「ねぇねぇいいじゃん!! 俺と放課後遊びに行こうよ!!」
「…………はぁ。いやです」
「なぁんでだよ!! 俺なんでも奢るよ? 好きな所に遊びに連れていくからさぁいいじゃん!! 行こうぜ!! なぁ!!」
「…………うっざ……」
授業間の休憩時間になる度に、俺の席のすぐ側で繰り広げられる
ちなみに、声を掛けられている方の生徒は
更に運動神経も良いようで、特定の部活動などには行っているわけでは無いけど、クラス対抗の催しなどではかなりの成績を治め、クラスの勝利に貢献している。
そんな彼女だから男子生徒に人気があるのは当たり前で、高校入学から半年と経たない夏前の時点で、既に撃沈数が両手×2では収まらない程だ。そして彼女のそんな外見と振る舞いからも、どこかの名家か、大企業のお嬢様という噂が学校内では既に流れていた。
周囲の事などお構いなしで彼女に話しかけているのが
「いいだろう? 今日じゃなくてもいいからさ、一緒に出掛けようぜ!!」
「いい加減にしてもらえます? 私は私の用事があるので、お断りします」
「くっくっく……」
断られる言葉を聞いて思わず笑い声が漏れてしまった。
「おいてめぇ!!」
「あん?」
やばいと思った瞬間には遅かった。俺の笑い声は奴にも聞こえていたようで、俺の席の前に移動してきた源道が寝ている俺の頭を思いっきり揺すった。
「今笑ったよな?」
「うん? なんのことだ?」
「とぼけるなよ!! しっかり聞こえてるんだからな!!」
「そうなのか? 笑ってたのか俺……。いやぁすまんな。ちょっと夢を見ていたみたいだ」
「そんな言い訳通用すると思ってんのかよ!!」
「え? いやだって夢の中に出て来た事に笑ったわけで、別に源道の事を笑ったわけじゃないと思うぜ? それともなにか? 俺の夢の中の出来事をお前は知っているのか? 凄いな!!」
「てめぇ……」
顔を真っ赤にしつつプルプルと震える源道。
キーンコーンカーンコーン
源道が手を振り上げた瞬間にちょうどチャイムが鳴った。
「ほらほらチャイムが鳴ったぞ。席に戻れよ源道」
「ちっ!! 覚えておけよ岸!!」
そう言いつつ源道は自分の席――クラスの後方に位置している――へと足音荒く歩いていった。
「ありがとう岸君……」
「ん?」
源道が離れていってすぐに、耀司さんが俺の方へ声を掛けて来た」
「いやいや別に何かしたつもりはないが……」
「そんなこと無いよ。ありがとうね。……名前通りの人ね(ぼそり)」
「ん?」
「何でもないわよ。ほら先生が来たわよ」
「お? おぉ……」
何か誤魔化されたような気がするが、耀司さんが行った後すぐに先生が教室へと入ってきたので、俺もようやくちゃんと顔を上げて授業を受ける体勢を取った。
「くそ!! 岸のやつ!! 覚えておけよ!! 必ず……そう必ずお前を……」
教室の後方で源道が俺を睨みつけながらブツブツとつぶやいている事など、俺の耳には届くはずもなかった。
俺が通う学校は、進学する奴もスポーツに打ち込むやつにも、それなりに名が通っている私立の学校で、その他にもアニメ研究部や映像研究部、マンガ部、電子情報部など、サブカルチャーに特化した部活動なども有るので、運動などが苦手なやつもそれなりにいる。そして俺はそんな中でも文芸部という小説などを読んだり書いたりすることが好きな奴らが集まる部活に入っていたりする。
「
「ん? なにがだ?」
「いや、今日の
「あぁ……」
部室の中で俺に声を掛けて来たのは同じクラスの
「いつもの事だろ? アイツがいろんな女子に声をかけてるのは」
「そうだけどさぁ……。絶対アイツ助の事を眼につけたと思うぜ?」
「まぁ……そうだろうなぁ……でも何とかなるんじゃね?」
「軽くね? え? 助にはアイツの存在ってそんな感じなん?」
「んー? 俺に何かしてくる分には……な。でもあの子には……」
「さすが助!! 名前の通りってか?」
「茶化すなちゃかすな!!」
そう言いながら俺達は笑いあった。
部活も終わって帰宅途中。俺の家から学校までは徒歩30分圏内なので、俺は一人でいつもの様に徒歩で帰っているのだが、そんな俺の後を俺と同じような歩調で進んでくる存在に気が付いた。
――まさかなぁ……。
部活の時の和樹の言葉を思い出す。
偶然だろうと思いつつも、俺は歩調を変え少しだけ早歩きを始めると、俺の後ろからも同じ様に早歩きする様子が分かった。
――ちっ!! まじかよ……仕方ないなぁ……。
少し先にはちょうどいい小さな公園があるので、そこに入ろうと更に歩く速度を上げる。そして公園に入ると少しだけ走り公園の中央付近で立ち止ると、後ろから追ってきているであろう者を待ち受けるために振り向いた。
数分後に姿を現したのは――。
「よう……俺に何か用か?」
「へぇ……落ち着いてるじゃねぇか……。気が付いていたのか?」
「まぁ、あれだけ分かりやすければな」
「どちらにしろ悪いが痛い目を見てもらうぜ」
そういうと相手はスッと手を上げる。途端に公園の四方から何人かの人影が近づいて来た。
――そうなるよなぁ……。
俺は大きなため息をついた。
がらがらがら
「こんばんはぁ……」
「いらっしゃぁ~い」
とある大衆食堂の入り口のドアを引き、中に入ると声を掛ける。すると中から元気な女子店員さんの声が返ってきた。
店の中を進んで空いている一人掛けのカウンター席の椅子を引き、どかりと腰を下ろして、肩から掛けている通学用のバッグを備え付けの籠の中へと入れる。
ちょうどその時にお冷が目の前に置かれたので、グイっと一息に飲み干してほぉ~っと大きく一息ついた。
「いらっしゃい!! あれ? 助君どこかで転んだの?」
「え? どこか汚れてる?」
「背中……けっこう汚れてるよ?」
「そ、そうか!? ありがとう。すぐに脱ぐよ」
店員さんに声を掛けられて慌ててブレザーの上着を脱ぎ、椅子へと掛けた。
「よう助君!! 今日はどうする?」
「うんじゃぁいつものでお願いします」
「あいよ!! 任せときな!!」
カウンター向こうから店主の勢いの良い声と、さわやかな笑顔を向けられて、俺もニコリとして返す。
そして俺は飲み干したコップの中へお冷を足してから、少しだけ周囲を確認した。
「あれ?」
「ん? どうしたの?」
声が出ていたのか、俺の後ろを通り過ぎようとした店員さんが俺に聞き返す。
「今日はいないのかなって……」
「あぁ!! 今日はお休みなのよ。ごめんね」
「え? いや謝られてもですね……」
「あははは。助君が気にしてたよって言っておくね」
「いやいやいや。余計な事は言わなくていいですよ」
店員さんと話をしていると、俺の目の前にどかりと食事が置かれた。にこりと笑う店主が俺を見つめる。
「サービスでどっちも大盛にしといたよ!!」
「え? どっちも?」
「そうどっちも!! ご飯も唐揚げもな!! 遠慮なくいっぱいくってけ!!」
がはははと笑いながら厨房の奥へと戻って行った店主を見送りながら、俺はこんもりと盛られたご飯を見ながら嬉しさと申し訳なさで苦笑いが漏れた。
――そうか今日はいないのか……。
先ほどの店員さんの話を思い出し、少しばかり残念に思いつつも、目の前の唐揚げを箸でつかみ上げがぶりとかじりついた。
翌日の朝教室に入っていくと、既に席についていた耀司さんの横の席――つまりは俺の席なのだけど――で相変わらず耀司さんに声を掛けている源道の姿が有った。
何も言わずに教室の中へと入っていき、友達などと手を上げて挨拶をすると、先に来ていた尾瀬が親指をくいっと俺の席の方へ向けて苦笑いする。
それに俺も頷いて返事をすると、そのまま俺の席の方へと歩いて行った。
「――もうすぐ岸君が来るわよ? どいたら?」
「いやいや今日はアイツは来ないよ。いや来れないって言った方がいいかな?」
「……ソレどういう意味?」
「ん~? どうだろうねぇ? だからアイツの事は気にしなくていいからさ、ねぇねぇ今日こそは俺とお遊びに行こうよ!!」
「何がだからなのか分からないけど、行きません」
「何でだよ!! 俺金もってるよ? 成績も悪くないし顔もいいだろ? 美麗さんには俺の様な男がお似合いなんだよ。いいだろ?」
「ちょっと!! 離してください!!」
源道は一人興奮してきたのか、耀司さんの腕を掴んだ。耀司さんはその手を振り払おうとしているようだけど、源道の力が強いようでどうにもできずにいた。
「おい……」
「あん? んだよ!! 今忙しいんだから話しかけんな!!」
「おい、その手を離せよ。そしてその席から離れろ」
「てめぇ誰に向かっ……て、へ? き、岸……。どうしてお前が……」
「どうしても何も……そこは俺の席だからな。早くどいてくれよ」
「…………」
源道は俺の顔をまじまじと見つめて動く気配が無かったので、俺は無理やりにやつを椅子から引き離し、その席へと座って机の上にバッグを置いた。
ちょっとの間源道は俺の顔を見て口をぱくぱくとしていたけど、ハッと気が付いたと同時に教室の外へと足早に歩いて出ていった。
「ありがとう岸君」
「いやいや。元々俺の席だからね。ここは」
「ふふふ……。でも彼と何かあったの?」
「ん? 源道と? いや
「そう? なら……いいんだけどね」
納得はしていないようだけど、耀司さんはそのまま何も言わずに、いつもの様に参考書を手にして読み始めた。
――そうそう。何もないよ。今のところは……ね。
俺は源道が出ていったドアの方をじっと見つめこの後の事に考えを巡らせるのだった。
学校の中では特に変わった事はなく、いつの間にか教室に戻って来ていた源道だったが、耀司さんの所にちょっかいを掛けに来ることもせず、しかし相変わらず女子に声をかけまくり、男子には朝の鬱憤を晴らすかのように当たり散らしていた。
俺はそれには干渉する事も無く、いつもと同じように寝て過ごしているし、隣りの耀司さんはクラスの女子と仲良くおしゃべりに花を咲かせている。朝の事があったからか、クラスの女子は耀司さんの事が心配になったのだろう。休憩時間になると耀司さんのそばには数人がいつも守っているようについている。
クラスの男子はそれ以上に源道の事でピリピリとしていた。何かすれば自分に矛先が向くので、視線を向けるでもなく、仲が良い奴同士で固まって時間を過ごすようにしているようだ。
まぁ中には俺に向けて冷たい視線を向けてくる奴もいるけど、そいつはいわば源道派と言える奴なので、俺ははなから相手にしていない。
何かあれば源道と共に行動はするが、一人きりで何か事を起こすなどという事が出来るような度量は持ち合わせてないのだろう。
重い空気が教室の中に流れる1日は、本当に長く感じるモノだ――。
「岸君!!」
「ん?」
自分の靴を出して、上履きから履き替え昇降口を出ようとしていると、後ろから声を掛けられた。
「おう、耀司さんか……」
「今日はもう帰るの? 部活は?」
「今日は部長をはじめ、応募する賞の期限が迫ってるから自宅で書き込むらしくて、部活は休みなんだよ」
「そうなんだ……。えっと……」
「どうしたの?」
カバンに着いたクマのぬいぐるみをいじりながら、口ごもる耀司さん。
「帰るん……だよね?」
「そうだけど……」
「一緒に……帰らない?」
「え?」
「だ、ダメ? かな……」
「い、良いけど……え? 俺と二人で?」
「う、うん……」
「……うん。いいよじゃぁ一緒に帰ろうか」
「やった!!(ぼそり)」
そうして珍しく俺は女子と二人きりで変える事になった。
――まさか今日も……てことはないよなぁ……。
二人で歩きつつ嫌な予感を拭い去ることができないでいた。
「おい!! ちょっと待て!!」
「そこの二人待ちやがれ!!」
何事もなく通り過ぎようとした昨日と同じ公園の前で、どこからともなく現れた男子が数人、俺たち二人の進路を塞いだ。
そして気が付くと俺たち二人の後ろからも数人の男子がこちらへ向かって歩いて来る。
「ちょっと面貸してもらおうか……」
俺の正面に立つ男子が顔をくいっと公園の方へと向けると、そのまま歩き出す。
「あぁ逃げても無駄だぞ? この辺一帯は封鎖してるからな」
「心配すんなよ!! その女の子には手を出さないからよ!!」
「そうそう!! あの人からも――いて!!」
「よけいなこといってんじゃねぇぞ!!」
――あぁはい。そういう事ね。さてどうしたもんかな……。
俺と耀司さんは男子たちに言われた通りに公園の中へと歩いてついていく。ふと巻き込まれた形になった耀司さんの方へと視線を向けた。すると俺の方へと視線を向けていた耀司さんとばっちり視線が合ってしまう。
「ごめんね。たぶん巻き込んじゃったみたいだ」
「ううん……たぶんこれって私のせいでもあると思う」
「え? どういう事?」
「えっと――」
二人で話をしながら歩いていくと、公園の中には先に行った男子だけじゃなく、見た事の無い男子が複数人で待っているのが見えた。
「よう!! 待ってたぜ岸!!」
「やっぱりお前か……」
「源道くん……」
男子の中から一人前に出てきて俺達に声を掛けてくる。その姿を見てやっぱりな思う俺と、予想をしていたのであろう耀司さんはあまり驚いた様子が無い。
「俺というものがありながら、俺の誘いを断ってそんな奴と放課後デートするなんてどうかしてるぜ美麗さん!!」
「…………」
「俺に任せてもらえば好きなものをプレゼントするし、好きな事もできる好きな場所へ行く事も出来る。そんな見るからに貧乏そうな奴なんかやめて、俺にしときなよ!! 君の様なお嬢様には俺の様なお金持ちこそが相応しいんだからな!!」
「…………はぁ~」
「あんなこと言ってるけど?」
源道の話を聞いて大きなため息を吐く耀司さん。あまりの言い様にちょっと呆れた俺が耀司さんに声を掛けた。
「……ちゃんと断ったのに……」
「そうなんだ」
「……うん」
こくりと頷く耀司さん。
――まぁそれはいいとして、アイツちょっと……。
「なぁ源道」
「なんだ岸!! 今更謝ったって俺を侮辱したことを許すつもりはないぞ!!」
「まぁそんな事はどうでもいいんだけどな」
「そんな事だと? 俺を侮辱しただけじゃなく、俺の女である美麗さんまでも唆しておいてそんな事だと?」
「もう一度言うけど、あんなこと言ってるけど?」
「勘弁してほしいな……」
喚き散らす源道にげんなりする耀司さん。
「源道!!」
「なんだ!!」
「お前勘違いしてるぞ!!」
「なんだと!? 何を勘違いしてるっていうんだ!!」
「耀司さんは――」
俺はその先を言う前に耀司さん――美麗に視線を向ける。美麗も俺の視線の意味を理解したのか、こくりと頷いた。
「美麗は、下町食堂の娘さんだぞ?」
「はぁ? 何を……いうに事欠いてそんな嘘を!!」
「いやいやいや、嘘じゃないって、美麗はこの先の――耀家食堂の娘さんだぞ」
源道の視線が美麗の方へと向いた。
「助君が言ってることは本当ですよ。私は皆が言っている、思っているようなお嬢様なんかじゃないです。下町の本当にごくごく一般的な家庭の子ですよ。毎日お店の手伝いに出てるくらいに普通に働いてますしね」
「そ、そんな……バカな……」
「まぁ驚くのは分かる気がするし、勘違いしちゃうのも分かるけどな。この美麗の事見ちゃうと」
「どういう意味ですか? 助君」
「そのままの意味だが?」
俺の方を見ながら頬をプクッとふくらます美麗。
「そ、そそそそそんな事はどうでもいい!! 食堂の娘でもこの際いい!! それよりもだ!! 岸!! 貴様この俺の女を誑かしてただで済むと思ってるのか!!」
「美麗、またあんなこと言ってるぞ?」
「もう!! 面倒くさいですね!! ごほん……」
スーッと息を吸い込む美麗。
「いい加減にしてください!! 私はあなたの様なナルシストはお断りです!! 私には助君という好きな人がいるんです!! 誤解される様な事を言わないでください!!」
一息に言い切ってスッキリした顔をする美麗。しかし数秒後にはハッとした顔をすると急に顔を真っ赤にして俯いてしまった。
源道はというと、美麗からハッキリさっぱりあっさりと否定された事で呆然としていた。そんな源道を見ていた周囲の男子達もざわざわとしだす。
「くっ!! まぁいい!! 今からその男をやってしまえば、美麗さんも気が変わるでしょうしね。くっくっく……」
「クズだな」
「クズですね」
俺と美麗の声がシンクロした。
――とはいえ、どうしたもんかね、この人数相手はさすがに……。
「ふふふ」
「ん? どうした美麗」
困ったような顔をしていると、俺の方を見ながら美麗が笑う。
「あの時みたいですね」
「ん? あぁ……確かにそうだな。でも今日は違うところもあるぞ?」
「え?」
俺と美麗の出会いは2年前にさかのぼる。
状況的には今と似たようなものだが、当時俺はやんちゃ盛りで家の家風というか父親からの干渉に耐えかね、独り喧嘩に明け暮れた生活を送っていた。
何代前の誰々は空手の師範をしていたなんて話は俺には関係ないというのに、代々にして引き継いできたものを継承するなんて言う建前の元、俺は父からも爺さんからも幼少のころから『鍛えられて』来たのだ。
毎日の様に喧嘩をしては何処はばかることなく大の字になって寝ていた俺を、たまたま通りかかった美麗と美麗の姉――耀司このみさんという。食堂の店員さんだけど――に発見され救護されたのがきっかけで、その後も度々美麗とは街中であったりすると話すようになった。
そんな折に美麗が町の不良たち数人に絡まれ、どこかへ連れていかれようとしているところに出くわした俺は、そのままそいつらと殴り合いになった。
騒動を聞きつけた周囲の人の通報によって、警察の介入があり俺も警察に連れていかれたのだが、美麗や美麗の話を聞いいた食堂の御主人(美麗の父親)が懸命に警察で話をしてくれた事で、厳重注意という事で収まった。
その恩もあって、俺は今もなお耀家食堂に顔を出しているというわけである。
そして――
「美麗」
「なに?」
「今日も守ってやるからな」
「うん!!」
じりじりと近寄って来る源道たちに対して、美麗をかばうように背に隠し、スッと構えを取ると、ピリ付いた空気に気圧された一人が俺に飛び掛かってきた――。
――数日後。
「あれからどう?」
「ほぇ? あぁ……特に何もないよ。助君のおかげでね」
「そうか。それなら良かった」
いつもの様に耀家食堂のカウンター席に座りつつ、店主自慢の唐揚げを大口を開けてかぶりつく。
「今回も助けてもらったみたいだからな!! 俺からの礼だ」
「助けたというか、まぁ結果そうなっただけで……」
「いやいや、いつもありがとな!!」
「はい」
「それとは別なんだが……」
「何ですか?」
「美麗との結婚はまだ許可しねぇからな!!」
「ぶふぉあ!! げ。げほげほっ!! な、なななななんです急に!!」
がははははと笑う店主。
「もうお父さんたら!!」
「美麗から聞いてる!! うちの娘を頼んだぞ!!」
「え? あ、はい!!」
「……助君、あれはお付き合いはオッケーが出たって事だからね」
「あ!!」
そういうとウインクしてくる美麗と、店の奥の方へと消える店主。
俺は認められたことが嬉しくて、胸の奥が熱くなるのを感じた。
おまけ。
あの日の数日後、静かに教室に入ってきた源道は体中にけがや包帯をしている――という事は無かったけど、教室の中でも外でも美麗に声を掛けてくる事はなくなった。
というよりも、俺や美麗と顔を合わせないように過ごしている様で、最近ではその存在自体を隠すように静かに毎日を過ごしている。
時折俺とばったり会ったりする事もあるけど、すぐに顔を青くさせながら下を向いて去って行ってしまう。
誰かがそんな源道の変化に驚いて、色々と聞いたようだけど、源道は「俺には何もない」としか答え無かった様だ。
源道