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第4話 意見の一致

 カルジーナ地区から西へ。

 イグナイブス通りからドロティーナ通りを一旦北上し、ゲロッグ横丁の先を曲がると、シロ通りだった。

 貧困街とは違い、街灯のある通り。酔っ払いも猫の死体もない、ごく一般的な地区だった。ランタンを持つ衛兵とすれ違い、第三門付近へ。

 シロ通りの路地へと入る。


「その猫、いつまで持っているつもりだ」とアッシュ。

「うるさい」


 ヴェロニカがアッシュの顔を見ないで答えた。


「本当は気に入ってるんだろ」

「死ね死ね死ね」とヴェロニカが放つ。


「はいはい。あ、多分あの木とかその辺りだな」


 アッシュはメモを見て確認する。

 ヴェロニカが松明で、アッシュの指差した方向を照らした。枯れた木があった。まだ冬だ。あの木に葉が茂るまで、およそ二ヶ月は待たなくてはならない。


「何があるかな」とヴェロニカ。


 近付いてみる。何の変哲もない木だった。木である事以外に証明出来ない木。


「金の匂いはしたか?」


 アッシュはメモを畳む。ヴェロニカは松明で木を照らして確認し、それから視線を下に向けた。地面を眺める。


「臭いところは見つけた」


 アッシュがヴェロニカへ近づく。


「ここを見てみろ、踏み込むと僅かに土が柔い」

「確かに、色もなんだかちょっと違うな」


 ヴェロニカが踏みしめた部分だけ、土の色が濃い。


「掘れ」

「俺が?」

「え、もしかして私が掘ると思ったのか。逆に?」

「いや、そうじゃないけど。じゃあ、この土を道具もなしにやれってか。爪に土が入り込むだけで、まともに掘れる気がしない」

「殺すぞ、やれ」


 黙って従う事にした。


**


 暫し土を掘り返すと、一つの木箱が出てきた。


「クソ、ほらよ」


 アッシュはヴェロニカに手渡す。片手で持てるくらいの、小さな箱だった。


「金の匂いがしない。期待出来そうにないな」


 ヴェロニカは受け取る。交換でアッシュが松明を持つ。


「これで返済するつもりだよ、俺は。苦労して手も汚れたし」

「その思考が貧乏の原因だ」


 ヴェロニカは木箱を開く。


「現実を見ろ」


「何だ」とアッシュは覗き込んだ。


「一万二千ギルがあったか」

「鍵だよ」


 木箱を雑に投げ捨て、鍵を親指と人差し指で持つヴェロニカ。


「やっぱな、クソはクソしか見つけられないっていうのが相場だ」 


 アッシュは次の言葉を見つけられない。あっても出せない。


「これはどこの鍵だ」


 ヴェロニカがアッシュに鍵を放る。


「直ぐに言わなきゃ殺すぞ」

「分からない」

「何でも直ぐに言えばいいって訳じゃない。舐めてんのか」

「じゃあそれ以外に何も言えない俺は、死ぬのか?」


 鍵を見た。何の変哲もないただの鍵だった。何度見ても。心当たりも全くない。聞いた事もない。クソ。


「この鍵でどこを開ければいい。どこに金塊があるんだ」

「それを今、考えてる」


 何も思い浮かばない。この鍵はなんだ。こうなれば最早何でもいい。ヴェロニカから時間を引き延ばす事だけを考えろ。


「朝までは待てないぞ」

「分かってる。ちょっと待て、もしかしたら俺が絨毯の仕入れをした、ショノフの店に関係があるかもしれない」

「店の名前は?」

「詳しい事は家に戻らないと」

「じゃあ戻るぞ」


 ヴェロニカは背中を向けて歩き出す。


**


 カルジーナ地区に戻った。名もなき通りの中ほどにある、六角路。その内の一本に入った先に、アッシュの家はあった。

 一階はアッシュの店、アッシュ・ルーランド商会の倉庫兼作業場、二階は寝室だった。そこに並ぶ他の家と同じく、特別性はない。小さく粗末な家だった。


「汚くて陰気な家だな。いかにもって感じだ」とヴェロニカ。


「見る目がないな、芸術作品と思ってくれ」


 アッシュは鍵を出し、扉に手を掛ける。


「どうした」とヴェロニカ。


 動きを止めたアッシュに、ヴェロニカが言った。


「開いてる」とアッシュ。

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