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第14話

千春は、それから暁とよく遊ぶことが多くなった。

その日は、オールでボウリング場やカラオケで遊んだ。

深夜、雑沓の中、暁が40代くらいの男性に話しかけられた。知り合いらしい

暁はお尋ね者が見つかったようにバツの悪い顔になった。

「暁君、近頃お店に来てないらしいじゃないの。」

男はやけに暁に馴れ馴れしかった。

「誰?」

千春が言うと、暁はバイトの客、とそっけなく言った。

暁がバイトしてるのは知っていたけど……。

「綺麗な子連れてるね。これからちょっと遊びませんか」

男は言った。

暁は男にタックルし、千春の手を引いて雑沓に逃げた。


「誰、あれ」男が見えなくなって千春が言った。

暁は暗い影をその顔に落とした。

この顔は知っている。教室で泣いていた時の顔だ。


「俺、ゲイなんだ」暁が言った。


衝撃だった。

暁は、雑沓の中、消え入るような声で言った。

「これが、俺の本当の姿。女のコの彼女が沢山いて、クラスメイトに囲まれている俺は道化なんだ。軽蔑したデショ?」

暁は言うなり、耐えられないように走り出した。

千春は必死に追った。


たどり着いたところは、廃墟のビルだった。

「千春君。 こうゆう状況になって、とても自分が恥ずかしく思う。 でも、これ以上道化を演じるのはつらかった。 皆をだますのも、千春を騙すのもゆるせなかった。 千春が、俺の前まで演じなくていい、って言ってくれたこと嬉しかったよ。教室の事、嬉しかったよ。 千春と親友になれてよかった。

俺は千春の事、すきだった」


言うなり、暁は屋上の柵を越えた。


「暁!!」


「夜明け前の最も昏い時間帯の闇から暁の光が現われるのが好きなんだ。最後にその光景を見て死のうと思って」暁が言った

そんな最も昏い闇の中、「かげろひ」は現れたーーーーーー


厳寒と、晴天と適度な湿度の条件が整った時の僅かな時間のみ、稀に「がげろひ」

は現れる。

夜が明けぬ暗闇の東方に赤い光がゆれている。

千春は、覚えてる。

暁の葬式での無念さを。

愛しいとやっと気づいたのに、いなくなってしまった虚無を。


この「がげろひ」は死んでしまった暁の人魂か。


「暁!!」千春は叫んだ。

暁を助けたかった。必死で手を伸ばした。

その為に俺はやり直しに来たんだ。

「暁、行かないでくれ…俺を置いて行かないでくれ」

涙が溢れた。

「千春…」


「……暁の事が好きだ」


千春は自分の正直な気持ちを伝えた。

「道化の暁も、本当の暁も好きだ」


千春はビルの柵の内側へ暁をひっぱった。

暁は泣いていた。


千春は暁を抱きしめるーーーーーーーー

「かげろひ」は消えていた。


夜が明けて暁の空が広がっていき、二人を照らした。


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