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第3話 家族とか夫婦とか親子とか

 お父さんの帰宅後、私たちと先輩の四人で夕食が始まって――


「本当に美味しいですね! 素晴らしいです! この国でこんなに美味しいヤシマ料理が食べられるなんて、僕もう死んでもいいです!」


「先輩が死んだら私を誰が護るの?」

「あ、そうだった!」

「ところでユノス君」

「はい、お父様」

「君は一人暮らしだから、明日からウチで朝食を食べなさい。いいよな、ママ」

「ちょ、え? まってまって、お父さん」

「ええ、もちろんよ。お弁当も二人分用意するわね! 明日はサーモン入りのライスボールよ!」

「ちょっとお母さんまで! なんでそうなるの」


「本当ですか! ありがとうございます! 助かります! ああ~、ミラとお揃いのお弁当なんて、すばらしすぎます!」


「先輩まで、も~~~」


「家庭の味というだけでも幸せなのに、毎日ヤシマ料理が食べられるだなんて、僕、僕もう死んでもいいくらい嬉しいです!!」


 うわあ……。

 先輩、マジ泣きしてる……。


 ちょっと、なに私の頭ごしに餌付けしてるの??

 もう~、うちの両親必死すぎ! これじゃ婿養子直行コースだよ!



 けっきょく、私をゲットして浮かれた彼氏=ユノス・シンクレア先輩は、朝夕の送迎はもちろん、お昼休みもいっしょ。

 それどころか毎度の休み時間まで教員室からダッシュで教室までやってきて、私を四六時中ネコっ可愛がりしてるの。


 それだけじゃないわ。

 お父さんの発案で、先輩が毎日うちでご飯を食べることになっちゃった。

 私のぶんだけじゃなく、彼のお弁当まで用意してるから、平日は三食うちで食事を取ってることになるわね。

 でもまあ……ボディーガード代と思えば安いのかも?


 本当は忙しいはずなのに、放課後はカフェで時間つぶしたりしてるし、かと思えば夕方一緒に帰ってきて、夕食までの間、お父さんの書斎で書きものをしていたり。

 多分、仕事を持ち帰ってるんだわ……。


 どうしてそこまでして私と一緒にいるんだろう。

 あの人、謎だらけだわ!



     ◇◇◇



 朝。着替えが終わるか終わらないかって時間に彼はやってくる。

 ちょっと早すぎなんだけど……。


「おはようミラ! 迎えに来たよ!」


 玄関先から先輩の元気な声が、二階の私の部屋まで響いてくる。

 私はまだ髪もとかし終わってないのに、困った人。


「おはようユノス君。入って~」

「はい、失礼します」


 まだ支度が終わってないから、お母さんが対応してる。

 すっかり婚約者待遇なの、困っちゃうな。

 だってまだ彼のこと好きじゃないのに……。


 私が支度を終えて階下に降りると、先輩はもう食卓に着いてグリーンティを飲んでくつろいでいた。

 もう! すっかり自宅にいる雰囲気じゃない!


「やあミラ、おはよう。今日も愛らしいね!」

「おはよう先輩」


 あ~~、朝っぱらから両親の前で恥ずかしいこと言うのやめて~~!

 いたたまれないわ……。


「そうだろう、うちのミラは可愛いに決まってる! 成長すればお母さんのような美人になるだろう!」

「あらやだ美人だなんて。でもミラが可愛いのは当然よね!」


 先輩は、うんうんと頷いている。

 こんなのいつまで続くんだろ。朝から疲れるったらないわ……。


 そして朝食後、先輩と一緒に登校するんだけど、家の前で両親が全力で送り出すのがつらい。ご近所さんにもジロジロ見られるし、これって罰ゲームなのかな?


     ◇


 学院に着くちょっと手前で、いつもクリスと合流してるの。それは先輩と一緒に登校するようになってからも変わらずに続いてる。だから、学院に着くときは三人で門をくぐってるの。


 クリスの家の方から続いてる通りと、学園に向かう通りが交差するこの場所は、交通の要所でもあって、いつも多くの馬車が行き交っているわ。

 私たちは、この交差点にある新聞屋さんの前で待ち合わせをしているの。クリスはいつもこの新聞屋さんで情報を仕入れていて、ときどき新聞を読みながら私を待っていることもあるわ。おじさんみたいだからやめた方がいいと思うんだけど。


「おはよう、ミラ、シンクレアさん」

「おはよークリス」

「おはよう、クリス」


 今朝のクリスは今朝の新聞を読み終えたのか、カバンからはみ出しているわね。


「今日は私来るの遅かった?」

「ううん。朝から親が夫婦喧嘩してたから早く出てきただけよ」

「それは……なんというか、お気の毒に」


 先輩が神妙な顔をして言うから、思わず吹いちゃった。


「何がおかしいんだい? ミラ。親御さんの仲が悪いなんて子どもに悪影響しかないのだから心配だよ」


「そんなに深刻じゃないと思うよ、先輩」

「そうなのかい?」


「大丈夫よシンクレアさん。理由は朝食のこととかつまらない事ばっかりだから、すぐ収まるのよ。夜になれば普通に戻ってるし」


「なら、いいんだが……」


 たしか先輩のお母様は小さいうちに亡くなったと言っていたから、夫婦仲について神経質なのかもしれないわね。



 待ち合わせ場所から5分くらいで学園に到着するんだけど、私たちが揃って登校しはじめた頃は、みんながジロジロ見るから恥ずかしくて下ばっかり見て歩いていたわ。

 それでも、最初のうちは他の生徒や教授たちが不思議そうに見てたけれど、今では、いつもの珍獣三人組だな程度に思われてるみたい。

 それはそれでどうなんだろうと思うけど、一人で奇異の目に晒されていた頃を思えば、気分はかなり楽になったかな。そう、海藻頭って陰口叩かれていた頃に比べれば……。


「それじゃあね、先輩」

「ミラ……寂しいよ」

「すぐ会えるでしょ?」

「でも~」

「ほら、助手が遅刻すると教授に怒られるわよ。早く行って先輩」

「やだ~~、離れたくないよ~~」

「行かないと一緒にお昼食べてあげないから」

「それはダメ。しょうがない、じゃあまた後でね、ミラ」

「はいはい」


 教室棟と教員棟の分かれ道で、毎朝この茶番をやってるの。

 いいかげん落ち着いてくれないと、彼の将来が心配よ。遅刻ばかりしてたら、師範になるどころか、助手だってクビになりかねないわ。

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