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第19話 約束された導きの光

 以前までの白狐びゃっこは、心を持たず討伐に明け暮れる日々であった。それが今では、邪霊ですら慈しみの念で滅するようになる。少しずつではあるも、過去の哀しみを忘れて前に進もうとする姿。こうした心境になれたのは、他でもない烏兎うとのおかげ。


 嬉しい時には、共に喜び合う温もりのある心。悲しい時には、そっと寄り添う静かなる優しき心。そんな太陽と月にも似た人柄に、姉妹達は何度も救われたに違いない。


 もしもこの出逢いがなければ、今頃どうしていたのだろう。しみじみとした白狐びゃっこの表情からは、懐かしみ思い馳せる様子が窺えた。まさにそれは、偶然ではなく必然的な結びつきともいえる。


 ゆえにお互いは惹かれ逢い、想いを共感することが出来たのかも知れない。その感情に改めて気付かされた烏兎うとは、白狐びゃっこを見つめながらゆっくりとした口調で話し出す。



「感謝…………か、そういえば? あの時に見た不思議な輝きは、そんな意味だったのかな」


 ぼんやりとした表情で過去の記憶をたどる烏兎。当時の状況をしばらく考え、脳裏に映し出された情景を静かに呟いた。


「こん。それは、どんな輝きだったの?」

「たしか……とても綺麗な透き通ったきらめきだったかな」


「こん。き通った?」

「そう、掌から溢れだした光がね、魂の欠片かけらと混ざり合い空を舞っているようだった」


 烏兎うとが見た天へと昇る美しい輝き。それは周辺の状況も少なからず影響していたのかも知れない。というのも、当時の様子は薄っすらともやが覆う早朝。ゆっくりと漂う粒子の情景は、光ときりが魅せる幻想的なデジタルアートのようであったと話す。


「こん。その光って、花びらのような形をしていなかった?」

「花びら? そう言われてみれば、似ていたような気もするけど。なんでそんなことを聞くの?」


「こん。それはね、重要なことだからよ」

「重要なこと?」


「こん。そうよ、その光は魂魄こんぱく光華こうかといってね、またの名を約束された導きの光。こう呼ばれているの」

「約束……の光? って、なんか変な呼び名だよね」


「こん。そうね、こう呼ばれる理由は訳があってね。一対いっついの光である浄化の力は、魄霊はくれいを天に帰すことしかできないの。まあ、これだけでも凄いことなんだけど。光華こうかの力は更にその上をいく、転生が約束された光の神気しんきなのよ」

「転生が約束って、そんなの誰にも分からないと思うよ」


「こん。いいえ、それが分かるのよ。だってね、私の魂は光華こうかの力によって、こうして再び蘇ったのだから」

「蘇った? 仮にそうだとしても、どうやって事実を確認することが出来るの。まるで前世の記憶を知ってるような言い方だけど」


「こん。さすが鋭いわね、烏兎うとがいうように光華こうかを浴びた魂は、記憶を残したまま転生することが出来るのよ」

「えっ、じゃあもしかして? いまの白狐びゃっこは、その人によって生まれ変わったってこと」


「こん。そうよ、浄化の力はなかった那岐なぎさまも、光華こうかの力は持ち得ていたみたい。でも私を蘇らせたのは、偶然のことらしいわ」

「偶然……? 言ってる意味がよく分からないけど」


「こん。つまりね、光華こうかの扱い方は知らないってこと。だから何故そのような力が使えるのか、理由は私にも那岐なぎさまにも分からない。ただ一つだけ確かなのは、必ずあるじの元に導かれるの」

「えっ、導かれるって……白狐びゃっこあるじ那岐なぎって人?」


「こん。もしかして、知らなかったの?」

「うん、今まで恩師だと思っていたから」


「こん。なるほど、だから不思議な顔をしていたのね。てっきり私は、気づいてるのかと思っていたわ」

「けどその人って、亡くなったんじゃないの?」


「こん。そうよ、でもどうして?」

「いや、だって、いま仕えている主は二人目だよね。だったら、二重の契約っておかしくない?」


 話の流れから分かる通り、白狐びゃっこの主は那岐なぎという人物。しかし、それだと一貫した物事の筋道が通らないことになる。というのも、ちぎりを交わせるのは一人のみ、一度忠誠を誓えば破棄することは困難。従って、血盟を破れば霊力が途絶え消滅してしまう。


 こうした事情を聞かされていた烏兎うとは、状況が吞み込めず困惑した表情を浮かべた…………。


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