奥で何かを探っている様だ。
それからヴェロニカが腕を抜くと、黒い表紙の本が出てきた。
「あったろ?」
開いて確認する。台帳だった。
「俺の名前もあるな」
二週間前だ。売上が計上されている。しっかりと、アッシュの名前が書かれていた。
「よし、出るぞ。宿で裏帳簿を精査する。これも売れるぞ」
「盗んだ物だろう」
「グラオトレイで盗品も扱ってるお前から、まさかそんな言葉が聞けるとはな」
「知ってたのかよ」
アッシュは目を伏せた。
「お見通しだ」
ヴェロニカと一緒にウル=ニコ商会を出る。
「また客か」
外に出て直ぐに、ヴェロニカが零した。
「今度は何だ」
「結構いる」とアッシュ。
誰とも分からない五人が待ち構えていた。
黒い頭巾に黒い手袋、黒いブーツ。全身黒ずくめの奴らだった。その内の一人が松明を持っている。
「美人は辛いな」とヴェロニカ。
「どこに行っても悪い虫が付いてくる」
「ジントゥーラか? サウスボンスから、よくもまぁ遥々やって来たな」
ヴェロニカが挑発した。黒頭巾の奴らは、微動だにしない。
「答える義務はない」
黒頭巾の内の一人が言った。男の声色だった。
「持ち出したものを返してもらう」
「悪い事は出来ないな、お互い」とヴェロニカ。
「秘密なんだろ、コイツの存在は」
ヴェロニカが帳簿を見せびらかす。
「渡すのか?」
アッシュが言った。
「勝ち目がない。コイツらは強いんだよ」
ヴェロニカとアッシュが何を喋っても、五人の黒頭巾達は黙っている。動きの気配もない。
「持っていけ」
ヴェロニカが黒頭巾の足元に、裏帳簿を放った。
黒頭巾が拾う。
「あ、そういえばエドワールは死んだぞ」とヴェロニカ。
「だからここにいる」
「お前を絶対に見つけるからな」
ヴェロニカは言った。
「必ずこの始末をつけさせる」
黒頭巾の男は裏帳簿を拾い上げると、ヴェロニカを無視して、他の奴らに「燃やせ」と短い指示をした。
松明を持っていた一人が動き出し、躊躇いなく店に火を放った。
「二度とここには来ない事だな、ヴェロニカ・シェーン・セラノ。今回は過去のお前に敬意を表して、逃がしてやる」
「おい、ちょっと待て。どういう事だ」
アッシュが突っかかる。
「お前は何も知らなくていい。首斬りのアッシュ。そうだろう」
目が合った。黒頭巾から、緑色の瞳が覗く。
「なんでそれを――」とアッシュ。
「ある種、お前達二人はお似合いだ」
黒頭巾達は去った。
「クソ」
ヴェロニカは呟く。
炎の気配に気付いた、幾つかの市民の姿が集まってきた。
「早く逃げよう」とアッシュ。
「逃げるんじゃない、距離を取ってやるだけだ」
ヴェロニカの口調は強い。
「なんでもいい、行こう」
「ふざやけがって」とヴェロニカ。
燃える店を後にする。