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第12話

俺は、24歳の時、さくらと結婚した。 さくらには、子供ができなかった。月日は流れ、俺は31歳になっていた。

(これは、俺に課せられてた罰なのかもしれない)

 両親は子供を望み、さくらは不妊治療を続けた。 それはとても過酷だった

毎日毎日、病院で痛い注射を打ったり、あるときは、子宮内の卵を増やすために、家に注射器を持ち込み、痛がりながら、お腹に自分で針を指すさくらがいた。親の後を継いで製薬会社の社長になった俺は、不妊治療の薬を開発しては、さくらに飲ませていた。その結果、さくらは女の子を無事出産した。

「ありがとう、千春の薬のおかげだよ」

「さくらが…一番がんばったんだよ。…ありがとう、さくら」

赤ちゃんを抱きながら、千春は涙した。名前は「愛」と名付けた。

両親は喜び、父親は男の子が欲しかったが、「今の時代、女性でも社長になれるんだ。女の子でもいいじゃないか」と笑った。


母さんは、色々なベビー服をかってきては、「女の子は可愛い服がいっぱい着せられてかわいい」とアイドルのようにもてはやした。

愛をベビーカーにのせ、さくらと街を歩いていたら、暁に会った。千春は、ドキリとした。

「千春、姫、久しぶり」暁が笑った。

(会ったらなんて話したらいいかわからなくなると思ってたけど、案外大丈夫なもんだな…)

「暁、今でもモテそう…」 千春が言うと、暁は笑いながら首を振った。

「ノリと顔でモテるのは20代までだよ。30代にもなるとお金ある人の方がモテるらしい。…千春はモテるだろ?あ、姫の前だった。いまのなし」

「暁くん、千春に変なこといわないでよ」

笑いあった。


花を散らすと見る夢は、覚めても胸のさわぐなりけりーーーーーーー


暁が、すうっと消えた。

彼は、幻だったのだ。

さくらは、暁が見えていたんだろうか。

それとも、俺に合わせてくれたんだろうか。

さくらは黙っていた。


けれど、俺はさくらがいる限り、もうまぼろしに恋したりはしない。


もう少しで冬が終わり、春の季節になる。桜の季節になると、俺は2人の愛した人を思い出す。

一人は、妻であるさくらーーーもうさくらには恋という感情はなく、愛情とか家族の愛しか残ってないけど、桜を見るたび、あの恋した感情が鮮やかに思い出される。

もう一人はーーーーその人は、短い学生生活の、短い間、本気で愛していた人だった。短く咲き誇る桜の花のような恋愛だった。



妻のさくらはポツリと、「さくらは恋をしたんだよ」と呟いた。


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