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第16話 神に選ばれし存在

 辛く哀しそうな表情で、過去を想い馳せる姉の白狐びゃっこ。この心情に寄り添う妹の黒狐こっこは、そっと手を取り声をかけようとした。


「ごん。姉さま、それ以上は辛いだろう。だから、あとは私が説明するぞ」

「こん。ありがとう黒狐こっこ。じゃあ、話の続きはお願いしようかしら」


「ごん。姉さま、了解だ。――じゃあ烏兎うと、私が代わりに話すからよく聞いておけ」

「う、うん」


 白狐びゃっこにとって、那岐なぎとは思い出深い人物。となれば、過去を話すには酷であると判断したのだろう。黒狐こっこは事の経緯を姉に代わり烏兎うとへ伝えようとする。


「ごん。那岐なぎさまはな、簡単にいえば父親のような存在だ。といっても、私達のような瑞獣ずいじゅうではないぞ」

瑞獣ずいじゅうではない? 恩師と言っていたぐらいだから、君達のおさかと思ったけど。となれば……人間ってことかな?」


「ごん。残念だが、人間ではない。しかし、人ではあるのだ」

「人間ではないが、人ではある? 何だか謎解きゲームをしてる気分だけど、つまり……人を超えた神に選ばれし存在ってこと?」


「ごん。人を超えた? やはり、人間を超えることは可能なのか?」

「いや、それは……いま僕が聞いているんだけど」


 当初の状況からだと、事情を説明していたのは黒狐こっこ。ところが、いまでは質問者の立場が入れ替わる。そんなおかしな雰囲気に、烏兎うとは苦笑いしながらそっと呟いた。


「ごん。烏兎うとでも知らないのか。まあいい、それよりも神とは何だ? あれこれ難しいことを言うから、分からなくなってきたではないか」

「えっ、もしかして、九尾の狐なのに神様のことも知らないの?」


 威勢よく姉と交代した黒狐こっこではあるも、聞きなれない言葉に頭を抱え困惑する。この様子に烏兎うとは呆れた顔つきで佇むと、これを見かねた白狐びゃっこが声をかける。


「こん。そうよ、さすがは烏兎うと。大体のことは合っているわ」

「やっぱり、そうだったんだ。だから君達に、色々な知識や術を教えることが出来たんだね」


「ごん。姉さま、すまない。やはり難しい話は、私じゃ無理だ」

「こん。黒狐こっこは気にしなくてもいいのよ。あとは私が話をするわ」


「ごん。でも大丈夫なのか?」

「こん。少し動揺はするけどね、心配はいらないわ。それに、今の私には寄り添ってくれる烏兎うともいる。だから……もう過去は振り返らない」


 幾年もの月日を不安や哀しみといった感情に支配されていた白狐びゃっこ


 それぞれに抱く心情は様々であり、烏兎うと黒狐こっこの考え方も一つではない。けれども、変わらない同じ気持ちが一つだけある。それは、お互いを信じた思いやりの心。


 この固い絆があれば、どんな困難にも立ち向かって行けるに違いない。白狐びゃっこの言葉からは、そんな希望に満ち溢れた想いを察することが出来た…………。


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