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第5話 放課後のカフェ

 私たちは、先輩がセッティングしてくれたテーブルで素敵なランチタイムを過ごしたあと、退屈な授業を2つ受けたわ。もちろん、その授業の合間の休憩時間にも彼は教室に顔を出したのは言うまでもないわね。


 そして放課後――。


「ミラ、シンクレア助手がお迎えに来たわよ」


 教室で、帰り支度中のクリスが大仰に言うと、周りの級友がクスクス笑った。

 恥ずかしいので、そういうのホントやめてほしい。


 荷物を持って足早に廊下に出ると、ウキウキしてる先輩が私を待ち構えていた。

 ぜったいハグされるから、私は突撃してくる先輩をひらりとかわしてやったわ。

 先輩はちょっと残念そうな顔をしながら、今後は壁ドンしてきた。


 しまった、廊下は狭いから壁を背にしてしまったわ!

 反省反省……。

 次は周り込んで壁を背にしないようしないと。


「愛しの君よ、一緒に帰ろう!」


 白銀の長髪を振り回し、芝居がかった台詞とともに手を差し伸べる先輩。

 カッコイイと思ってるのかしら?

 まあ……、実際かっこいいんだけども。


「もう! 何で校門で待っててくれないの? 恥ずかしいからやめてって言ってるじゃない!」


 何度も言ってるのに、彼ってばちっとも聞いてくれない。

 だいたい、お昼休みと放課後までの間って、そんなに長くもないじゃない?

 というか、5時限目と6時限目の間の休憩時間だって、顔を見に来てるのだし。


「一秒でも早く、愛しの君に会いたいからに決まってるだろう?」


 あ~も~。

 知ってた。

 聞くだけムダなのわかってた。

 私に合えないと禁断症状が出る人だったわ。


「朝ごはん一緒に食べたわよね」

「そうだね」


「家から学校まで一緒に来たわよね」

「そうだね」


「実習でずっと一緒だったじゃない」

「そうだね」


「お昼休みも一緒だったわよね?」

「そうだね」


「それだけじゃないでしょ」

「そうだね……ん?」


「毎度の休み時間まで、遠くから無理して走って来ることないでしょ?」


「どうして? 僕は無理してないけど。それに君と一緒にいられるチャンスを一度たりともムダには出来ない!」


「はあ…………」


 確かに、息ひとつ切らせてるとこ見たことないわ……。

 こんなに細いのに体力オバケ?

 それとも着やせするタイプなのかしら……。


「さ~、一緒に帰ろう~ミラ♪ まずはいつものカフェだね♥」

「うん。クリスも一緒でいいわよね」

「もちろんだよ。さすがに僕一人じゃ場が持たないし……」


 そこにようやくクリスがやってきた。

 もうちょっと早く来て助けてくれてもいいのに!


「いいこと? ミラ」

「なあに?」

「彼はね、あのカフェのスタンプ帳を少しでも早く埋めてしまいたいのよ」

「なんで?」


 クリスはこほん、と咳払いをすると、もったいぶって言った。

「景品、目当てよ」


「わ、クリス! 言っちゃだめでしょ」

 急に先輩が慌てだした。


「何がもらえるの?」

「それはね~」


「だから言っちゃだめだって!」

 慌ててクリスの口をふさごうとする先輩。


 いい大人が、それもこんな美形がわたわたするのが、ちょっと意外でかわいい。

 こういうのギャップ萌えって言うんだって。クリスが教えてくれた。


「非売品の……」

「やめてえ~~~~」


 先輩が半泣きになって、クリスにお願いポーズをしてる。


「クリス、先輩がかわいそうだからやめてあげて……」

「頼むよクリス……」

「はいはい。じゃ、行きましょうか」

「はーい」

「助かった……」


     ◇


 というわけで学院を後にした私たちが向かったのは、いつものたまり場よ。

 放課後はね、私・先輩・クリスの三人で学院近くのカフェのテラス席でお茶会をするのが日課なの。


 さいしょ彼が照れくさそうに『彼女とテラス席でお茶するのが夢だった』って言うから渋々承諾したら案の定、下校中のみんなのさらし者に……。

 そのくせ彼は通行人ばかり見てるって、一体どういう了見なの?


 で、私たちが通っているカフェの名前は『空のナマコ亭』。

 なーんかへんな名前よね。 でも、この街で二番目に人気のお店なの。

 お店の外観はそれほど凝ってるわけじゃないし、内装も普通。つまりお店自体にはこれといって特徴らしいものはないわ。

 では、どのへんが人気なのかっていうと、専属パティシエが作るスイーツが絶品なの! そんなスイーツがお手頃価格で食べられるメニューが、『本日の日替わりケーキセット』なのよ!!


 カフェに到着した私たちは、店頭に掲示してある『本日の日替わりケーキセット』の内容を横目で確認しつつ、店に入ったの。


「二人とも、日替わりでOK?」と先輩。

「「はーい」」


 私たちに異存はないわ!

 毎日先輩のおごりだし、いつも違う絶品スイーツが食べられるなら日替わり一択よ。それが当たりの日なら、なおのこと。


 その日のケーキは、野イチゴタルトのミント添え。このカフェの人気メニューで、日替わりに出るのは滅多にないのよ!

 見た目もすごく可愛いし、添えられているケーキタグも、この野イチゴタルト専用だからレア感がハンパないの!

 だからタグはぜったい持ち帰ってるわ!

 も~! 今日は超大当たりよね!


 お昼にデザートを頂いたけど、先輩が加減をして小さいものばかり用意してくれてたから、まだまだお腹の余裕があるから、野イチゴタルト、どんと来いよ!

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