放課後の隣の教室で、夕暮れの逆行の中、暁が一人で居た。クラスメイトに囲まれて、冗談を飛ばしているいつもと違って、その姿は暗い影を落としていた。
「俺はね、道化を演じてる」暁が ぼそっと呟いた。
「だましてるんだ。親も、先生も、クラスメイトも、さくらちゃんも…千春も」
「道化でいると、皆、好きになってくれるから。サービスいいデショ?」
泣いているようだった。だけど、逆行で顔はよく見えなかった。
ー俺は、お前の道化に幾度助けられたかもわかんない。
でもそれ、お前苦しかったんだな…ごめんな。
…そんな台詞が心に思ったけどーそれは本当に思っていたけどー 言葉に出した瞬間、陳腐になりそうで…嘘になりそうで…千春は何も言えなかった。
こんなとき、陽向ならどう対応するだろうかーーー いや、あいつは、空気吸うくらい自然に優しいのだから、到底真似できない…
千春は困ってそこに立ち尽くしてしまったが、おずおずと暁に近づいて行った。 どうして近づいたかわからない。
ただ、弱ってる友人?を慰めたかった。 暁のそばに行くと、暁は千春の肩に頭を乗せてきた。
「重い」千春が苦情を伝える。
「それで、千春は俺に何してくれるの?」
暁は誘うように囁いた。眼光は抑えきれず鋭く光っているが、千春はそれに気付かなかった。
「え?ええと…抱きしめるとかか?わかんないよ」
「…わお!抱きしめるって、千春君積極的~」
暁がおどけた。
「俺の前まで演じなくていいから」
一瞬、教室が静まり返った。
「このままでいいよ」 ありがと、と暁は呟いた。
ーー何だ、お前、やっぱ泣いてたんじゃないかーーー
暁に美雪の事を話したら、軽蔑されるだろうか。父みたいに異常って、離れてしまうだろうか。それとも、すべて見透かされてるんだろうか
ーーそのすべてを見通す瞳でーーーー