう問題なの?」

「もちろんさ」


 えええ~~~、休日の真昼間にこんな恥ずかしいことするなんて!

 も~~~! ご近所のウワサになっちゃう!!


「じゃあやってくれ!」


 先輩が御者さんに声を掛けると、馬車はゆっくりと走り出した。

 私が馬車の座席でむくれていると、


「どうしたんだい、ミラ。待たせてしまったかい?」

「そうじゃないけど……。ああいうの、恥ずかしいからやめて」

「ああいうのって?」

「あの、お姫様だっことか……」

「ふうん……」


 先輩は私の顔を覗き込み、とんでもなく妖艶な笑みを浮かべて私の髪を手に取ると、


「この髪が……いけないな」

 ってポツリとつぶやいた。


「やっぱり、こんな髪、イヤ、ですよね。みんなに海藻頭って言われるような髪じゃ……」

「逆だよ。君がこの美しすぎる黒髪を持ってるから……僕は狂わされてしまうんだ」


 先輩はいきなり、手に取った髪に口づけたの。

 私は何が起こっているのか分からなくて、何も言えなくて。

 彼が少し怖かった。


 でも、私の髪が美しいなんて思っていてくれたのね。

 こんなに嫌いな自分の髪を……。


「あ、あの……」


 私が体を少し引くと、彼の手から私の髪がさらさらと流れ落ちたの。

 それで先輩は我に返って、 


「ごめんごめん。ちょっと変態っぽかったよね。気にしないで!」


 って、いつものヘラヘラした顔に戻って言ったの。

 あ~~、先輩のこと、ますますわかんなくなってきたわ!


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