家に帰ると、父は母と陽向を呼び出してグチグチ文句を言った。こうゆう時、父は千春には何も言わず、母と陽向に言う。それが逆につらかった。
「あいつは異常だ、狂ってる!!」
「千春を病院につれていっては?」母がいつもの口癖を言った。
「病院に?冗談じゃない。あそこの患者はうちの会社の製品の体のいいお得意様だが、自分の息子を入れるとなると別だ。世間に白い目で見られるのは、私たちなんだぞ!!親が悪いってことになる」
ひどい言い方だと思った。千春はドアの前で耐えるように聞いていた。
「あいつはこの家の恥だ!!」
大きな声で父が言った。全身が鞭に叩かれたようなかんじがした。心がじくじくと痛む。
ーダカラカンジョウナンカイラナインダ。コンナニクルシイーーーー
千春はたまらなくなり、自分の部屋に飛び込んだ。 さくらのことと、父親の怒声が心と頭にいっぱいになってどうしようもなくなった。
「あああああああああああああ!!!」 千春は大きな声で喚いた。
「どうなさいましたか、千春さま!!」 陽向がすぐに千春のところに来たので、千春は満足した。美雪はいなかった。きっと、恐ろしくなって部屋に閉じこもってるんだ。
「何でもないよ」
陽向は安定剤をもってきた。
「飲みたくないよ」
「お父様が千春さまの為に作ったお薬ですよ。あんなことを言ってますが、千春さまの事を心配しているのです」
千春は,そうなんだろうか、と思った。
薬を素直に飲む千春。
「陽向は、ずっと千春さまについてますからね」
陽向は優しい男だったが、その日はとくに優しかった。