目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第8話

   6


「あの古狐、結局どこに消えたんだ?」


 帰り道。俺がそう訊ねると、堂河内は首を傾げながら、


「さぁ、どこだろうね?」


 あいまいな返事をされて、俺は「は?」と思わず変な声を漏らしていた。


「見てたんだろ? アイツがどっかいっちゃうのを」


 すると堂河内は少し困ったように笑みをこぼし、


「見てたけど、瞬きをしてるうちに一瞬で消えちゃったんだ。だから、実は僕もちゃんと見ていたわけじゃなくてさ」


「……そうか」


 それは至極残念な話だったけれど、まあ、仕方がない。或いは見えていないだけで、実は今もすぐ近くに隠れて、俺たちのあとを付けて来ているんじゃないか、そう思いもしたのだった。


 やがて分かれ道まで二人並んで歩いていたが、その別れ際、俺は「えっと……」と少し言葉に困りつつ、


「今回は、本当にありがとうな」


「うん」

 と堂河内は頷いて、

「また何かあったらすぐに教えてよ。僕にできる範囲なら力になるから。もちろん、真帆ねぇや茜さんと一緒にね」


 それに対して、俺も頷き返す。


「今日はありがとうな、堂河内」


「ううん、気にしないで。それじゃぁ、また」


 堂河内は小さく手を振り、俺に背を向けて。


 俺はしばらくその背中を見送っていたが、やはり口に出して言っておきたくて、


「堂河内!」


 大きくその背中を呼び止めた。


 振り返る堂河内に、俺は「えっと……」と少し口籠もりながら、


「明日からも、よろしくな!」


 そう口にすると、堂河内は大きく手を振りながら、


「あぁ。こちらこそ、よろしくな!」


 今まで見せたことのない、満面の笑みで言ったのだった。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?