裏庭の桜の木に行くと、またあのさくらとかいう変な女がいた。千春はさくらから離れて座った。
「千春」
「えいっ」
さくらはまたさくらのはなびらを降らせてきた。 千春の心は何も感じることはなかった。
「私は、千春の事一年生の時から知ってたよ。でも千春は有名な子だからなかなか話しかけられなかったの。この間初めて話しかけた時はとても緊張してたんだよ、これでも」
さくらが頬をうっすら染めながら話した。
(この子、おれの事好きなのかな…)千春は、好意を正直に表現するさくらを見てそう思った。自惚れているだけなのかもしれないが、千春は女子に好意を寄せられるのは、慣れていた。 さくらの事をよく見る千春。
(顔は、可愛いと思う。声もあどけない甘い声だ。)
「何、千春。じっと見られると、照れちゃうよ」さくらが言った。
好意を持たれてるのは、わかっていたけど、その好意が重たく感じた。
それから、何回か、さくらとあの裏庭の桜の木で会った。でもその日は桜人の姿がなかった。
(どうしたんだろう。いつもいるのに)
寂しい、と感じた。いつものうるさい人がいないからそうかんじたのだろうか。
「千春ー!!」
「ごめんね、友達と話してて遅くなっちゃった。 あ、その顔!さみしかった?」
「別に…さみしくないし」
それからも、さくらと裏庭の桜の木で会った。 さくらはおしゃべりで、聞きもしないのに、クラスメイトの事とか、先生のこととかをずっと話してた。 いつかその時間が俺にとってかけがえのない、大切な時間になってた。
雲の間に太陽が隠れていたのが見えていたのに、ふり返えると、桜雲の中にかたぶいている。光の粒が、桜雲から溢れ出て、千春は目を細めた。
隣に座っている、さくらを見た。顔が熱くなっていく。
「千春のほっぺた、桜色だね。…わたしのほっぺたもきっと桜色だ。あの桜の木に負けないくらい」
さくらは、千春に桜のはなびらを降らせながら言った。俺は胸の鼓動が速くなるのを感じた 。でも、あの時俺は、まだ自分がさくらの事を好きだという事を認めたくなかったーーーーー
その日も美しい桜を、二人で桜狩りをしていた。青空と,桜の花のコントラスが美しく、俺は桜をずっと眺めていた。いつもの通りさくらがおしゃべりをしている。不意に、それが途切れたーーー
(この子にキス、したいな)
そうゆう、雰囲気でもあった。 千春は、さくらの唇にくちづけする。 唇は、ひんやりとしていた。
若さゆえに、そのまま激しく唇に口づけをした。 脳天がしびれるような、甘いような感じがした。 さくらを抱きしめる千春。 女の子って、俺よりずっと強く感じるのに、体はこんなに華奢なんだな。強く抱きしめると、壊れそうな感じ。
学校のチャイムが鳴った。
「千春…、授業に遅れちゃうよ…」さくらが、胸の中で呟いた。
「離れたくない」千春が囁く。
さくらは、千春の体に腕を回した。